

米海軍が、次世代の「ジェラルド・R・フォード級」原子力空母について、艦橋に相当する「アイランド」の配置を見直す可能性が浮上している。背景にあるのは、ドナルド・トランプ大統領の「第二次世界大戦期の空母に近い外観にしたい」という意向だ。この件は米紙ワシントン・ポストが8月15日(現地時間、土曜日)に最初に報じ、その後USNIニュースやザ・ヒル、ロイターなど複数メディアが後追いで確認しており、報道内容の信頼性は高いといえる。
なぜフォード級のアイランドは後方にあるのか


フォード級最大の特徴の一つが、アイランドを従来型より後方かつ外側へ寄せた飛行甲板レイアウトだ。ニミッツ級と比べ、フォード級の就役艦「USSジェラルド・R・フォード(CVN-78)」のアイランドは規模が約3割小さいうえ、後方かつ外側へおよそ42.7メートルずれた位置にある。これにより発艦カタパルト・着艦エリア・エレベーターとアイランドの間に広い作業スペースが確保されている。
海軍関係者3名がワシントン・ポストに語ったところによると、この配置には
(1)カタパルト付近に多くの機体を待機させられる
(2)発艦前の機体移動の回数・距離を減らせる
(3)アイランドが生む乱気流を着艦経路から遠ざけられる
という3つの運用上の利点がある。実際、米政府監査院(GAO)も、フォード級の小型化されたアイランドが出撃(ソーティー)発生率に大きく寄与していると指摘しており、単なる意匠ではなく戦力発揮に直結する設計であることが裏付けられている。
8月13日の大統領覚書 ― 空母だけの話ではない
今回のアイランド移設案は、トランプ政権が8月13日に発出した「米海軍と米国造船産業基盤の再建」と題する国家安全保障大統領覚書と地続きの動きだ。この覚書は、電磁式カタパルト「EMALS」と高度航空機兵器エレベーター(AWE)を、建造中の4番艦「ドリス・ミラー(CVN-81)」から蒸気式・油圧式へ戻す検討を指示する条項に加え、第5の公共造船所の新設や潜水艦用ドライドックの増設、フィンランド方式と呼ばれる海外造船所の活用など、米海軍造船基盤全体のてこ入れを含む広範な内容となっている。ヘグセス国防長官(国防総省は現在「戦争省」に改称)は、代替措置・工程・所要予算をまとめた計画を、覚書発出から60日以内に大統領へ提出するよう求められている。トランプ氏はEMALSについて2017年から「複雑すぎる」「昔ながらの蒸気式に戻すべきだ」と繰り返し批判しており、今回は長年の持論を政策として具体化した形だ。
数字で見るコストとリスク
EMALSは既にフォード級で実運用されており、就役艦「フォード」だけで今年3月時点までに3万6863回の発艦を記録している。フランス海軍も次期空母向けにEMALSと最新式着艦拘束装置の採用を決めている。製造元ジェネラル・ダイナミクス系の防衛企業ゼネラル・アトミクスは、既に生産が5割近く進んだ段階での方針転換は「重大なコスト増・工程遅延・統合リスク」を招くと警告している。過去にもアイランド移設は検討されたが、元政府高官によれば当時の試算でも数十億ドル規模の費用増と大幅な遅延が見込まれていた。ハドソン研究所のブライアン・クラーク氏は、アイランド移設は艦の重量配分や浮力にも影響する大改造になると指摘している。
専門家からは懐疑的な声も
元海軍の海洋戦略担当者ハンター・スタイアーズ氏は、艦のデザインは見た目のためではなく実戦での勝利のためにあるべきだとして、外観を理由にした設計変更に否定的な立場を示している。フォード自身についても、今年2月に実施された4日間の発艦能力(ソーティー生成)試験でニミッツ級を上回る成績を収めたとされるが、海軍は詳細データを公表していない。
対象は就役中の「USSフォード」ではない
改めて強調すべきは、現在就役中の「USSジェラルド・R・フォード(CVN-78)」を改造する話ではないという点だ。現在、建造中なのは2隻(CVN-79「ジョン・F・ケネディ」、CVN-80「エンタープライズ」)。ケネディは今年中の引き渡しが見込まれており、今回の設計変更が主に及ぶのは2026年末に起工予定のCVN-81「ドリス・ミラー」以降の艦になるとみられる。仮に実現すれば、初期のフォード級と後期建造艦とで艦の外観・内部設計が異なる「シリーズ内での分岐」が生じる可能性がある。それはもはやジェラルド・R・フォード級ではなく、別級の空母といってよいだろう。
背景にある需要逼迫
今回の検討は、イラン情勢をめぐる作戦需要で空母への負荷が高まっている最中に浮上した点も見逃せない。「USSエイブラハム・リンカーン」は260日以上にわたり中東に展開しており、乗員の勤務環境について米議会から懸念の声も上がっている。建造中の空母にまで設計変更を加えれば、ただでさえ長期化しているフォード級の建造工程(1番艦は完成までに17年を要した)がさらに遅れる恐れがある。ドリス・ミラーの起工は2027年以降になるだろう。そうなると、ニミッツ級の退役計画は数年後ろ倒しになる。
トランプ政権が示す方向性――EMALSから蒸気式カタパルトへ、高度兵器エレベーターから油圧式へ、そしてアイランドを艦中央寄りへ――が全て実現すれば、後期建造のフォード級は現行艦とかなり異なる姿になる。ただし現時点では、アイランド移設はあくまで「検討段階」であり、正式決定ではない。海軍内では今後数週間かけて、飛行甲板運用や出撃率への影響を精査したレビュー結果がまとめられる見通しで、最終的にどこまで実現するかは依然として不透明だ。
主な参照元: The Washington Post(初報)、USNI News、The Hill、Reuters、Navy Lookout、The War Zone、Marine Insight、Army Recognition、Benzinga
