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米陸軍が58年ぶりに新型手榴弾を採用 M111は「破片」ではなく衝撃波で敵を制圧

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US Army

米陸軍は2026年3月、新型の攻撃用手榴弾「M111 Offensive Hand Grenade(OHG:攻撃用手榴弾)」の正式運用を承認しました。米軍において殺傷性のある新型手榴弾が採用されるのは、1968年の「Mk3A2」以来、実に58年ぶりとなります。この決定は、単なる旧式装備のアップデートに留まりません。イラク戦争での過酷な市街地戦、そして現在も続くウクライナ戦争や激化する広大な地下トンネル戦の教訓をダイレクトに反映した、「現代戦のパラダイムシフト」を象徴するものです。

現代戦が突きつけた「閉鎖空間」の課題

近年の紛争地において、戦闘の舞台は広大な平原から、高層ビルが立ち並ぶ市街地、強固な塹壕、そして広大な地下トンネル網へと移行しています。

  • ウクライナ戦争における広大な塹壕戦
  • 中東地域における迷路のような地下要塞戦
  • 都市部における戸別戦闘(ルームクリアリング)

このような「閉鎖空間(Confined Space)」での戦闘において、従来の歩兵装備、特に1960年代に設計された手榴弾では、現代の戦術的要求を満たせなくなっていました。M111 OHGは、まさにこうした「21世紀の泥沼化した近接戦闘(CQB)」を制するために開発された専用兵器なのです。

「M67(破片)」と「M111(爆風)」

M67手榴弾(USMC)

現在、米軍をはじめ世界中の軍隊で広く使われているのが「M67破片手榴弾(フラグメンテーション・グレネード)」です。通称「アップル」とも呼ばれるこの手榴弾と、新型のM111は何が違うのでしょうか。その殺傷メカニズムには根本的な違いがあります。

鋼鉄の破片で引き裂く「M67」

M67は、爆発すると同時に本体の金属シェルが細かく砕け、大量の高速破片(フラグメント)を周囲に飛散させることで敵を殺傷します。開けた野戦では極めて高い効果を発揮しますが、壁や強固な家具などの遮蔽物がある閉鎖空間では、以下のような致命的なデメリットがありました。

  • 遮蔽物に弱い: 敵が机の裏や壁の向こうに隠れていると、破片が遮られて効果が激減する。
  • 味方への跳弾リスク: コンクリートの壁に跳ね返った金属破片が、突入を試みる友軍兵士を傷つける二次被害(フレンドリーファイア)の危険性が高い。

衝撃波で内部から破壊する「M111」

これに対し、新型のM111が主兵器とするのは破片ではなく、「Blast Overpressure(爆風圧/衝撃波)」です。M111が閉鎖空間で炸裂すると、急激な気圧変化を伴う強力な衝撃波が室内に充満します。この爆風圧は、敵が遮蔽物の裏に隠れていようが、防弾ベストを着用していようが関係なく、回り込んでダメージを与えます。急激な圧力波は人間の肺や鼓膜、内臓に深刻なダメージを与え、確実に敵を無力化(戦意喪失または殺傷)するのです。 

イラク戦の血の教訓

M111開発のタイムラインを遡ると、その原点は2000年代のイラク戦争にあります。当時、ファルージャなどで激しい戸別戦闘(ハウス・ツー・ハウス)を経験した米陸軍は、凄惨な教訓を得ることになりました。米陸軍の近接戦闘システム担当責任者であるヴィンス・モリス大佐は、当時の状況をこう振り返っています。

「イラクでの過酷な戸別戦闘において、M67は必ずしも適切な選択肢ではありませんでした。薄い壁を挟んだ向こう側にいる味方を、予期せぬ破片の貫通や跳弾で誤って負傷させる危険がつねに隣り合わせだったからです」

部屋に突入する前に敵を制圧したいが、M67を投げ込めば壁を突き抜けて隣の部屋の味方を殺傷しかねない──。このジレンマを解消するため、「爆発のエネルギーは凄まじいが、加害範囲が限定的で、壁の向こうの味方を巻き込まない兵器」としてM111のコンセプトが確立されました。

アスベストを使う旧型「Mk3A2」を完全排除

実は、米軍には以前から「Mk3A2」という攻撃用(爆風型)手榴弾が存在していました。しかし、この旧型兵器には現代の運用に耐えられない「致命的な欠陥」があったのです。

健康被害をもたらすアスベスト問題

Mk3A2は、爆風圧を高めるために本体容器に「アスベスト(石綿)」を混入したラミネート紙(ファイバー)を使用していました。当然ながら、爆発すれば周囲に有害なアスベスト粒子が飛散することになります。兵士の健康被害や環境汚染の観点から、その運用や訓練での使用は厳しく制限され、事実上の「お蔵入り」状態となっていました。

新素材プラスチックによる「完全消失」の魔法

新型のM111はこの問題を完全にクリアしています。本体には最新の特殊プラスチック素材を採用。爆発の瞬間、コンテナ自体が超高温と圧力によって「ほぼ完全にガス化・消失」する設計になっています。これにより、有害物質の飛散を防ぐだけでなく、手榴弾自体の破片が味方に当たるリスクを極限までゼロに近づけることに成功したのです。

兵站(ロジスティクス)を破綻させないスマートな設計

US Army

米陸軍は、このM111を「M67を過去のものにする完全な後継」とは位置づけていません。戦場環境に応じた「ハイブリッド運用(使い分け)」を想定しています。

  1. 開けた平原や防衛戦: 遠距離まで殺傷能力が及ぶM67を使用。
  2. 都市部、塹壕、屋内への突入: 味方を巻き込まないM111を使用。

今後の米軍歩兵部隊は、作戦ごとにこれら2種類の手榴弾をベストな比率で携行することになります。

優れたコストパフォーマンスと兵站への配慮

一般的に、新型兵器の導入は現場の混乱とコストの高騰を招きます。しかしM111は、極めてスマートな設計でこの問題を解決しました。

  • 共通の信管(フューズ): M111は、現行のM67や訓練用のM69と同じ信管系列を使用。これにより、既存の生産ラインやサプライチェーンをそのまま流用可能。
  • 訓練用「M112」の同時展開: M111と全く同じ重量・操作感を持つ訓練用手榴弾「M112」も用意され、兵士は違和感なく新たな戦術をマスターできる。

新規の兵站負担を最小限に抑えつつ、調達コストを劇的に下げるこのアプローチは、予算の効率化を迫られる現代の国防ドクトリンに合致しています。今回の正式承認を経て、M111は今後、米陸軍の最前線部隊から順次配備が進む見込みです。

58年ぶりとなるこの新型手榴弾の登場は、軍事技術の進化であると同時に、「戦争の形が再び泥臭い近接戦へと回帰している」という冷酷な現実の裏返しでもあります。ハイテクなドローンやミサイルが飛び交う現代戦であっても、最終的に勝敗を決するのは、兵士が命がけで突入する「一室」や「一本の塹壕」だからです。建物内部の構造を無力化し、友軍の安全を確保するM111 OHG。この小さなプラスチックの円筒は、これからの市街地戦における歩兵の生存率を大きく引き上げるゲームチェンジャーとなるに違いありません。

Source

Army approves M111, first new lethal hand grenade since 1968

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