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ロシアの原子力ミサイル巡洋艦アドミラル・ナヒーモフが25年間の工事を終え復帰

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SNS より

ロシア海軍の原子力巡洋艦「アドミラル・ナヒーモフ(Admiral Nakhimov)」が、実に約30年におよぶ長い修理と近代化改修の末、ついに航海試験のため出航し、その復活を告げた。これは、冷戦終結後のロシア海軍が抱える財政的、技術的な困難を象徴する出来事であり、同時にロシアの軍事力再編における重要な一歩と見なされている。

Russia’s missile cruiser Admiral Nakhimov takes to sea for trials after heavy upgrade

ロシア国営メディアのTASS通信は8月18日、大型原子力ミサイル巡洋艦「アドミラル・ナヒーモフ」が大規模な修理と改修作業を終え、造船所による海上試験を開始するため出航したと報じた。SNS上には、その巨大な船体が静かに港を離れる様子を捉えた映像が多数投稿され、世界中の軍事愛好家やメディアの注目を集めている。TASS通信は信頼できる情報筋の話として、「重原子力ミサイル巡洋艦アドミラル・ナヒーモフは造船所の海上試験のため海上に出た」と伝え、試験の第一段階は白海で実施され、その後、数ヶ月にわたりバレンツ海で試験が継続される見込みだとしている。この海上試験は、艦の全てのシステムと兵装が設計通りに機能するかを確認するための最終段階であり、これが成功すれば艦は北方艦隊に正式に復帰する。

四半世紀に及ぶ改修工事

「アドミラル・ナヒーモフ」は、ソ連時代の1983年に建造が開始されたキーロフ級原子力ミサイル巡洋戦艦の3番艦である。1988年に「カリーニン」の名でソビエト海軍に就役し、北方艦隊に編入された。しかし、就役後間もなく冷戦が終結し、ソ連が崩壊すると、ロシア海軍は壊滅的な財政的打撃を受け、その運用コストが膨大である原子力巡洋艦の維持は極めて困難となった。原子炉の維持、多数の乗員、複雑な補給体制など、当時のロシア海軍にはその余力がほとんどなく、結局、ほとんど実戦に投入されることなく1999年には保管状態に置かれていた。

その後、2006年に近代化改修が決定し、ようやく工事が開始された。当初は小規模な改修で済ませる予定だったが、工事が進むにつれて「最新兵装を積もう」という要求が拡大し、そのたびに工事計画が見直され、結果として改修期間は長期化した。一度は改修自体が中断する事態に陥ったが、2014年に作業が再開され、2018年の復帰を予定していた。しかし、クリミア侵攻に伴う経済制裁の影響で必要な部品の入手が困難となり、再び遅延。その後も度重なる遅延に見舞われ、2020年8月にようやくドライドックから再進水した。2023年5月には、当時のセルゲイ・ショイグ国防相が「2023年後半に性能試験を実施し、2024年末までに全ての修理とアップグレードを完了して海軍に復帰させる」と述べていたものの、これも遅延。結局、今年1月には新しい原子炉が搭載され、7月には間もなくロシア海軍に復帰する可能性があると報じられていた。同艦はこれまで何度も遅延を繰り返し、修理期間は既に四半世紀を超えていたため、今回も遅延が懸念されていたが、約30年ぶりに自力で出航したことは、その長期にわたる苦難の改修作業がついに実を結んだことを意味する。海上試験が順調に進めば、北方艦隊に正式に編入される予定だ。

全体として、この艦の修復と近代化には約25年、まさに四半世紀という途方もない歳月が費やされた。さらに、その費用は2,000億ルーブルを超えるとされており、日本円にして3600億円以上という巨額に上る。一部の専門家からは、「新造艦を建造した方がはるかに安上がりだったかもしれない」という指摘もなされているほどだ。

ミサイル攻撃能力が大幅に向上か

しかし、その莫大な費用と時間をかけた改修によって、「アドミラル・ナヒーモフ」は旧ソ連時代の遺物から、現代の最新鋭兵器を搭載した強力な戦力へと生まれ変わった。全長252m、幅28.5m、満載排水量2万8000トン、最高速度30ノット(約55km/h)という巨体に、目的と種類が異なる最大478発ものミサイルを搭載。近代化改修では10基以上の垂直発射システム(VLS)が追加され、ミサイル発射能力は飛躍的に向上している。

特に注目されるのは、搭載される兵装の刷新だ。最大20発を搭載するP-700グラニット対艦ミサイルは核弾頭も搭載でき、超音速のマッハ2.5で飛行し、600kmの射程を有する。さらに今回の改修によって、P-800オーニクス超音速対艦ミサイル、そして、射程1000kmでマッハ9で飛行する「ツィルコン」、ウクライナでも使用されている「キンジャール」といった「極超音速ミサイル」の搭載が噂されており、その攻撃力は格段に高まった。また、最大100km離れた潜水艦を無力化できるオトヴェト対潜ミサイルの搭載も報じられている。防空能力についても、キーロフ級には長距離防空ミサイルのS-300FMが搭載されていたが、S-400または最新のS-500に置き換わっているとされ、その防空網はより強固になった。キーロフ級には6基のパンツィーリ-M近接対空防御兵器システムを含む200発以上の対空ミサイル(SAM)が搭載されており、近接防御も万全だ。主砲もAM-130連装130mm艦砲から新型AK-192M単装130mm艦砲に置き換えられ、レーダー、火器管制装置、電子戦装備も最新のものに入れ替わっているとされる。

キーロフ級ミサイル巡洋艦は合計4隻が建造されたが、1番艦の「キーロフ」と2番艦の「フルンゼ」は既に退役し、解体されている。他に現役なのは4番艦の「ピョートル・ヴェリーキイ」だが、こちらは近代化改修が実施されておらず、退役が度々報じられている。「アドミラル・ナヒーモフ」の改修にこれだけの年月と費用がかかったことを鑑みると、「ピョートル・ヴェリーキイ」は「アドミラル・ナヒーモフ」の復帰に伴い退役する可能性が高いと見られている。

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