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兵士が突然倒れた⁉ベネズエラで浮上した高出力エネルギー兵器説

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1月3日に米軍がベネズエラのマドゥロ政権中枢に対し実施した軍事作戦を巡り、「通常の兵器では説明不可能な急性症状の兵士が発生した」「高出力エネルギー兵器(Directed Energy Weapon=DEW)が使用された可能性がある」との憶測が、一部メディアやSNSを通じて急速に拡散した。

この「目に見えない攻撃」を巡る疑惑は、孤立した事例ではない。遡れば、2020年の中印国境ラダックでの衝突における「中国軍によるマイクロ波兵器使用説」、さらには米外交官を襲ったとされる原因不明の症状「ハバナ症候群」の経験と重なり、現代戦において新型・非公開兵器が実在するのではないかという関心を世界的に高めている。しかし、これらの主張は本当に「新兵器による攻撃」の確たる証拠に基づいているのか。あるいは、戦場の霧、情報戦、そして人間心理が生み出した現代的な「噂」に過ぎないのだろうか。

US used powerful mystery weapon that brought Venezuelan soldiers to their knees during Maduro raid: witness account

 ベネズエラ攻撃で浮上した“高出力エネルギー兵器使用説”

ベネズエラ政権中枢を標的とした米軍による大規模作戦が1月3日に実施されたとの報道後、現地からは不可解な報告が相次いだ。報道によると、「マドゥロ大統領の警護隊員が突然、激しい嘔吐、鼻血、耐え難い激痛を訴え、戦闘不能に陥った」、また「爆発音や銃声といった物理的な攻撃の痕跡がないにもかかわらず、ベネズエラ軍の陣地が放棄された」といった証言が広まっている。ベネズエラの警護員へのインタビューとして、『ニューヨーク・ポスト』紙は、「米軍は銃よりも強力な何かで武装していた」と報じた。さらに、「ある瞬間、彼らは何かを発射したが、非常に強烈な音波(sound wave)のようだった。頭の内側で爆発が起きる感覚がした」という証言も伝えている。これらの証言から、元米情報当局の消息筋を引用する形で、米軍が極超短波などの高出力エネルギーで目標を攻撃する指向性エネルギー兵器(DEW・directed energy weapon)を使用した可能性が浮上している。

この現象を説明する仮説として、すぐに「高出力マイクロ波兵器」「音響兵器」、あるいは「未知の指向性エネルギー兵器(DEW)」が使用されたのではないかという憶測が広まった。指向性エネルギー兵器(DEW)とは、レーザー、マイクロ波、粒子ビームなど、エネルギーを指向性を持たせて発射し、目標を破壊または無力化する兵器の総称だ。現時点で、米政府および米軍は、ベネズエラでのDEW使用を一切公式に認めていない。また、これらの症状や陣地放棄の原因を特定するための独立した検証結果も公表されていない。このため、戦場における心理的な混乱、スモークや催涙ガスといった化学刺激物や閃光弾による影響、あるいは単に事実が誇張された報道であった可能性など、他の要因を排除することはできない。結論として、ベネズエラにおけるDEW使用の主張は、現時点では確たる証拠を欠いた噂の域を出ていない。

米軍のDEW開発状況

ベネズエラでのDEW使用説がこれほど急速に広まった背景には、「米軍がすでにレーザーやマイクロ波兵器を実用化している」という事実が存在する。米国は20年以上にわたり、指向性エネルギー兵器の研究開発に巨額の投資を行ってきた。その代表的な例は以下の通りである。

  1. Active Denial System (ADS) – 非致死性兵器:
    ミリ波を使用して人体表面の水分を瞬時に加熱し、強烈な痛みを与える非致死性兵器システム。暴徒鎮圧などを目的として開発され、一部で試験配備されたものの、実戦での公式使用は確認されていない。
  2. CHAMPミサイル – 電子機器破壊兵器:
    Counter-electronics High-powered Advanced Missile Project (CHAMP) は、高出力マイクロ波を発生させ、敵の電子機器(レーダー、通信システムなど)のみを破壊・無力化することを目的とした実証兵器。試験成功は公表されているが、実戦での使用実績は未公表である。
  3. 海軍レーザー兵器(HELIOS等):
    無人機(ドローン)や小型艇の迎撃を主な目的とする艦載型の高出力レーザー兵器システム。すでに一部の艦船に搭載され、実証運用段階にあることが公表されている。
  4. 航空機搭載防御レーザー(SHiELD):
    Self-Protect High Energy Laser Demonstrator (SHiELD) は、航空機自体を防護するために、飛来するミサイルなどを迎撃することを目的としたレーザーシステム。現在は研究開発・実証の段階であり、実戦部隊への本格的な量産配備には至っていない。

