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ウクライナの戦場が生んだアサルトライフル対応対ドローン弾「Horoshok」

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SNSより

ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、戦場の様相は劇的に変化した。その最も象徴的な存在が無人航空機(UAV)、とりわけ安価で大量投入が可能なFPV(一人称視点)ドローンである。これらの小型UAVは、かつては高価な対戦車ミサイルや航空機が担っていた役割を部分的に代替し、戦車や装甲車といった主要な戦闘車両はもちろん、塹壕内の歩兵や後方の補給部隊にまで深刻な脅威を与えている。この「ドローン脅威」に対し、ウクライナ軍が実戦配備を進める、きわめて独創的かつ実用的な解決策が、対ドローン弾「Horoshok(ホロショク)」だ。

Horoshok弾の最大の特長は、対空ミサイルシステムや高価で複雑な電子戦(EW)装備といった専門的な機器に頼ることなく、歩兵が携行する通常のアサルトライフルでドローンを迎撃することを可能にした特殊弾薬である点だ。この弾薬は、ウクライナ軍で最も広く普及している2種類の口径、すなわちNATO規格の5.56×45mmと、旧ソ連規格の5.45×39mmが用意されている。これにより、ウクライナ軍の既存の小銃に特別な改造を加えることなく、そのまま装填して運用できる。これは戦術的に極めて重要な意味を持つ。特別な発射装置や高度な照準機材を必要としないため、最前線にいる歩兵部隊が即座に運用を開始できる。ドローンが視認された瞬間、射撃による即応性の高い対抗手段となり、高価な専門装備の配備を待つ必要がないのだ。

Horoshok弾の詳細な構造は軍事機密に分類されているが、公開されている情報からは、通常の小銃弾では難しい高速で不規則な動きをする小型ドローンに対する命中確率を高めるための工夫が施されていることが窺える。具体的には、弾道の特性や、ドローンを構成する軽量な機体やプロペラ、センサー類を破壊するための最適化された破壊効果が追求されているとされる。これにより、従来の通常弾薬と比べて、近距離でのドローン迎撃能力が飛躍的に向上していると見られる。実戦で想定されている有効距離は、5.56mm弾で約50メートル、5.45mm弾で約60メートルと公表されている。これは一見短く見えるかもしれないが、FPVドローンが歩兵に肉薄し、自爆攻撃や爆薬投下を仕掛ける直前の「クリティカルゾーン」をカバーするものであり、対FPVドローン対策としては極めて現実的な交戦距離と言える。

「装備の隙間」を埋める戦術的意義

現代の戦場では、ロシア軍がFPVドローンを用いて車両のハッチや塹壕内部といった脆弱な箇所に爆薬を突入させる攻撃が常態化している。これに対し、電子妨害(EW)は有効な手段だが、技術革新により妨害を突破する手段も次々と開発されており、常に万能ではない。また、高性能な対空ミサイルシステムや機関砲は、コストや配備数の制約から、すべての最前線部隊をドローン脅威からカバーすることは現実的に難しい。Horoshok弾は、まさにこの「装備の隙間」を埋める存在として設計された。最前線の歩兵が自らの小銃でドローンに対抗できるという事実は、戦術的な優位性だけでなく、ドローンによる常時の脅威に晒される兵士たちの心理的な安定にも寄与する効果がある。

ウクライナ国防当局の情報によれば、Horoshok弾はすでに軍の承認を受け、実戦部隊への配備が急速に進められている。さらに注目すべきは、その生産体制が急速に拡大している点であり、月産40万発規模を目標とした増産が行われているとされる。この数字は、Horoshok弾が一部の特殊部隊向けのニッチな装備ではなく、歩兵全体への広範な標準装備として位置づけられていることを明確に示している。これは、すべての兵士にドローン対処能力を持たせるという、ウクライナ軍の現実的な判断を反映している。

Horoshok弾は、最先端の技術を駆使した「ハイテク」装備というよりも、戦場の切迫した現実とニーズから生まれた「ローテク」な実用的な解決策である。高価な装備に依存せず、既存の武器体系を創意工夫で活用して新しい脅威に対応するというこのアプローチは、現代の戦争が直面する「ドローンによる消耗戦」における一つの重要な方向性を示している。ドローンが戦場の「消耗品」となった今、対抗手段もまた、コスト面で持続可能でなければならない。Horoshok弾は、その象徴的な存在として、今後、他国の軍隊がドローン脅威に対処する上でも、大きな影響を与える可能性を秘めている。

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