

アメリカは21日土曜日、イランの核施設3カ所に対し「ミッドナイト・ハンマー作戦」と称する攻撃作戦を実施しました。この作戦において、アメリカ本土より発進した7機のB-2ステルス戦略爆撃機は、往復37時間におよぶ連続飛行を行い、地球を半周するという航空史上稀に見る任務を完遂しました。この任務に従事したパイロットたちの実情が明らかになりました。
CNNは、元B-2パイロットであるメルビン・G・デイル氏への取材を通じて、長時間作戦におけるパイロットの状況を明らかにしました。元空軍大佐のデイル氏は、2001年にアフガニスタン上空で44時間に及ぶ爆撃任務を遂行し、現在もその最長記録を保持しているB-2爆撃機のパイロットです。デイル氏は今回の作戦の成功を「信じられないほどの偉業」と評価しています。
デイル氏によると、B-2の任務資格を持つパイロットは、睡眠サイクルを計画するための長時間シミュレーター訓練を受けていますが、これらのシミュレーターは通常24時間までしか使用できません。したがって、24時間以上の飛行は未知の領域となります。爆撃機の乗組員は事前に任務に就くことは知らされますが、作戦がいつ行われるのか、あるいはそもそも行われるのかどうかさえも知らされないといいます。デイル氏によれば、航空医が作戦前の数日間、乗組員に睡眠薬を投与し、休息を取らせていたとのことです。「大統領の命令があれば、翌日夜には飛ぶことになるだろうということは分かっていた」とデイル氏は語っています。2001年の任務当日、作戦指揮官を務めたデイル氏は、離陸時刻の3~4時間前に起床し、パイロットおよび編隊を組んでいた他のB-2の乗組員とのブリーフィングに参加した後、相棒と共に離陸しました。
睡眠と休憩
B-2スピリット戦略爆撃機のコックピット内部
— ミリレポ (@sabatech_pr) June 23, 2025
機内にはトイレ、電子レンジ、小型冷蔵庫も装備されている。一人のパイロットが操縦している間、もう一人のパイロットが横になって休むのに十分なスペースもある。pic.twitter.com/Gi64uqiabR
デイル氏によれば、B-2のコックピット後部には簡易ベッドの仮眠スペースがあり、2人のパイロットは数時間おきに交代で睡眠と休憩を取る体制が取られています。他のパイロットの証言によると、寝袋を使用すれば十分とは言えないまでも睡眠が可能であり、耳栓とアイマスクも利用するとのことです。また、ルートや時間帯によっては太陽を追う事になり、ずっと日光を浴びる事になり、時間間隔が分からなくなりますが、パイロットは睡眠を促す術を身に着けています。デイル氏が在任していた期間の規定では、離陸、給油、爆撃、着陸といった飛行の重要な瞬間には、乗務員は2人とも必ず操縦席に着席していなければなりませんでした。特に空中給油は高度な集中を要するため、仮眠前後に行うよう計画され、今回のミッションでは3~5回の空中給油が行われたとされています。空中給油の合間に3、4時間ほど仮眠をとることができたとデイル氏は述べています。ミッション中は数時間ごとにシステムチェックやナビゲーション確認を行い、眠気を防止し、集中力を維持します。デイル氏によれば、軍医から刺激薬であるアンフェタミンも処方され、意識と集中力を維持するために服用していたとのことです。デイル氏は、20年が経過した現在、方針が変わっている可能性があると述べています。
トイレ
コックピット後部には化学トイレ装置が搭載されています。B-2は設計当初、ステルス性能を重視し、コックピット内のスペースが制限されていたため、排泄用装置は備えられておらず、以前の任務では「簡易トイレ」や「オムツ」などを使用していました。しかし、近年の長時間戦略ミッション(37~44時間)に対応するため、化学トイレなど最低限の設備が搭載されました。トイレと操縦席の間には仕切りはありません。しかし、あくまで簡易的なものであり、パイロットは、溢れかえるのを避けるため、「より緊急な状況」でのみ使用するとのことです。一部のミッションでは、小型の尿収集バッグシステムも使用されます。ウェットティッシュ、替えの下着、消臭剤なども携行され、機内での最低限の衛生管理が行われています。
食事
高高度かつ与圧されたコックピットはパイロットの脱水症状を引き起こす可能性があり、水分補給は不可欠です。デイル氏によると、1時間おきにペットボトル1本分の水分を摂取していました。食事はMRE(レーション)や加温不要の軽食が中心ですが、電子レンジと冷蔵庫が装備されており、温かい食事や飲み物、冷たい飲料も摂取することが可能でした。自身で軽食を持ち込むこともできます。また、集中力の持続と眠気対策にエナジードリンクやコーヒーといったカフェイン飲料を摂取します。デイル氏によれば、任務中は操縦席に座っているか、仮眠をとるだけで、エネルギーを消費しないので、食事をとった記憶はあまりないとのことです。
B-2戦略爆撃機を運用する第509爆撃航空団の拠点であるホワイトマン空軍基地には、長時間飛行が人体に与える影響を専門とする医師と生理学者のスタッフが配置されています。彼らは、新人パイロットが長時間飛行任務におけるパフォーマンスを向上させる技術を習得できるよう支援し、睡眠周期の事前調整、ストレス管理技術、集中力の維持、栄養・水分管理の指導、疲労を防ぐ方法に関する情報を提供しています。任務に就けるのは事前の心理評価や耐久訓練を受けた選抜搭乗員のみとなっています。
ステルス機であるB-2スピリットは、敵地に侵入して爆弾を投下し、生存して生還できる世界で唯一の戦略爆撃機です。生産機数はわずか21機で、運用中の20機すべてがホワイトマン空軍基地に配備されています。今回、イラン空爆には7機が参加しました。さらに囮として複数機がグアムに向かって飛行しており、ミッドナイト・ハンマー作戦には飛行可能なB-2のほぼ全てが参加したとされています。