

ロシアは、開発が停滞していると認識されていた第5世代ステルス戦闘機Su-75チェックメイトに関し、同盟関係にあるベラルーシ共和国との共同開発を進めるため、協議を開始したとの報道がなされている。
ベラルーシのメディア報道によれば、2025年5月21日、ロシア国営航空機メーカーであるユナイテッド・エアクラフト・コーポレーション(UAC)とベラルーシ国防産業は、第5世代ジェット戦闘機Su-75チェックメイトの共同生産に関する公式協議を開始した。ベラルーシはSu-75の共同生産への参画を通じて、ソビエト時代から停滞していた航空宇宙産業の再興を図る意図を持つと見られる。同国が本機の最初の海外顧客となる公算が高く、ポーランド、リトアニアという北大西洋条約機構(NATO)に隣接するベラルーシの航空戦力を近代化することは、ロシアにとって合理的である。北大西洋条約機構(NATO)にとっては、いわゆる「スヴァウキ回廊」(バルト三国とポーランドを結ぶ狭隘な陸路)におけるNATOの防空計画の見直しを迫られる可能性があり、ベラルーシによるSu-75の導入は、地域安全保障の均衡に重大な影響を及ぼすと推測される。ベラルーシ空軍はロシアから新型のSu-30SM2多用途戦闘機を受領するなど、近年、空軍の近代化を図っている。
Su-75 チェックメイト
Su-75は、ロシア連邦のスホーイ設計局によって開発が進められている単発エンジン搭載の第5世代ステルス戦闘機であり、主に輸出市場を対象とし、アメリカのF-35や中国のJ-35に対抗することを目的として設計された。速度はマッハ1.8から2、航続距離は3,000km、飛行高度は16.5kmに達する。7,400kgのペイロードを搭載可能であり、ミサイル及び誘導爆弾は胴体内部のウェポンベイに格納され、無人航空機(ドローン)の搭載も可能である。最大5基のミサイルを搭載でき、空対地、空対空、対レーダーミサイル、誘導爆弾など、任務に応じて多種多様な兵器を搭載することができる。また、ロシア連邦の戦闘機としては初めて機関砲を排除した。オプションとして外部に装着することは可能であるが、現代の航空戦においてはその必要性はないと判断されている。アクティブフェーズドアレイレーダーを搭載し、最大6つの目標への同時攻撃を可能とする。その他、電子偵察システム、光学誘導ステーション、及び電子戦機器を搭載している。コックピットには第5世代の制御情報フィールドと人工知能(AI)が搭載され、AIが一般的なタスクを引き継ぐことで、パイロットは戦闘任務に専念することができる。また、ロシア機としては初のスホーイのマトレシュカ自動後方支援システムを搭載している。このシステムは戦闘機の状態をリアルタイムで評価し、事前に修理・整備作業を計画し、スペアパーツの注文・納品を行うことができる。開発者によれば、これによりコストが大幅に削減され、アフターサービスの効率が向上する。
開発は頓挫
2021年のMAKS航空ショーにてモックアップが公開されたSu-75は、ロシアが手頃な価格帯での第5世代戦闘機市場獲得を企図した機体である。単発エンジンとモジュール式アーキテクチャを採用したSu-75は、西側諸国の第4.5世代及び第5世代プラットフォームと比較して数分の一のコスト、1機あたり4,000万ドル以下でのステルス性能と高度なアビオニクス提供を目指している。制空権確保と対地攻撃能力を兼ね備えた多用途戦闘機としての役割は、米国や欧州のジェット機に匹敵する能力を財政的負担を抑えつつ求めるベトナムやミャンマー等の中堅国にとって魅力的である。もし開発が成功すれば、第5世代ステルス戦闘機市場における大きなシェア獲得が期待される。しかしながら、Su-75の開発はウクライナ侵攻に伴う国際的な制裁、供給網の問題、そして戦争に伴い新規兵器開発に割けるリソースの不足により大幅な遅延が発生している。当初2023年に予定されていた初飛行は、2024年、そして2025年へと延期されている。
ロシア連邦は開発の遅延を挽回し、制裁を回避するため、友好国に対して共同開発を提案した。過去にT-90S戦車やSu-30MKI戦闘機の共同生産で実績のあるインドに提案を行ったとされているが、現時点では、その進展は見られていない。インドは国産の第5世代ステルス戦闘機AMCAの開発を加速させており、Su-75の共同開発には参加しないと推測される。ロシアの兵器輸出企業は中東や東南アジアで開催される防衛展示会に積極的に参加し、Su-75のモックアップを展示しているが、共同開発国は見当たらない状況である。
今回、ロシア連邦はベラルーシとの共同開発協議を開始した。しかしながら、ベラルーシとの開発には大きなメリットは見出しにくい。ベラルーシの航空宇宙技術は、旧ソ連時代の技術基盤を継承しつつ、一部分野で独自の能力を維持・発展させているものの、本格的な航空機の設計・製造能力は限定的であり、ロシアに大きく依存している。ベラルーシは「航空機を製造可能な国」ではなく「航空機の整備・支援が可能な国」とされている。Su-75は依然として試作機の開発段階にあり、プロトタイプも完成していない。結果として、開発はロシアに委ねられる可能性が高い。