

ロシアによる自爆ドローンや偵察ドローンによる大規模な波状攻撃が日常化するなか、ウクライナの防空戦術に新たなゲームチェンジャーが誕生しようとしています。ウクライナのドローンメーカー「F-Drones」は、人工知能(AI)によって迎撃任務を遂行する新型の迎撃ドローン「LITAVR(リタヴル)」を公開しました。同社はこれを「世界初の完全自律型迎撃ドローン」と位置付けており、従来の防空システムが抱えていた「コスト」と「人的負担」という2つの巨大な壁を打ち破る可能性を秘めています。
消耗戦を強いるロシアのドローン戦術と、ウクライナの切実な課題
LITAVRが開発された背景には、ウクライナが直面している過酷な防空事情があります。ロシア軍は、安価なイラン製自爆ドローン「Shahed-136」を大量に投入し、ウクライナのエネルギーインフラや都市部を標的にしています。また、前線では「Orlan-10」や「ZALA」「Supercam」といった高性能な偵察ドローンが上空を徘徊し、ウクライナ軍の配置を特定しては短距離弾道ミサイル「イスカンデル」などの精密打撃を誘導しています。これらのドローンを撃墜することは、ウクライナにとって文字通り死活問題です。しかし、これらの小型・中型ドローンを迎撃するために、欧米から供与された「パトリオット」や「NASAMS」「IRIS-T」といった数億円から数十億円もする高価な地対空ミサイルを消費し続ければ、いずれ防空網は枯渇してしまいます。この「圧倒的なコストの非対称性」を克服するために、安価で確実な迎撃手段としてAIドローンの開発が急務となっていたのです。
操縦桿は不要。オペレーターを「操縦者」から「監督者」へ変えるAI
An exclusive report by Army TV on the Ukrainian Litavr interceptor drone by F-DRONES, developed as a specialized UAV interceptor designed to counter Shahed-type kamikaze drones and other long-range unmanned systems.
— Yigal Levin (@YigalLevin) May 21, 2026
Notably, there had been very little information about the… pic.twitter.com/sJuNsCtb7N
現在ウクライナで活躍している迎撃ドローンの多くは、オペレーターがFPVゴーグルを装着し、高速で飛行する敵機に体当たりするまで手動で操縦を続ける必要がありました。これは高度な操縦技術を要するだけでなく、オペレーターにとって極めて高い精神的・認知的負荷(ストレス)がかかります。近年は自動追尾機能を備えた機体も登場していますが、目標の指定や飛行経路の修正など、重要な場面では人間の介入が不可欠でした。一方、LITAVRはこの役割分担を劇的に変えます。LITAVRは、レーダーや防空システムから目標座標を受信すると自ら離陸し、気象条件や敵機の速度を加味して最適な迎撃コースを計算します。その後は敵ドローンを探索・捕捉し、自律的に追尾を続けます。オペレーターは操縦桿を握る必要がなく、細かな修正操作も不要です。人間が関与するのは「迎撃開始」と「最終的な交戦許可(キルスイッチ)」の2点のみ。これは味方機への誤射(フレンドリーファイア)を防ぐためのフェイルセーフであり、「AI兵器であっても最終的な攻撃判断は人間が下す」という国際的な倫理原則に従った運用思想を具現化しています。
GPS妨害を無効化する画像認識AI「Last Mile」の真価
ロシア軍は世界有数の電子戦(EW)能力を持っており、GPS信号の妨害(ジャミング)や位置情報の偽装(スプーフィング)、通信電波の遮断を日常的に展開しています。従来のFPVドローンは、目標に接近した最終段階で通信が途絶え、墜落してしまうケースが多発していました。LITAVRはこれを克服するため、「Last Mile(ラストマイル)」と呼ばれる画像認識による終末誘導システムを搭載しています。敵機を搭載カメラで認識すると、AIが対象のシルエットをロックオンし、リアルタイムで映像を解析しながら追尾を継続します。これにより、GPS信号が完全に遮断されたり、オペレーターとの通信が途絶えたりした過酷な電磁波環境下でも、自律的に目標へ接近し確実に迎撃することが可能です。
スペック
LITAVRは、ロシア軍の主力ドローンを確実に仕留めるための高い飛行性能を備えています。
| 性能・仕様 | LITAVRの公開スペック |
| 最高速度 | 約350 km/h |
| 運用高度 | 約9,000 m |
| 作戦半径 | 通常約40km(実証飛行では80km以上の長距離飛行を達成) |
| センサー | 昼間用光学カメラ・赤外線(サーマル)カメラ搭載 |
| 対応目標 | ほぼ全ての小型・中型無人機、偵察ドローン、自爆ドローン |
シャヘド136の巡航速度はおおむね180〜200km/h、オルラン10などの偵察ドローンは100〜150km/h程度とされています。LITAVRは最高時速350kmに達するため、十分な速度差で後方から急速に接近し、逃走を許さずに迎撃することが可能です。また、赤外線カメラを搭載しているため、夜間攻撃を多用するロシア軍の戦術にも対応できます。
「ミサイル防空」から「AIドローン防空」の時代へ
自律飛行やAI画像認識技術そのものは、米国やイスラエルなどでも実用化されています。しかし、LITAVRの画期的な点は、離陸から迎撃コース生成、目標探索、妨害環境下での追尾までのプロセスを「一連のシステムとして実戦向けに完全パッケージ化した点」にあります。前述の通り、迎撃用ミサイルが1発数百万ドルに達するのに対し、迎撃ドローンは数千ドル〜数万ドル程度で製造可能です。LITAVRが量産化され実戦で成果を挙げれば、コスト問題が解決するだけでなく、「1人のオペレーターが、AIの支援を受けて複数の迎撃ドローンを同時監督する」という、大規模な飽和攻撃への効率的な対抗策が現実のものとなります。これまでウクライナ戦争は数々のドローン戦術を生み出してきましたが、LITAVRの登場は、現代戦が「人間同士の操縦技術の競い合い」から、「AI搭載ドローンが、敵のAIドローンを自律的に狩る」という新たな自律化のフェーズへ突入したことを示す、歴史的な転換点となるかもしれません。


Source
Intercepting targets at 350 km/h: F-Drones’ Ukrainian LITAVR counter-drone
