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岩国基地に国内で初めて展開させる米陸軍の中距離ミサイルシステム「タイフォン」とは

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US Army

2025年9月11日から25日にかけて、九州・沖縄および北海道で実施される日米合同演習「レゾリュート・ドラゴン2025」に合わせ、アメリカ陸軍の最新兵器である中距離ミサイルシステム「Typhon(タイフォン)」が、日本の山口県岩国市にある岩国海兵隊航空基地に初めて展開されることが明らかになりました。この展開は、日本の防衛戦略、ひいてはインド太平洋地域の安全保障環境に大きな影響を与える可能性を秘めており、周辺国からの反発も強まっています。

今回のタイフォンの日本展開は、陸上自衛隊の広報担当者が岩国市に説明したことで判明しました。これは、タイフォン中距離ミサイルシステムが日本国内に展開される初めての事例となります。アメリカ国防総省は、この展開はあくまで訓練を目的としたものであり、常設配備ではないこと、そして期間も限定的であることを強調しています。しかし、その戦略的意義は極めて大きく、今後の日本における本格的な配備の布石となる可能性も指摘されています。タイフォンシステムの有する能力と、その展開が中国、北朝鮮、ロシアといった周辺国に与える影響は計り知れず、中国とロシア政府は反発を強めています。

Typhon(タイフォン)ミサイルシステムとは

Typhonは、Mid-Range Capability (MRC)またはStrategic Mid-Range Fires System (SMRF)とも呼ばれる、地上配備型の中距離ミサイルシステムです。ロッキード・マーティン社によって開発され、米陸軍への配備は2023年に始まったばかりの最新鋭兵器であり、その機動性と多機能性が最大の特徴です。タイフォンシステムは、標準的な40フィートISOコンテナ内にMk41垂直発射セルを4基搭載しており、これをトラックによって迅速に機動展開することが可能です。システム全体は、発射管制センター、支援車両、ローダーなどで構成され、その運用には高い柔軟性があります。

特筆すべきは、タイフォンの多機能性です。このシステムは、巡航ミサイルのトマホークと対空ミサイルのSM-6の両方を発射することができ、1基で対空・対地攻撃任務をこなすことができます。これまで主に艦艇搭載用兵器として開発・運用されてきたこれらのミサイルを地上から発射できるようになったことで、米軍の戦略的選択肢は飛躍的に拡大しました。

タイフォンから発射される主要ミサイルの概要

タイフォンシステムが運用する主要なミサイルは以下の通りです。

BGM-109 トマホーク巡航ミサイル(Tomahawk Cruise Missile)

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US Navy

長距離・精密打撃能力を持つ亜音速巡航ミサイルで、最新型のBlock IVおよびVは1,600km以上の射程を誇ります。飛翔速度は時速890kmで、レーダーを避けるために超低空(地形追従)飛行が可能です。これにより、敵の防空網を突破し、目標を精密に攻撃することができます。地上発射型については、1987年の「中距離核戦力全廃条約(INF条約)」の締結に伴い全廃されましたが、米ロ間でINF条約が2019年に失効したことにより、再び地上配備が可能となりました。これにより、米軍の地上部隊の火力と抑止力が大幅に強化されることになります。日本は、海上自衛隊の艦艇向けに400発の取得を決定しており、今回のタイフォン展開と合わせて、日本の長距離打撃能力強化への関心が高まっています。

SM-6対空ミサイル(RIM-174 Standard ERAM)

US Navy

米海軍のイージス戦闘システムに統合された艦艇発射型の長距離防空ミサイルです。固定翼機、ヘリコプター、ドローンに加え、対艦巡航ミサイルや終末弾道ミサイルに対する高い防空能力を持つ、非常に汎用性の高いミサイルです。艦載仕様では最大速度マッハ3.5、最大射程370kmを発揮し、広範囲の空域を防衛することができます。

周辺国が最も警戒するのは、タイフォンが運用する長大な射程を持つトマホークミサイルです。その射程1,600kmは、岩国からであれば中国の北京、上海といった二大都市に加え、東シナ海や台湾海峡における海軍・沿岸拠点を射程に収めます。台湾のほぼ全域も射程に入り、台湾有事の際には中国への抑止力となると期待されます。北朝鮮に至っては全域を射程に収めることが可能となり、同国の核・ミサイル開発に対する新たな抑止力となり得ます。ロシアに関しては極東の一部に限定されるものの、太平洋艦隊の司令部があるウラジオストクを射程に収めることができ、ロシアの極東地域における軍事活動にも影響を与える可能性があります。

タイフォンの日本展開について、中国とロシアは強い懸念と批判を表明しています。中国外務省は、「Typhonのアジア展開は地域の安定を損なう行為であり、日本は慎重な判断を」と批判しました。中国は、米国のミサイル配備が地域における軍拡競争を激化させ、安全保障環境を不安定化させると主張しています。ロシアのマリア・ザハロワ露外務省報道官も、「Typhonの展開はまたもや地域の不安定化をもたらすものであり、適切な軍事技術的対応を余儀なくされる」と非難しており、対抗措置を示唆しています。両国の反応からも、タイフォンが周辺国にとって大きな脅威であり、同時に抑止力となり得る存在であることが示されています。

今回のタイフォンの日本展開は、米軍の「分散化された多領域抑止戦略」の一環です。長射程能力を陸上にも配置することで、インド太平洋地域における戦略的柔軟性を飛躍的に高めることを目的としています。これは、有事の際に特定の基地や艦艇が集中攻撃されるリスクを軽減し、より広範囲からの多角的な攻撃・防御を可能にするものです。過去には、フィリピンのルソン島北部にもタイフォンが配備された実績があります。ルソン島北部からは台湾海峡、東シナ海、南シナ海全域を射程に収めることが可能でした。この時の配備は当初、演習中期間のみとされていましたが、その後も配備が継続されており、実質的な常駐化の動きも見られます。今年中にはハワイへの配備も予定されており、米軍のインド太平洋地域におけるミサイル戦略の要として、タイフォンの重要性は今後さらに高まるものと見られます。

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