

イスラエル国防軍によるイラン空爆において、主力として運用されている機体の一つがF-35I “Adir(アディール)”ステルス戦闘機である。アメリカのF-35Aを基盤としつつも、例外的にカスタマイズが可能な機体であり、イスラエル独自の改修が施されている。
200 מטוסי קרב, מעל 330 חימושים שונים:
— Israeli Air Force (@IAFsite) June 13, 2025
תיעודים מפעילות חיל-האוויר במבצע "עם כלביא" pic.twitter.com/e9D556OGQh
13日金曜日に実行されたイスラエルによるイランへの先制攻撃「ライジング・ライオン作戦」には、200機以上のイスラエル空軍(IAF)戦闘機が参加した。作戦にはF-15I、F-16I、そしてF-35I アディールが投入されたことは、イスラエル国防軍(IDF)が公開した映像によって確認されている。F-35IはIAF唯一の第5世代ステルス戦闘機として、高度なステルス性、防空システムや敵機の脅威を迅速に探知・識別し、位置を特定する能力を有している。また、これらの情報を他の戦闘機に共有する能力、そして特定した標的を正確無比に攻撃する能力を備えていることから、イラン中枢部の重要施設への空爆に用いられたと推測される。さらに、F-35Iアディールは開発・生産元であるアメリカ以外で、独自にカスタムすることが許可された機体として、特異な能力を有している。
F‑35I Adir(アディール)


米国のロッキード・マーティン社が開発・製造するF-35ライトニングIIには、通常離陸型のA型、短距離離陸・垂直着陸型のB型、そして空母運用型C型が存在する。同盟国および友好国は、基本的にこれら3つの派生型のいずれかを採用・運用しているが、イスラエルはF-35A型を基盤とした独自の派生型「F‑35I Adir(アディール)」を運用している。
イスラエルは2010年10月に合意書を締結し、米国政府の対外有償軍事援助(FMS)プロセスを通じてF-35を選択した最初の国となった。イスラエル空軍(IAF)は、F-35にヘブライ語で「力強い者」を意味する「Adir(アディール)」という名称を与えた。2016年6月22日、IAFはイスラエル向けの最初のF-35Iアディールを受領した。IAFのF-35飛行隊は、イスラエルのネバティム空軍基地で実施された集中的な統合および訓練を完了し、2017年12月に運用可能と宣言された。
F-35Iアディールの最大の特徴は、イスラエルが米国主導のソフトウェア更新サイクルに依存せずに、ミッションデータとプログラミングを変更し、電子戦からデータリンク、サイバーセキュリティに至るまで、自国開発のシステムを統合できる点にある。これらの独自の機能により、F-35Iはイスラエル空軍のニーズに合わせて高度にカスタマイズすることが可能となり、イスラエル独自の戦術運用・兵装に対応するため、大幅な改修が施されている。
F-35Iは「プラグイン型」システムを採用しており、イスラエル国産の電子戦、サイバー攻撃対応、またAI補助型ミッションプランニングなどが組み込まれている。これにより、イスラエル国産のSorek(ソレク)データリンクシステム、Python-5空対空ミサイル、SPICE 1000/2000 誘導爆弾シリーズなどが統合されている。また、特別に設計されたステルス対応の増槽タンク(Conformal Fuel Tanks; CFT)や、任務に応じて使える外部ドロップタンクが開発されている。ドロップ式で最大40 %の燃料増加が可能とされる。どちらも実戦で使用されたという報告はない。
F-35の改修整備はアメリカ主導のグローバルサプライチェーンで行う必要があるが、F-35Iはイスラエル自国整備施設で直接作業が可能である。これは唯一の例外的な運用許可であり、他国には認められていない。
なぜ、イスラエルだけ特別待遇
米国にとってイスラエルは、中東地域における最重要軍事同盟国である。米国はイスラエルが中東で「軍事的優位性(Qualitative Military Edge, QME)」を維持するため、サウジアラビアやUAEといった湾岸諸国がF-35の購入を求めているが、米国はこれを許可していない。また、他国には許されない特例を設けている。F-35導入交渉の中で、イスラエルは「改修権限がなければ導入しない」と強く主張した。イスラエルは常に周辺諸国と戦争状態にあるため、いちいち米国の承認やアップグレードを待って整備することは致命的である。そのため、「部品制限なし・自国で完全整備可能」な例外運用が必要であった。F-35の売却交渉は2007年から長期間に及び、イスラエル側が譲らない事もあり、最終的に米国が折れて承認した。ただし、ステルス構造やコア飛行制御ソフトへのアクセスは許可しなかった。
実際に、イスラエルのこういった対応は功を奏した。ロッキードマーティン社とF‑35共同プログラムオフィス(JPO)が16億ドルをかけて開発したF-35のコックピット電子機器をアップグレードするTechnology Refresh 3 (TR-3) ハード/ソフトウェアは、2023年生産の機体から搭載される予定であったが、飛行試験中に不安定なコードが発見されたことによる遅れが続いたため、米国防省は昨年6月に納入を停止、約1年間に渡って納入が停止された。2024年7月以降に修正版TR‑3搭載機の受領が再開されたが、未だ最終試験と運用承認に向けたテストを継続中と報じられている。イスラエルはこの影響を受けることなく、独自にアップグレードが行え、高い稼働率を誇っている。
イスラエル空軍では約42機が現在運用されており、さらに30機が追加発注されている。