

2025年5月末、イスラエル国防軍(IDF)は、レーザー兵器の実戦における初使用を公式発表した。当該レーザー兵器は「アイアンビーム(Iron Beam)」と呼ばれる、ラファエル社が開発した高出力レーザー防空システムである。今般の実戦投入は、レバノンより飛来するヒズボラの無人航空機(ドローン)を迎撃するために使用された。
A World First — Combat-Proven Laser Defense, Powered by Rafael
— Rafael Advanced Defense Systems (@RAFAELdefense) May 28, 2025
For the first time in history, high-power laser systems have been used to intercept aerial threats in combat.
This unprecedented breakthrough took place during the Swords of Iron War — with Rafael’s advanced… pic.twitter.com/B3D6UdCJvE
2025年5月28日、イスラエル国防省は、空軍がレーザー防衛システム「アイアンビーム」を用いて、武装組織ヒズボラがレバノンから発射した多数の無人航空機を迎撃した旨を発表した。これは、レーザー兵器が実戦において効果的に使用された世界初の事例とされ、イスラエルは本技術の実用性を証明した最初の国家となった。開発元であるラファエル社のユヴァル・シュタイニッツ会長は、「イスラエルは高出力レーザー技術を完全な戦闘システムへと転換し、実戦迎撃を行った世界初の国である」と述べた。
配備基数及び使用状況については明らかにされていないが、今回使用されたのはアイアンビームの試作型であり、量産版ではない。ただし、試作機や射程距離が限定された検証システムではなく、実戦に対応したモデルとされている。アイアンビームの正式な配備は2025年末までに予定されている。
Iron Beam(アイアンビーム)


Iron Beam(アイアンビーム)は、イスラエルの軍需企業ラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズが開発するレーザー防衛システムであり、イスラエルの多層防空システムの一部として設計されている。短距離防空ミサイルシステムのアイアンドームや中距離防空ミサイルシステムのダビデ・スリングと連携して運用することを目的として開発された。
アイアンビームは”指向性エネルギー兵器システム”に分類され、100kW級の高出力ビームを数km先の標的に照射し、起爆又は内部の電子機器を破壊することで脅威を無効化する。これまでの試験において、ドローン、迫撃砲、ロケット弾、ミサイルといった空中脅威の迎撃に成功している。アイアンビームの最大の特徴は、レーザーという物理的制約のないものを使用する点にある。防空ミサイルシステムであるアイアンドームの場合、ランチャー1基あたりの装弾数は20発であり、それを超える飛翔体が飛来した場合、対処しきれず、また、撃ち終わると数十分かけて再装填するか、新たなランチャーを配置する必要があり、防空任務に空白時間が生じる。これに対し、アイアンビームはレーザー兵器の特性上、弾薬の補充が不要であり、エネルギーが続く限り、連続して多数の目標を迎撃できる利点を有する。送電網と接続されていれば、無制限に照射可能である。
また、コストが低いのも特徴であり、高価なミサイルに対し、アイアンビームのレーザー1ショットあたりの単価は”3.50ドル”と格安である。安価なロケット弾や無人機にその数倍のコストがかかるミサイルを使用していた状況から、アイアンビームが機能することで費用対効果は逆転する。ラファエル社は、アイアンビームの軽量版である「ライトビーム(Lite Beam)」も開発しており、こちらは小型車両に搭載可能な10kW級のレーザーシステムとして、近距離の無人機や迫撃砲弾等の迎撃を目的としている。
2023年10月に始まったイスラエルとハマスの戦争には、ハマスを支援するイラン、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシが介入し、数十から数百初のミサイル、ロケット弾、無人機攻撃を実施した。イスラエルの防空処理能力を超える場合や、連日の攻撃で防空ミサイルが枯渇する状況も発生した。そのような状況下、イスラエル軍はラファエル社にアイアンビームの開発を急ぐよう依頼していたとされる。今回の迎撃の半年前には、実戦運用に向けた予備部隊が編成され、訓練を行っていたとイスラエル軍は現地メディアに語っている。
今回のイスラエルのレーザー兵器の実戦投入と迎撃成功は、他国に先駆けた画期的な出来事であり、今後の防空戦略に大きな影響を与えると考えられる。日本を始め、アメリカ、イギリス、そして戦争中のウクライナとロシア等、各国がレーザー兵器の開発を進めているが、実戦で迎撃に成功したのは今回が初めてである。ロシアが2022年5月にウクライナにレーザー兵器「ペレスヴェート(Peresvet)」を投入したと発表しており、これが実戦投入されたレーザー兵器としては初とされるものの、未だ迎撃に成功したという情報は確認されていない。
レーザー兵器は、低コストで連続使用が可能である点や、弾薬の補給が不要である点等、多くの利点を有するが、天候や視界条件に影響を受けやすいという課題も存在する。その点、イスラエルは乾燥し、降雨も少ないため、レーザー兵器の使用環境に適しているという点も考慮する必要がある。今後、これらの課題を克服しつつ、より広範な運用が期待される。