これらの米軍が公開しているDEWは、いずれも「電子機器の破壊」または「限定的な非致死効果」を目的としている。公開情報上、”兵士を内部から焼き尽くす” “瞬時に部隊全体を無力化する”といった、SF映画に登場するような超兵器は存在しない。つまり、米軍はエネルギー兵器の研究・限定運用を進めているのは事実だが、ベネズエラで噂されたような「人体に即座に壊滅的な影響を与える超兵器」の存在を示す証拠は、公には存在しないのである。

類似の疑惑事例:中国・インド国境と「ハバナ症候群」

「見えない兵器による攻撃」という言説は、ベネズエラ以前にも国際的な関心を集めてきた。

1. 中国軍の「対インド・マイクロ波兵器使用説」(2020年)

2020年、中印国境ラダック地域での衝突が発生した後、中国側の一部のメディア関係者や軍事評論家が、「中国軍は高出力マイクロ波兵器を使用し、高地にいたインド兵を短時間で退却させた」と発言したことが波紋を呼んだ。彼らの主張では、「高地のインド兵が突然激しい嘔吐や頭痛に見舞われ、戦闘どころではなくなり陣地を放棄した」と説明されていた。しかし、インド国防省および陸軍はこの主張を公式に否定している。国際メディアによる独立した確認作業も行われたが、「証拠は確認できない」という結論に達している。一方で、中国が軍事展示会で対ドローン用の高出力マイクロ波システムを公開している事実から、「中国がマイクロ波兵器を開発している」こと自体は真実である。だが、「人体を標的とした実戦使用」の証拠は、米軍の事例と同様に存在しない。

2. ハバナ症候群(2016)

この種の議論において、必ず原点として登場するのが「ハバナ症候群」である。2016年以降、キューバのハバナに勤務していた米外交官や情報機関職員が、頭痛、めまい、耳鳴り、記憶障害といった原因不明の神経学的な症状を訴えた。当初、米政府内部からも「マイクロ波や音響兵器による攻撃ではないか」という疑惑が浮上し、世界的な注目を集めた。しかし、数年にわたる医学調査と情報機関による調査の結果、「外部からの兵器攻撃を示す決定的かつ一貫性のある証拠」は発見されていないという結論に傾いている。症状の一部は、ストレス、環境要因、または「心理的集団反応(マス・ヒステリー)」の可能性が高いと指摘されている。ハバナ症候群は、結果的に「未知の兵器が存在するのではないか」という根拠なき恐怖が、情報空間で独り歩きし、自己増殖する現代的な典型例となった。

ベネズエラ、中印国境、ハバナ症候群という一連の疑惑を貫く構造には、以下の三つの要因が背景にある。

  1. DEW研究の現実的進展: 米国や中国といった大国が、実際にレーザーやマイクロ波兵器の研究開発を進めているという事実が、疑惑の現実味を帯びさせる。
  2. 戦時の情報統制とプロパガンダ: 紛争地域では、情報が高度に統制・操作され、敵対勢力の士気を下げるための心理戦やプロパガンダが常態化する。「超兵器による攻撃」という噂は、敵に恐怖を与える極めて強力なプロパガンダツールとなる。
  3. 人間心理の特性: 兵士や民間人が戦場や特殊な環境で不可解な症状に見舞われた際、人間は「原因不明の自然現象」よりも「何者かによる意図的な攻撃」を想定しやすいという心理的傾向がある。

「エネルギー兵器の研究が存在する」という事実から、「未公開の実戦兵器が開発されているに違いない」という推測が生まれ、さらに「不可解な症状や現象が発生した=それは兵器使用の結果である」という連想へと繋がります。この連鎖的な思考が、「見えない兵器」に関する一連の疑惑を駆動する共通の構造となっている。また、米軍最強の特殊部隊デルタフォースによる奇襲や電光石火の作戦、あるいはマドゥロ大統領警護隊の全滅といった出来事が、「誤情報や誇張」を広める原因となった可能性も考えられる。

米軍も中国軍も、高出力エネルギー兵器(DEW)の研究開発を進め、限定的ながらも配備しているのは厳然たる事実である。しかし、人体を直接攻撃し、即座に戦闘不能に陥れるような「超兵器」の実戦使用は、ベネズエラ、中印国境、ハバナ症候群のいずれの事例においても、独立して確認された確たる証拠がない。 これらの疑惑は、現時点では「証拠不十分な主張」または「誤情報・誇張報道」の可能性が極めて高い。とはいえ、DEW技術自体は着実に進歩している。ドローン迎撃用のレーザーや、電子機器破壊用のマイクロ波兵器は、今後数年のうちに戦場の標準装備になる可能性が高い。だからこそ、「すでに存在する技術(電子機器破壊、非致死効果)」と「現時点では存在しない超兵器」を冷静に区別する情報リテラシーが、今後ますます重要となる。米軍も中国軍も、間違いなく“エネルギー兵器時代”の入り口に立っている。しかし、ベネズエラで兵士を一瞬で倒したとされる“謎のビーム兵器”は、今のところ現実の脅威ではなく、情報空間を飛び交う噂に過ぎないと思われる。

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