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世界で唯一現役のイラン空軍のF-14トムキャットが破壊される

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イラン空軍のF-14トムキャット戦闘機が、イスラエル国防軍による空爆を受け破壊された。現在、アメリカ海軍の同機種は全機退役しており、イランは世界で唯一F-14を運用する国である。

2025年6月16日未明、イスラエル国防軍(IDF)は、テヘラン近郊の空軍基地に駐機中のF‑14トムキャット2機に対し、精密な空爆を実施し、これを破壊した旨を映像付きで公式発表した。赤外線カメラによる映像には、F-14の機影が鮮明に捉えられており、同機特有の可変翼機構も確認できる。攻撃は戦闘機または無人航空機(ドローン)による空対地攻撃であったと報じられている。2機はいずれも機体中心部に攻撃を受け、炎上しているのが確認され、直接的な攻撃であったと見られることから、機体の修復は不可能であると考えられる。

イランは世界で唯一のF-14トムキャット運用国

マーヴェリックも乗ったF-14トムキャットがイランで墜落
IRIAF

F-14トムキャット戦闘機は、アメリカのグラマン社が開発した艦上戦闘機であり、映画『トップガン』でトム・クルーズが搭乗したことで広く知られている。1974年よりアメリカ海軍で運用が開始されたが、2006年に全機が退役し、現在アメリカ国内でその姿を見ることはできない。しかしながら、F-14をアメリカ以外で採用していた国が唯一存在し、それがイラン・イスラム共和国である。同国では現在もF-14が現役で運用されている。1970年代まで、イランは親米派のモハンマド・レザー・シャー皇帝が統治しており、アメリカと良好な関係を構築していた。アメリカから多数の兵器を輸入し、その中には当時最先端の戦闘機であったF-14も含まれており、80機の購入契約が締結された。F-14は計700機が生産されたが、採用国はアメリカとイランの二か国のみである。ベトナム戦争から2003年のイラク戦争にかけて、F-14トムキャットは主にアメリカ海軍で活躍し、135機の撃墜記録があるが、そのうち約30機はイラン空軍によるものである。

機体数は半数に

1978年にイラン革命が発生し、親米政権が打倒され、反米政権が樹立されると、F-14トムキャットの納入は中断された。しかしながら、契約数80機のうち、既に79機が納入されており、未納は1機のみであった。革命後、アメリカ合衆国との関係が悪化し、イラン空軍は開発・生産元のグラマン社のサポートを受けることができなくなった。徐々に部品不足に陥るも、第三国を通じてスペアパーツを入手するなどして、なんとか運用を継続した。しかし、1990年代に入ると、アメリカからの締め付けが厳しくなり、2000年には国際連合からも制裁を受け、スペアパーツの入手が困難となり、機体の維持に苦労することとなった。機体からパーツを流用する共食い整備が行われ、現在稼働する機体は約半数の40機に減少している。さらに、飛行可能な機体は20機前後にまで減少し、完全運用可能な機体はその半分の10機前後という報告もある。

そのような状況下においても、イラン・イスラム共和国はリバースエンジニアリングを行い、独自に近代化改修を行い「F‑14AM」を開発した。旧式の米国製アビオニクスをロシア製・中国製の電子機器に換装し、さらにR-27やR-73といったロシア製空対空ミサイルを統合している。現在、確認されているこの近代化モデルはわずか2機のみである。

破壊されたのは非稼働の地上放置機体か

平時よりイスラエルの攻撃を警戒するイラン空軍およびイスラム革命防衛隊は、貴重な航空資産を基本的に地上に放置しない。特に、米国製のF-14トムキャットやF-4ファントムは半世紀にわたり使用されており、イラン空軍にとって象徴的かつ重要な存在であり、代替機の導入が困難である。これらの機体は掩体壕や地下バンカーで厳重に保管されている。そのため、今回イスラエル軍によって破壊された機体は、部品取りなどに使用された非稼働の地上放置機体であり、デコイ目的で設置されていたものという報道もある。

F-14はイラン空軍の象徴でもあり、世界で唯一の「現役トムキャット運用国」として、国威発揚の象徴でもある。これを破壊することは、国内外に心理的に大きな影響を与える。しかしながら、近代化されたF‑14AMでない限り、イランの航空戦力に与える影響は軽微である。イラン空軍はF-14以外にも20~30機程度のロシア製Mig-29を運用している。F-14、F4、F-5といったアメリカ製とは異なり、ロシアから部品の調達やアップグレードが容易であり、制約が少ない。今回のイスラエルの攻撃でMig-29が離陸するのが確認されており、前線・即応戦闘機はMig-29が担っている。また、イスラム革命防衛隊が2023年にF-14の後継機として、ロシアから第4.5世代戦闘機であるSu-35を24機購入する契約を締結した。既に複数機が納入されているという報道があるが、まだ実戦配備されたという情報はない。

今回、イスラエルは空軍基地にも攻撃を行っているが、対象がミサイル施設であったり、イランの航空資産が強固な地下バンカーに保管されていることもあり、航空資産の損害は今回の2機のF-14トムキャットしか確認されていない。

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