

ウクライナ空軍は7月8日、東部戦線でロシア空軍の主力戦闘機「Su-35S フランカーE」を撃墜したと発表した。ロシア側の複数の軍事ブロガーもSu-35の損失を認めており、パイロットは脱出して生還したと伝えられている。今回の撃墜は、ウクライナに供与されたF-16による「初めての本格的な空対空戦果」として大きな注目を集めている。しかし、現時点で明らかになっている情報を総合すると、これは「F-16が単独でSu-35を撃墜した」という単純な構図ではなく、西側諸国が構築してきたネットワーク中心戦(Network-Centric Warfare)の成果であった可能性が高い。
Su-34護衛中のSu-35を迎撃
報道によると、ロシア軍はSu-34戦闘爆撃機による誘導爆弾攻撃を実施するため、護衛としてSu-35を投入していた。これに対し、ウクライナ空軍はF-16を発進させ迎撃を開始。交戦の結果、Su-35は撃墜され、残骸は東部戦線で確認された。ウクライナ第3軍団も墜落現場の映像を公開している。ただし、ウクライナ軍は使用した兵器や詳しい交戦経過については公表していない。
F-16 vs Su-35:単体スペックの差
カタログスペックだけで比較すれば、ウクライナ軍のF-16とロシア軍のSu-35には大きな性能差が存在する。
| 項目 | F-16 AM/BM MLU(ウクライナ仕様) | Su-35S(ロシア空軍) |
| 世代 | 第4世代(近代化改修機) | 第4.5世代 |
| 就役・改修 | 1980〜90年代改修(ベースは70年代) | 2014年就役 |
| 搭載レーダー | AN/APG-66(V)2(検知距離 約80km) | Irbis-E PESA(公称検知距離 最大400km) |
| 主力空対空ミサイル | AIM-120 AMRAAM(射程 100km以上) | R-37M(射程 300km以上) |
| 特徴 | 多用途打撃機、西側データリンク対応 | 高機動性、大型長距離レーダー、電子戦能力 |
ウクライナに供与されているF-16は、初期型を近代化改修(MLU)した機体であり、最新アビオニクスや精密誘導兵器の運用能力を持つものの、レーダー検知距離は約80km程度にとどまる。一方、ロシアのSu-35は2014年に就役した第4.5世代戦闘機であり、ロシア航空宇宙軍の主力機だ。搭載する「Irbis-E」レーダーは最大400km先の目標を検知し、射程300kmを超える超長距離空対空ミサイル「R-37M」を運用可能とされる。結論として単純な1対1の空対空戦であれば、スペックで上回るSu-35が先にF-16を発見し、アウトレンジ(相手の射程外)から先制攻撃を仕掛けることが可能だ。
なぜ撃墜できたのか?「単独撃墜」ではない3つの可能性
SNSでは「F-16が単独でAIM-120ミサイルを発射し、Su-35を撃墜した」という情報が拡散している。しかし、スペック上のハンデを考慮すると、F-16が単騎でSu-35を捕捉・撃墜したとは考えにくい。有力視されているのは、西側の各種センサーや防空システムと連携した「共同交戦」である。
1. 地上防空システム(パトリオット)との連携
地上の「パトリオット」防空ミサイルシステムが強力なレーダーでSu-35を捕捉・追跡。その目標データをデータリンク経由でF-16へ送信し、F-16は自身のレーダーを出さずに(敵に察知されずに)ミサイルを発射した可能性がある。ただ、パトリオットもレーダーを照射すれば、場所を晒すことになり、F-16が捕捉し、パトリオットが撃墜したと指摘する者もいる。
2. 早期警戒管制機(AEW&C)による誘導
ウクライナにはスウェーデンから供与された早期警戒管制機「Saab 340 AEW&C」が配備されている。同機が搭載する「Erieye」AESAレーダー(PS-890)は、高度約6,100mから最大300〜400kmの範囲を監視可能だ。この「空の目」が得た情報をF-16へ伝送し、Su-35の死角から迎撃したシナリオだ。
3. NATOや有志国の情報ネットワーク
ウクライナ国境周辺を飛行するNATO加盟国の早期警戒管制機(AWACS)や偵察衛星、地上の統合レーダー網からのリアルタイム情報が、F-16の運用を強力に支援していることも見逃せない。
Su-35はロシア空軍において、Su-34戦闘爆撃機の護衛や制空権確保を担う要(かなめ)の存在だ。今回の撃墜により、ロシア軍は前線付近でのSu-35およびSu-34(滑空誘導爆弾KABの運用機)の運用を慎重にせざるを得なくなるだろう。現代の航空戦において勝敗を分けるのは、「戦闘機単体のスペック」ではなく「センサー、データリンク、防空陣地を統合したシステム全体の強さ」である。今回のSu-35撃墜は、ウクライナ空軍のF-16が西側の巨大な情報ネットワークの中核として機能し始めたことを示す象徴的な事例であり、今後のウクライナ空域の勢力図を大きく塗り替える可能性がある。
