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なぜ戦場でハサミが必要なのか?ウクライナ軍ドローン兵の携行装備が示す現代戦

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ウクライナ紛争が5年目に突入する中、無人航空機(ドローン)はウクライナ軍の軍事作戦において不可欠な中核戦力へと変貌を遂げた。圧倒的な戦力を誇るロシア軍に対し、ウクライナのドローンオペレーターたちは、偵察、攻撃、そして時には迎撃といった複雑かつ多岐にわたる任務を最前線で遂行している。

そのドローンオペレーターの一人、Dimko Zhluktenko(ディムコ・ズルフテンコ)氏の装備品は、現代戦の様相を鮮明に映し出している。元ウクライナ軍のドローンオペレーターであり、現在はウクライナ無人システム部隊(Unmanned Systems Forces)のアナリストとして活動する同氏が詳細に語った携行品は、軍からの支給品、自ら選び抜いた私物、さらにはクラウドファンディングで調達した品々が混在しており、テクノロジーの進化と戦場の現実が融合した独自の構成となっている。これは、今後の戦場で主力となるであろうドローンオペレーターの標準装備を考察する上で、極めて重要な参考情報となる。

Zhluktenko氏が特に重視したのは、軍から支給された装備をそのまま使用するのではなく、自身の戦術、役割、そして身体的特徴に合わせて装備を最適化する姿勢である。軍の支給品が必ずしも最善ではないという認識から、自身の体格や任務内容に合わせたカスタマイズを施すことで、高い機動性と十分な保護性能の両立を図っている。こうした「自前主義」は、柔軟性が求められる現代のウクライナ軍において広く見られる傾向だ。彼は以前、ITテック業界で働いていた技術的背景を持つ。軍への配属後、その知識を活かして装備の使い勝手や性能を徹底的に評価し、必要不可欠と判断したツールは積極的に導入してきた。装備の総重量は約10kg前後に抑えられており、これは長時間の任務遂行における持ち運びの負担と実用性の間で、緻密なバランスが取られていることを示している。

ドローンオペレーターの必須携行品リスト

ドローン検知機(Drone Detector)

最前線では敵味方問わず無数のドローンが飛び交うため、無線周波数(RF)をスキャンして飛行体の存在を迅速に察知するこの装置は必須中の必須装備である。これにより、オペレーターは周辺のドローンの存在をいち早く把握し、戦術的な対応(隠蔽、移動、迎撃)を取ることができる。高性能なモデルでは、時には相手機の映像を解析する機能も備えているという。

光ファイバーケーブル対応用ハサミ

近年、電波妨害(ジャミング)に強い「光ファイバー付きドローン」が戦場で増加している。これらのドローンは、有線で制御・通信を行うため、ジャミングの影響を受けにくい。Zhluktenko氏の装備では、この光ファイバーケーブルを物理的に断ち切るためのハサミが標準ツールとなっている。彼は隊員全員分にリトラクター(紛失防止のための伸縮性のあるコード)を用意し、このハサミを常備させていたという事実からも、その重要性が窺える。

対ドローンネットランチャー

ウクライナ製のこの装備は、ネットランチャーとして機能する単発式の対ドローン兵器である。敵ドローンのプロペラに特殊なネットを絡ませて飛行不能にし、撃墜することを目的としている。電子妨害や高出力レーザーなどのハイテクな対抗手段が揃う現代戦において、物理的な捕獲という原始的でありながら有効な手段として注目されている。

GoProカメラ

胸部に装着するアクションカメラは、単なる記録用ではない。任務中のオペレーターの行動やドローンの映像を録画し、これを後で分析・評価するための「戦術リプレイ」として活用することで、次期任務の改善点を見つけ出し、戦術の洗練に役立てられている。

無線機

基本的な通信手段として、信頼性の高いモトローラ製の無線機を携行している。これにより、隊内での連携や後方支援部隊との連絡を維持する。

ナイトビジョンゴーグル

夜間の任務遂行やドローンの離着陸時に使用される。暗闇での視認性と精度を高めることで、夜間作戦能力を担保する。

携行火器

ローンオペレーターは直接交戦を主目的としないが、最前線では予期せぬ遭遇戦の可能性が常にあるため、自衛的な目的で小銃を携行する。供与されるのは主に旧式の旧ソ連製AKシリーズだが、Zhluktenko氏は握りやすさを向上させたり、光学機器を追加するためにハンドガードを自作・改良するなど、使い勝手の向上に努めている。

ボディアーマーと防弾装備

砲弾や敵ドローンによる攻撃の脅威は絶えず存在するため、個人防護装備は必須である。同氏は、市販品の中から自ら選定した装甲ベストを使用し、腹部、背部、肋骨、腰部をカバーする複数の防弾パネルを装着している。これは、高い保護性能と可動性を損なわない重量バランスを考慮した結果である。これに加え、防弾グラスや軽量ヘルメットも装備している。

ターニケット(止血帯)

戦場での負傷に備え、複数の止血帯を携行する。ウクライナ軍においては、救急後送(MEDEVAC)に時間を要する地域も多いため、この迅速な止血が可能なターニケットの存在が兵士の命綱となるケースが非常に多い。

ブーツとクロックス

長時間の任務を継続するために、兵士の足元の快適性への配慮が不可欠である。同氏は、ドイツのLowa製戦闘ブーツとオーソペディックインソール(矯正用中敷き)を組み合わせ、長距離の歩行でも疲労を軽減させた。休息時には、ウクライナのM-Tac製「タクティカル・クロックス」をリラックス用として重宝していたという。

グローブ

ドローンコントローラーの繊細な操作を行う上で、最も重要な手を保護するグローブには、世界中の軍・警察で愛用されるアメリカのMechanix Wear製シリコングリップグローブを着用。このグローブは、優れた感度と滑り止め効果を提供し、正確な動きを可能にしてドローン操作の精度を高める。

コンパス

電子戦が激化する現代の戦場では、スマートフォンやGPS機器のコンパス機能が敵の電子妨害(ジャミング)によって狂わされることが頻繁にある。そのため、伝統的な機械式コンパスが、電子機器に依存しない信頼性の高い定位手段として今なお重宝されている。

マルチツール、サングラスなど

この他にも、衛生管理のための手指消毒剤、食事や細かな作業に役立つナイフ付きマルチツール、強い日差しから視界を確保するサングラス、そして同じく日差しから頭部を護るキャップも携行リストに含まれている。

Zhluktenko氏の装備リストは、単なる一兵士の持ち物という範疇を超え、21世紀の戦闘がドローンオペレーターに要求する機能性柔軟性の融合を体現している。最新鋭の無人システムや電子装備が導入される一方で、ハサミや機械式コンパスといった原始的な道具が不可欠であるという戦場の現実は、技術だけでは語り尽くせない戦闘環境の複雑さを示している。また、現代戦においては、兵站や供給網だけでは補いきれない現場の要求に対応するため、「装備の選択権」が兵士個人へ委ねられる場面が増加している。個々の兵士による現場での判断と、それに基づいた装備の最適化は、生存性や作戦成功に直結する。Zhluktenko氏の体験はその象徴であり、彼の装備選択の哲学は、ウクライナ軍全体の戦い方に影響を与えつつあると言えるだろう。

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