

2025年12月、タイ空軍がカンボジアとの間で発生した国境衝突に関連する空爆作戦において、韓国から導入した高等練習機「T-50TH ゴールデンイーグル」を投入したとする報道が、大きな注目を集めている。この事案は、T-50シリーズが開発されて以来、史上初めて実戦で使用された事例として記録される可能性が高く、練習機という枠を超えた同機の能力、さらには軽攻撃機の役割を再定義する動きとして、関心を集めている。
Thailand 💥 Cambodia
— Global perspective (@Global__persp1) December 24, 2025
At 2:02 p.m. this afternoon, the Thai military used a T-50TH aircraft to drop one missile into Banan district, Battambang province. Ministry of National Defense🇰🇭 pic.twitter.com/BXolLhYfVw
報道によると、タイ空軍は正規の戦闘機であるF-16やJAS-39グリペンといった主力戦闘機と連携し、T-50THをカンボジア側の特定の軍事目標に対する空対地攻撃任務に参加させたという。具体的には、カンボジア領内深く、バッタンバン州上空への深部攻撃ミッションを遂行し、バナン県の標的に合計4発の爆弾を投下したと伝えられている。T-50THは本来、タイ空軍の戦闘機パイロット養成を目的とした高等ジェット練習機(LIFT:Lead-in Fighter Trainer)として導入された機体である。しかし、設計段階から一定の軽攻撃能力が付与されており、今回の国境紛争という高強度の正規戦ではないものの、実際の軍事作戦において初めて「戦闘機」の役割を果たしたことになる。
タイとカンボジアは、長年にわたり国境地域の領有権を巡って軍事的緊張を繰り返してきた歴史がある。今回の衝突も、そうした歴史的な背景を持つものであり、限定的ながら航空戦力を含む軍事行動が確認された。タイ側は、今回の作戦が正規の軍事目標に対する正当な対応であると主張しているが、カンボジア側は、民間地域への無差別攻撃だとして激しく反発しており、国際社会も事態の推移を注視している状況だ。
T-50 ゴールデンイーグル


T-50 ゴールデンイーグルは、韓国航空宇宙産業(KAI)がロッキード・マーティン社の協力を得て開発した超音速ジェット練習機である。その高い性能から、これまでにインドネシア、フィリピン、イラクなど世界各国へ輸出されてきた実績を持つ。しかし、その主たる役割はあくまで訓練であり、純粋な「T-50」型が戦闘行為に投入された前例はこれまで確認されていなかった。今回のT-50THによる実戦攻撃任務は、T-50シリーズ全体にとって、その設計思想の根幹である「訓練機」という位置づけを超え、「軽攻撃機としても実用可能」という新たな能力を証明する出来事となる。これは、練習機ベースの航空機が、現代の紛争において、低コストで即応可能な補助的戦力として利用され得ることを示す、重要な先例となるだろう。
派生型FA-50


T-50の派生型である軽戦闘機「FA-50」は、すでに実戦経験を持つ。最も有名な事例はフィリピン空軍で、導入されたFA-50PHは、対テロ・対反乱作戦(COIN:Counter-Insurgency)において、地上目標への爆弾投下や、友軍地上部隊への近接航空支援(CAS:Close Air Support)任務に繰り返し投入されてきた。FA-50は、T-50に比べてアビオニクス(航空電子機器)や武装統合能力が大幅に強化されており、20mm機関砲、空対空ミサイル、精密誘導爆弾などの搭載が可能である。
T-50TH
T-50THは、タイ空軍の老朽化したL-39アルバトロス練習機の後継として、2018年に初納入され、計16機が調達されている。基本的な構造や飛行性能はT-50と共通しており、以下の主要なスペックを持つ。
- エンジン: GE F404系ターボファンエンジン
- 最大速度: マッハ1.5級
- 実用上昇限度: 約14,000m超
FA-50のような本格的な戦闘機グレードのレーダーや高度な兵装統合能力は限定的だが、T-50THも基本的な武装は可能である。20mm機関砲に加え、ロケット弾、レーザー誘導爆弾、空対空ミサイル(AIM-9サイドワインダー)、空対地ミサイル(AGM-65マーベリック)といった各種兵器を搭載・運用できる能力を備えている。
今回のカンボジア軍との衝突においては、相手側が有効な戦闘機戦力を持たず、また満足な対空兵器も不足している状況であった。このような非対称な戦闘環境下において、T-50THは「低コストで即応性の高い対地攻撃プラットフォーム」として、その能力を十分に発揮できると判断されたものと見られる。高強度の制空戦闘には不向きであっても、限定的な対地攻撃任務には理想的な選択肢であったと言える。
T-50THの実戦投入は、単なる地域紛争の一事象にとどまらない広範な影響を持つ可能性がある。韓国製航空機の輸出市場における評価に影響を与えることは必至である。FA-50は、その実戦実績とコストパフォーマンスの高さから、近年ポーランドやマレーシアといった国々への新規採用が相次いでいる。T-50THの今回の事例は、「練習機型であっても、軽攻撃任務において十分な信頼性と実用性を持つ」ことを改めて世界に示すこととなり、T-50シリーズ全体の輸出競争力をさらに高める可能性がある。さらに、この事案は、各国の航空戦力配分や防衛戦略に新たな示唆を与える。ロシア・ウクライナ戦争においても、ドローン迎撃などの限定的な任務に練習機が投入された事例はあるが、T-50THのような爆撃任務への投入はより攻撃的な役割であり、練習機や軽攻撃機が、いかに現代の紛争において重要な「ギャップ・フィラー(隙間を埋める戦力)」となり得るかを示している。
