

ウクライナ軍が、長距離攻撃無人機「FP-1」「FP-2」に空対地非誘導ロケットを搭載し、ロシア軍防空部隊への攻撃に使用し始めたことは、無人機による戦術の新たな進化を示すものです。公開された映像は、飛行中の無人機がロケット弾を発射し、ロシア軍の移動式防空班や軍事施設を攻撃する様子を捉えています。これは、従来の長距離自爆ドローンが単に「目標へ突入する使い捨て兵器」であったのに対し、FP-1/FP-2が「敵防空網を制圧しながら侵入する、一種の無人攻撃機」へと役割を拡大しつつあることを意味します。
FP-1/FP-2無人機
FP-1およびFP-2は、ウクライナの防衛企業 Fire Point が開発した長距離攻撃ドローンです。
- FP-1: 最大航続距離が1600km級とされ、最大120kg級の弾頭を搭載可能な長距離自爆型UAV(無人航空機)です。低高度侵入能力や電子戦耐性を備え、ロシア国内のモスクワ周辺、製油所、弾薬庫、軍需工場といった深部目標への攻撃に頻繁に投入されてきました。
- FP-2: より前線寄りの中距離打撃型として開発された派生モデルで、射程は200〜500km級と推定されています。Fire Point社は、2026年時点で1日200機規模の生産能力を構築したとも報じられており、ウクライナの「大量飽和攻撃」戦略を支える中核戦力となりつつあります。
「ロケット武装ドローン」という戦術的革新
The Ukrainians started employing FP-1/FP-2 long-range UAVs equipped with aerial unguided rockets for strikes against Russian forces.
— Status-6 (War & Military News) (@Archer83Able) May 12, 2026
In the thermal cam footage published by the Russian side, the FP-1/FP-2 UAV can be seen firing an unguided rocket against an unspecified target.… pic.twitter.com/tdCr2VdMMB
今回の最大の注目点は、FP-1/FP-2が非誘導空対地ロケットを搭載した点です。公開映像からは、無人機の翼下に装着されたロケットポッドから複数のロケット弾を連続発射する様子が確認できます。搭載ロケットは、分析によれば旧ソ連時代に大量生産されたS-5またはS-8ロケットを転用したものと推測されています。
重要なのは、この武装化が無人機の攻撃対象を根本的に変えたことです。従来、ロシア軍は後方地域において、機関銃搭載車両、MANPADS(携行地対空ミサイル)、機動式防空部隊を広範囲に配置し、侵入ドローンを迎撃してきました。しかし、新型FP-1/FP-2は、その迎撃部隊自体をロケット攻撃のターゲットとしています。これまで長距離自爆ドローンは、目標に到達するまで迎撃部隊に対しては基本的に無力でした。この転換は、ドローンの役割を「迎撃される側」から「敵の迎撃部隊を先制攻撃する側」へと進化させました。これは、従来戦闘機や高価な対レーダーミサイルが担っていたSEAD(敵防空制圧)任務を、安価な無人機で代替し始めたことを示唆しています。
非誘導ロケットの合理性
Onboard footage from a Ukrainian FP-2 strike drone as it strafes a Russian naval base in Crimea with air-to-ground rockets. pic.twitter.com/Snv74Q3wsr
— OSINTtechnical (@Osinttechnical) May 17, 2026
一見すると時代遅れに映る非誘導ロケットの採用ですが、これは極めて合理的な選択です。
- 低コスト: FP-1/FP-2の最大の強みは、低コストでの大量生産と飽和攻撃能力にあります。高価な精密誘導兵器を搭載すればコスト効率が大幅に悪化し、ウクライナ側の優位性である「大量投入による防空飽和」戦略を損ないます。
- 面制圧能力: 非誘導ロケットは安価、軽量であり、大量搭載が可能です。特に、移動中の防空車両や機関銃陣地といった点目標に対しては、精密誘導ではなく、広範囲にわたる面制圧火力こそが効果的となる場合が少なくありません。防空班を迅速に無力化するには十分な火力とされています。
ロシア防空網への新たな脅威
現在ロシア軍は、S-300/S-400、Pantsir-S1、Tor-M2といった本格的な防空システムに加え、対空機銃・MANPADSを搭載した機動対ドローン班を大量に動員することで、後方地域の低空空域の防空を維持しています。しかしFP-1/FP-2が武装化したことで、この機動対ドローン班は新たな脅威に直面します。彼らはドローンを発見・迎撃しようとすれば、逆にドローンからロケット攻撃を受けるリスクが生じ、機銃陣地の露出リスク増大、MANPADS班の生存性低下という問題に直面する可能性があります。ロケット弾の射程外から迎撃できればいいですが、近年、ウクライナ軍はロシア防空システムへの攻撃頻度を急増させており、Tor、Buk、Pantsirといった中・短距離防空システムの損耗が加速しているとの分析もあり、小規模な防空部隊に頼わざるを得ない状況がロシアにはあります。
ウクライナの「低コスト無人空軍」戦略
今回の動きは、単なるドローンの改良に留まりません。ウクライナは、戦闘機、長距離巡航ミサイル、西側兵器供与の制限といった課題を抱える中で、「有人空軍戦力を、低コストの無人機群で代替する」という戦略を推し進めています。FP-1/FP-2は、長距離侵攻、飽和攻撃、防空制圧、偵察、そしてロケット攻撃までを担うことで、この「簡易無人空軍」戦略の象徴となりつつあります。ロケット武装化は、ドローン戦争が単なる「自爆兵器競争」から、「無人航空戦力による制空・制圧競争」へと質的な転換期を迎えていることを示唆しています。
