

米海軍が公表した最新の年次30年造船計画において、かねてから構想されていた次世代大型水上戦闘艦「トランプ級戦艦(BBG(X))」が、正式に長期計画の中に位置づけられたことが明らかになりました。この計画は、従来の水上戦闘艦の枠組みを大きく超える、新たなカテゴリーの超大型戦闘艦の誕生を意味しており、米海軍の将来戦略における最も野心的な転換点として注目されています。
原子力推進の「ミサイル戦艦」


トランプ級戦艦の最大の特徴は、その規模と推進方式にあります。
- 原子力推進の採用: 従来の主力水上戦闘艦であるアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦やタイコンデロガ級巡洋艦がガスタービン推進であるのに対し、トランプ級は空母や原子力潜水艦と同様の原子炉を搭載する原子力推進艦となります。
- 名称と位置づけ: 米海軍内部では「BBG(X)」の名称で呼ばれています。「BB」は歴史的に戦艦(Battleship)を、「G」は誘導ミサイル(Guided Missile)を意味しており、事実上、第二次世界大戦型の“巨砲戦艦”の概念を、現代のミサイル・エネルギー兵器プラットフォームとして再構築した「現代版ミサイル戦艦」ともいえる存在です。
- 構想の背景: この計画は、Donald Trump政権が提唱した、艦隊規模の拡大と能力向上を目指す「Golden Fleet」構想の中核を担うものとして浮上しました。
水上版の戦略打撃プラットフォーム
トランプ級戦艦は、単なる駆逐艦の拡大版ではありません。計画されている能力は、水上艦艇として最高水準の戦闘プラットフォームを目指しています。
- 次世代兵器の統合: 従来のミサイルに加え、極超音速兵器、超大型の垂直発射装置(VLS)、そして高出力レーザー兵器や将来的なレールガンといった指向性エネルギー兵器の搭載が前提とされています。これにより、攻撃力と防御力の両面で、既存艦を凌駕する能力を持つことになります。
- 電力需要への対応(原子力推進の真の理由): 原子力推進の採用は、長期航続能力の確保だけでなく、次世代兵器の運用に不可欠な膨大な電力供給能力を確保するために最も重要です。高出力レーザーや指向性エネルギー兵器、さらに超大型レーダーや電子戦システムは、従来のガスタービン発電では賄いきれないほどの電力を要求します。原子炉の搭載は、これらのエネルギー兵器を常時フルパワーで運用するための必要条件なのです。
- 戦略的柔軟性: インド太平洋戦域における中国軍との長期的な対峙を念頭に置いた場合、燃料補給の必要がない原子力艦は、中国軍が近年強化している米軍の補給線攻撃能力に対する脆弱性を大幅に低減させることができます。これにより、戦略的な機動性と作戦の自立性を高めることができます。
DDG(X)とは一線を画す別次元の計画
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今回の30年造船計画で特に明確になったのは、トランプ級戦艦が、アーレイ・バーク級駆逐艦の後継計画である「DDG(X)」とは完全に別個の、独立した計画として扱われている点です。
- 規模の拡大: DDG(X)が約13,000トン級の次世代イージス艦として計画されていたのに対し、トランプ級戦艦は30,000トンから40,000トン級という、巡洋艦や戦艦に近い、大幅に大型化された艦となる見込みです。
- 役割の分化: 搭載可能な兵器数、電力供給能力、そして高度な指揮統制機能などを考慮すると、トランプ級戦艦は、艦隊の防空と対潜を担うDDG(X)とは異なり、「艦隊の打撃力の中核」として、より広範な戦略的任務を担うことが想定されています。
史上最大級の費用と懸念
計画の実現には、史上最大級の費用が伴います。
- 建造スケジュール: 現在の計画では、初号艦は2028年度に建造が開始され、2030年代半ばの就役が想定されています。
- 長期整備目標: 30年造船計画には、2055年までに最大15隻を整備するという長期的な構想が盛り込まれています。
- 途方もない建造費用: 米メディアの報道によれば、1番艦の建造費は176億ドルから189億ドルに達する可能性があり、日本円にして約2.7兆円という、フォード級空母に匹敵するか、それを超える水準です。この15隻体制が実現すれば、総額は数千億ドル規模に達する可能性があり、米海軍史上でも最大級の艦艇建造計画となる見通しです。
一方で、この巨大計画には、米海軍内外から強い懐疑論と批判が向けられています。
- 造船能力への懸念: 米海軍は現在、原子力潜水艦の建造遅延、駆逐艦の建造停滞、空母整備能力の不足といった深刻な造船インフラ問題を抱えています。この状況下で、新たに超巨大な原子力水上戦闘艦を建造・維持する余力が本当にあるのかという疑問が呈されています。
- 「高価な標的」論: 中国軍が配備を強化しているDF-21DやDF-26といった対艦弾道ミサイルや、極超音速兵器の脅威を考えると、「超大型艦は高価で脆弱な標的になるだけだ」という批判が根強く存在します。実際、米海軍内部のウォーゲーム(図上演習)では、大型水上戦闘艦の生存性に疑問を呈する分析も報じられており、投資に見合う戦略的価値があるのかが議論の焦点となっています。
「公式構想」への格上げと今後の焦点
それでもなお、今回の30年造船計画への正式記載は、トランプ級戦艦が単なる政治的なアイデアの域を超え、「米海軍の公式長期戦略構想」の一部へと格上げされたことを意味します。今後、計画を進める上での大きな焦点となるのは、議会での承認、具体的な設計企業の選定、原子炉の設計、そして膨大な予算の確実な確保です。中国海軍が急速な艦艇増勢を進める中、米海軍が「大型化・高火力・原子力推進」という、従来とは異なる新たな方向へ舵を切るのかどうか。トランプ級戦艦計画は、今後の米海軍の戦略、そして世界の海洋覇権のバランスを占う上で、極めて重要な試金石となるでしょう。
