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ロシア空軍はなぜ、貴重な爆撃機を掩体壕や格納庫に入れて隠さなかったのか

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6月1日、ロシア航空宇宙軍はウクライナ軍によるドローン攻撃を受け、多数の軍用機を喪失しました。当初、ウクライナ軍は航空機40機の破壊を発表しましたが、その後の分析により、最大20機の軍用機が被害を受け、うち10機が完全に破壊されたことが判明しています。これは依然として甚大な損害です。多くの人々が驚いたのは、多数の戦略爆撃機および早期警戒機が屋外に無防備に駐機されていた点でした。ロシア空軍の戦略爆撃機がドローン攻撃を受けるのは今回が初めてではなく、これまでに複数回攻撃を受けています。なぜ掩体壕や格納庫に保管されていなかったのでしょうか。

戦略爆撃機は抑止兵器であり、見せること自体が任務

ウクライナ、北極圏にあるロシア軍基地を攻撃!Tu-22M3爆撃機を損傷させる
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長距離飛行し、敵領内で核爆弾を投下する戦略爆撃機は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と並び、核戦力の三本柱の一角を成します。しかし、地中に格納されるICBMや、秘匿性が高く所在が不明なSLBMとは異なり、戦略爆撃機はあえて衛星写真で確認できるよう屋外に駐機することで、その戦力を誇示し、「我々はいつでも(攻撃する)準備ができている」というメッセージを相手国に送るという、戦略的な意図が背景にあります。これにより抑止効果を発揮する兵器として機能します。

即応性と運用の効率性

屋外駐機は、格納庫への出し入れの手間を省き、即応性を高めるための選択肢です。特にロシアは現在ウクライナとの戦争中であり、爆撃機は空爆のために頻繁に出撃しています。屋外駐機の状態で燃料・兵装・搭乗準備を整えておくことで、数分以内のスクランブル発進が可能となります。長時間飛行を前提に設計された爆撃機は耐候性を備えており、短中期的な屋外駐機においても問題が少ない場合が多いです。

攻撃されるリスクが少ない

戦略爆撃機は1万km以上の航続距離を持つこともあり、基本的には攻撃されるリスクが高い前線には配備されません。今回、ウクライナ軍の攻撃により甚大な被害を受けたロシア軍のオレニャ空軍基地はウクライナ国境から2,000km、ベラヤ空軍基地は4,500kmも離れています。これは従来想定されるウクライナの通常兵器では容易に届かない距離です。ロシア空軍はこれを踏まえ、爆撃機部隊を移動させていました。しかし、今回、その想定が崩れた形となりました。

そもそも収納する格納庫や掩体壕がない

そもそも、ロシア空軍は機体が大型である爆撃機を隠そうにも、これら機体を収納できる格納庫の数が圧倒的に少なく、爆撃機を収納できる掩体壕は存在しません。Tu-160の全長は約54m、翼幅約55m(可変翼で最大時)、Tu-95は全長約49m、翼幅約50mです。このサイズの機体を収容できる掩体壕は非常に巨大かつ高価であり、ソ連・ロシアの軍事予算では非現実的でした。ロシアに掩体壕が存在しないわけではありませんが、それは主に戦闘機用です。一部、密閉倉庫型格納庫は存在しますが、これらは常時駐機用ではなく、整備・保管専用とされ、稼働機に使用しません。ソ連時代にTu-160が配備されていた基地には巨大な格納ハンガーがあったようですが、それは主にNATOに近い旧ソ連地域に集中していたため、現在のロシアには常時爆撃機を保管できる格納庫はほとんどなく、露天保管が基本となっています。

ちなみに米軍においてもB-52、B-1の両爆撃機は露天保管が基本です。ただし、ステルス機であるB-2のみは異なります。レーダー吸収塗料(RAM)は熱・湿気・紫外線に弱い性質があるため、専用格納庫で温度・湿度管理された保管が義務化されています。B-2の拠点であるホワイトマン基地や前線基地であるグアムやディエゴガルシア島の基地には専用格納庫が設置されています。

ロシア空軍の戦略爆撃機の中で最も新しく、現在も生産が続いているTu-160にもステルスコーティングが施されていますが、露天保管が基本とされています。B-2のような完全ステルス機と異なり、Tu-160は「ある程度使えるステルス性」が確保できれば十分とされており、ステルス性能の劣化は織り込み済みで、劣化すれば再塗装すればよいという認識のようです。それよりも前述した抑止力と即応性に重点を置いています。とはいえ、Tu-160の損失はまだ1機も確認されておらず、Tu-95、Tu-22Mよりも慎重に保管、扱われているものと思われます。

ロシア空軍はウクライナとの戦争で少なくとも11機のTu-95MS、9機のTu-22Mの両爆撃機を失っており、これは看過できない数です。既に両機は生産を終了しており、戦力の補充はできません。ロシア軍も対策を行っており、コンクリート製の壁や擬装ネット、防護構造物を設置し始めています。また、爆撃機の上部にタイヤを乗せているのを不思議に思った人も多いと思いますが、あれは、タイヤによって爆発の衝撃や破片を吸収・分散し、小型爆弾やFPVドローンの着弾被害を軽減する効果があるとされます。また、擬装・目くらまし効果として、機体のシルエットを変化させたり、熱源や形状を隠したりすることで、赤外線や光学センサーへの対抗手段になる効果があるとされます。しかし、今回の攻撃であまり効果が無いことが判明しました。

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