

日本政府は5月29日、ドイツに所在するNATOの対ウクライナ安全保障支援・訓練組織「NSATU」に、自衛官4人を派遣すると発表した。日本の自衛官がウクライナ支援を担うNATO組織へ参加するのは初となる。
今回派遣される陸海空自衛隊の幹部自衛官計4人は、ドイツ・ヴィースバーデンのNSATU本部にて各国との調整や教育訓練、ウクライナ軍再建業務に従事するが、その真の目的は単なる支援に留まらない。防衛省自身が「『新しい戦い方』をはじめとするウクライナでの教訓を得ることを通じて、我が国自身の防衛体制強化につながる」と明言している通り、日本はこの派遣を通じてウクライナ戦争を“未来の東アジア戦争の予習”として捉え、実戦的な知見の獲得を目指している。
ドローンが戦場を変えた
ウクライナ戦争で世界の軍関係者に衝撃を与えたのが、FPVドローンを中心とした無人機戦争だ。数万円〜数十万円規模の小型ドローンが、数億円規模の戦車や装甲車を撃破する映像は、もはや日常となった。従来の戦場では、戦車、戦闘機、大砲、軍艦が主役だった。しかし現在は、FPV自爆ドローン、AI支援型無人機、ドローン群(スウォーム)、長距離攻撃ドローン、海上無人艇などが戦場の構造そのものを変えつつある。これは日本にとって他人事ではない。中国軍も台湾有事を想定し、大量ドローン運用や無人化戦力の整備を急速に進めているためだ。そして、ドローン技術については世界一といってもよい。自衛隊は今、「ドローンが飛び交う戦場でどう生き残るか」を真剣に学ぼうとしている。
高度に発展した電子戦
もう一つ、ウクライナ戦争が示したのは電子戦の恐ろしさだ。ロシア軍・ウクライナ軍双方が、GPS妨害、通信妨害、電波傍受を日常的に実施している。結果として、 ドローンが突然墜落、精密誘導兵器が目標を外す、部隊間通信が途絶といった事態が頻発している。これは高度ネットワーク戦を重視してきた自衛隊にとって重大な警告でもある。「通信がある前提」の戦い方は、すでに危険になりつつある。電子戦対策は急務になっている。
戦術をアップデートしている中国と北朝鮮
今回、日本が強く警戒しているのが中国と北朝鮮だ。両国はロシアとの友好関係を利用して
、ウクライナの戦場を極めて詳細に分析、ロシアから情報を取得しているとされる。特に注目しているのは、ドローン飽和攻撃、長距離ミサイル戦、NATOの兵站能力、西側の弾薬消耗、衛星依存の脆弱性、SNS・情報戦、経済制裁への耐性などだ。特に中国は、ウクライナ戦争を通じて「台湾有事で台日米とどう戦うか」を研究している。さらに、中国企業の民生品による電子部品・通信技術・ドローン関連支援が、ロシア軍を間接的に支えているとの警戒感も西側では強い。「ロシアの兵器生産」と「中国の工業力」が結びつき始めている状況であり、それはつまり、中国の兵器生産能力にも繋がる。
さらに厄介なのが北朝鮮だ。北朝鮮はロシアへ砲弾やミサイルなどを供与、更に兵士も戦場に派遣し、戦闘に参加させている。その見返りとして、ロシアの高度なミサイル技術、衛星関連技術、電子戦ノウハウ、防空システム知識などを獲得している可能性が指摘されている。特に韓国や日本が警戒しているのは、北朝鮮兵が実際にウクライナの戦場を体験し、実戦データが朝鮮半島へ流入している点だ。将来的にはGPS妨害、ドローン攻撃、ミサイル攻撃など、より高度化した北朝鮮軍と向き合う可能性もある。
現在の安全保障環境で日本が最も警戒しているのは、中国・ロシア・北朝鮮が同時に現代戦を学習し、アップデートしている点だ。しかも3国は共通して、ドローン大量運用、電子戦、飽和攻撃、サイバー攻撃、長距離ミサイルを重視している。これは、従来自衛隊が想定していた「限定的な局地戦」とは大きく異なる世界だ。
NSATU派遣の本当の意味
今回のNSATU派遣は、NATOとの単なる象徴外交ではない。日本は今、「今後の戦争はウクライナ型になる」という前提で動き始めている。防衛省が欲しているのは、教科書ではなく“実戦データ”だ。戦後の自衛隊は長く、 実戦経験不足、そして、今では電子戦経験不足、ドローン戦の知見不足を抱えてきた。その中でロシア・ウクライナ戦争は、近年では最大規模の国家総力戦となった。自衛隊がNSATUから学ぼうとしているのは、単なるウクライナ支援ではない。それは、中国・ロシア・北朝鮮が進化させている「次世代の戦争」そのものなのである。


