

ウクライナは8月24日、独立35周年に合わせ、首都キーウで史上初となる無人システム中心の軍事パレードを実施した。地上と水上の隊列は無人システムのみで構成され、無人水上艇「MAGURA」「Sea Baby」、迎撃ドローン「P1-Sun」など、ロシアとの戦争で実戦投入されてきた主要装備が披露された。なお空の展示では、無人機に加えてフランス供与のミラージュ2000やF-16も飛行しており、完全に無人兵器のみだったのは地上・水上部分となる。
ウクライナは2022年のロシアによる全面侵攻以降、通常の軍事パレードを行っておらず、独立記念日にはフレシチャーティク通りに鹵獲・撃破したロシア軍車両を並べる展示が続いていた。今回、代わりに披露されたのが国産無人システムの隊列だったこと自体が、この4年半の戦争がウクライナ軍にもたらした変化を象徴している。ウクライナ大統領府は、公開された約100システムについて「現在保有する能力の一部にすぎない」と説明した。ゼレンスキー大統領は、戦争で培った技術を将来的にパートナー国の防衛にも提供し、ウクライナが欧州などにとっての「安全保障の提供者」になる可能性を強調している。
陸・海・空、約100の無人兵器を公開
まず30両の無人地上車両(UGV)がキーウ中心部のフレシチャーティク通りを走行した。登場したのは「TerMIT」「Rys(Rys Pro)」「Simba」「Ardal」「Zmiy」「Ratel」など。偵察、地雷の敷設・除去、弾薬や食料の輸送、負傷兵の後送、火力支援、敵陣地への攻撃など、多様な任務に投入されている。ウクライナ大統領府によれば、UGVは最大600kgの物資を搭載して数十kmを移動でき、2026年だけで国産UGVを2万2000両以上契約した。国防省の発表では、UGVによる任務件数は2026年に入り急増しており、1月には約7500件だったのが7月には約2万件に達し、年初来の累計はすでに10万件を超えている。
最大の注目は無人水上艇「MAGURA」
ドニプロ川には9隻の無人水上艇が登場し、「MAGURA」「Sea Baby」「Sargan」などが公開された。これらは偵察や哨戒だけでなく、敵艦艇・軍事施設への攻撃やドローンの発射など、複数の任務を担う多目的プラットフォームへと進化している。
なかでもMAGURAは、ウクライナの無人海上戦力を象徴する存在だ。2025年5月、ウクライナ国防省情報総局(GUR)傘下の特殊部隊「グループ13」は、対空ミサイルを搭載した派生型「MAGURA V7」を用いて黒海上空でロシア軍のSu-30戦闘機2機を撃墜したと発表した。無人水上プラットフォームによる有人戦闘機の撃墜としては世界初とされる戦果で、MAGURAが爆薬搭載の自爆艇という当初の枠を超え、偵察・対艦攻撃・防空までを担う多用途プラットフォームへ発展したことを示す象徴的な事例となった。
「ドローンでドローンを撃ち落とす」P1-Sun
空を飛んだ無人兵器のうち特に注目されるのが、P1-Sun、Litavr、Stingの3種類の迎撃ドローン、計18機だ。ロシア軍が大量投入するShahedなどの攻撃ドローンを迎撃するために開発された。ウクライナ大統領府はこれらを「新しい層の防空」と位置付け、大量生産が可能で従来型の防空ミサイルより低コストで運用できる点を強調している。高価な地対空ミサイルでロシアの大量ドローン攻撃に対応し続けることは経済的にも運用面でも大きな負担であり、「安価な迎撃ドローンでドローンを撃墜する」という新たな防空体系の構築が進められている。今回のパレードは、その方向性を象徴するものとなった。
Vampire、Lazar、Heavy Shot――攻撃ドローンも大量展示
27機の爆撃ドローン「Vampire」「Lazar」「Heavy Shot」も披露された。敵の車両、砲兵、兵員、陣地への攻撃のほか、地上部隊への弾薬・水・装備の輸送、道路や陣地への遠隔地雷敷設にも使われている。大型マルチコプター型ドローンを前線の空飛ぶ輸送・攻撃プラットフォームとして運用することで、有人機では接近が難しい前線上空から継続的に火力や物資を供給できる点が特徴だ。
偵察から長距離攻撃まで無人化
8機の偵察ドローン「SHARK」「LF-400」も参加した。SHARKは最大7時間の滞空、最大420kmの飛行が可能とされる。LF-400は偵察に加え、攻撃ドローンを目標地域近くまで運ぶ「母機」としても使用されている。
パレードの最後を飾ったのは長距離攻撃型の「Morok」と「Sichen(ウクライナ語で「1月」を意味する«Січень»に由来)」だ。Morokは射程約800km、弾頭重量約30kg。Sichenは2026年4月に公開された新型機で、射程は最大1400kmとされる。いずれもロシア国内の軍需工場、弾薬・燃料貯蔵施設、物流拠点、飛行場などを主要な攻撃対象としている。ウクライナはこうした長距離ドローンによる攻撃を継続的に実施しており、前線から2000km以上離れたロシア内陸部の施設への攻撃も報告されている。
「ドローン軍」から「無人戦闘システム軍」へ
ウクライナは2024年6月、ゼレンスキー大統領の署名により「無人システム部隊」を正式な軍種として創設した。無人戦を専門とする軍種を編成したのは世界初とされ、6月11日は「無人システム部隊の日」に制定されている。今回のパレードは、この制度的な転換を国内外に印象づける機会にもなった。従来の軍事パレードであれば、戦車、装甲車、自走砲、戦闘機などが主役となる。しかし今回のキーウでは、地上ロボット、無人艇、迎撃ドローン、爆撃ドローン、偵察ドローン、長距離攻撃ドローンが主役となった。危険な偵察は偵察ドローンが担い、弾薬輸送はUGVが担い、敵の攻撃ドローンは迎撃ドローンが撃墜し、ロシア艦艇への攻撃はUSVが担い、ロシア国内深くへの長距離攻撃まで無人機が実施する。これらを組み合わせることで、一つの「無人戦闘システム」が戦場で形成されつつある。ウクライナが独立記念日にキーウで見せた光景は、ロシアとの戦争だけでなく、今後の戦争そのものがどのように変化していくのかを示す、象徴的な事例となった。


