

南米ペルーの次期戦闘機導入計画が、単なる軍備調達の枠を超え、国内政治を揺るがす国際的な大スキャンダルへと発展している。長らくスウェーデン製のJAS 39 Gripenが有力候補として評価されてきたにもかかわらず、最終的に米国製のF-16 Block 70が選定されたことで、この急転換の背景に「米国からの強力な政治的圧力があったのではないか」という疑念が、ペルー国内はもとより国際社会からも強く浮上している。
F-16: Advancing the Future of Peru’s Air Defense
Peru makes first payment in F‑16 deal after ministers quit in clash with president
老朽化に直面したペルー空軍「グリペン」にほぼ決定


問題の発端は、ペルー空軍が抱える深刻な老朽化問題にある。同国が現在運用しているのは、旧ソ連製のMiG-29とフランス製のMirage 2000だが、これらはいずれも設計から数十年が経過し、部品の調達難、高い維持費、そして稼働率の低下という、運用上の慢性的な課題に直面していた。特に、近年における国際情勢の変化は、ロシア製装備の補給体制維持を極めて困難にしており、新型戦闘機の導入は喫緊の課題であった。こうした背景のもとで進められた次期戦闘機選定において、スウェーデンのSaab JAS 39 Gripenは、長期間にわたり最も有利な立場に位置づけられていた。
- 経済合理性: グリペンは、F-16と比較して取得費用と運用コストが低い点が最大の魅力とされた。財政的な制約が大きいペルーにとって、この経済性は極めて重要な評価ポイントだった。
- 地域協力の利点: すでにブラジルがグリペンの導入・ライセンス生産を進めていることから、ペルーがグリペンを採用すれば、南米域内での整備協力、パイロットの訓練体制の共有が可能になり、長期的な維持費の大幅削減が期待されていた。
実際に、2025年7月には、当時のディナ・ボルアルテ政権がグリペン24機を購入する方針を発表しており、計画はグリペン採用で既定路線にあるかのように見られていた。
衝撃的な急転換:F-16 Block 70の採用
この「グリペン優勢」の流れは、突如として、そして不可解な形で断ち切られる。2026年4月、ペルー政府は最終的な選定機として、米国製のF-16 Block 70を採用し、初回ロット12機、最大24機を米国から購入する契約を締結したと発表したのである。この決定は、それまでの選定過程における評価を完全に覆すものであり、国内の軍事・政治関係者の間に大きな衝撃と困惑をもたらした。価格や運用面で優位とされてきたグリペンを排し、より高価で運用コストも高いとされるF-16への切り替えは、軍事的・技術的な合理性だけでは説明がつかないとされ、「なぜ突然、逆転したのか」という疑問がペルー社会全体で共有されることとなった。
F-16採用を巡る最大の論点は、その背景に「米国からの政治的影響」があったのではないかという疑惑である。F-16を採用することで、ペルーは米国との軍事協力を大幅に強化でき、訓練機会の拡大、兵器供給の安定化、そして安全保障面での支援強化という政治・外交上の大きなメリットを享受できると見られている。しかし、このメリットの裏側で、ペルーの国家意思が米国によって大きく左右されたのではないか、という疑念が深まっている。
疑惑を深めたのは、選定プロセスにおける透明性の極度の欠如である。
- 暫定政権下での巨額契約: ペルーは深刻な政治的混乱の最中にあり、政権基盤の弱い暫定政権が、最大で約35億ドル規模にも上る巨額の軍備契約を強行したこと自体が、その正当性を巡って強い疑問符を投げかけられている。
- 政府内での合意無視: 一部の現地報道は、契約が政府内での十分な合意形成を経ることなく進められた可能性を指摘している。さらに、大統領の意向を無視して契約が強行された可能性、一部が「秘密裏に署名された」可能性まで報じられており、大統領自身が「自分はこの件には関与していない」と認める異例の事態となった。そのため、大統領は「現政権では行わない」とし、7月に就任する次期政権に決定を委ねる方針を表明した。
- 閣僚の辞任: この一連の混乱と大統領の決定に抗議するかのように、国防相や外相といった重要閣僚が辞任する事態に発展。混乱の中、22日に初回代金として4億6200万ドルを支払い、計画を強行する動きを見せた。問題は単なる装備調達を超え、ペルーの政治危機の一端を露呈している。
財政負担と社会的議論の噴出
今回の戦闘機導入計画は、最大35億ドル規模と見積もられており、これは2024年時点のペルーの防衛予算(約25億ドル)を大きく上回る、国家財政にとって極めて大きな負担となる。そのため、国内では「この巨額の支出は本当に今必要不可欠なのか」という、より根本的な議論が巻き起こっている。周辺国に軍事的脅威はなく、医療、教育、インフラ整備といった社会分野への投資を優先すべきだという声が強く、この社会的な背景も、戦闘機選定問題を単なる軍事調達ではなく、国民の生活と未来に関わる政治的な争点へと押し上げている。
今回のペルーの決定は、国内問題にとどまらず、南米地域の戦略バランスにも長期的な影響を及ぼす可能性がある。現在、南米諸国は、チリとアルゼンチンが既にF-16を運用し、ブラジルとコロンビアがグリペンを採用するという、米国系と欧州系の装備が混在する構図となっている。ペルーがF-16を採用することで、地域における戦闘機勢力図はさらに複雑化し、この装備体系の選択が、単なる兵器調達を超えて、長期的な外交・安全保障政策、ひいては地域内での米国の影響力を左右する決断となる。
ペルーの戦闘機選定問題は、純粋な軍事的合理性に基づくものだったのか、それとも、米国からの政治的圧力や、国内の政治的力学が引き起こした結果だったのか。問われているのは、「どの機体を選ぶか」ではなく、「国家がどのような意思決定プロセスによって、誰のために未来を選ぶのか」という点に他ならない。この不透明な契約の全容が明らかになるまで、疑惑の目は晴れないだろう。
