

欧州と米国との間で亀裂が深まる中、F-35AライトニングII戦闘機を発注しているベルギーは米国ではなく、欧州での生産拠点があるイタリアでの組み立てを求めた。
ベルギーのテオ・フランケン国防・外務貿易相は14日月曜日、ヘット・ラーツテ・ニュースのインタビューで、イタリアのグイド・クロゼット国防相に自国が発注しているF-35戦闘機をイタリアのカメリにある最終組み立て・検査工場(FACO)施設での生産を提案した。ベルギーは2018年に老朽化したF-16に代わる機体として、34機のF-35AライトニングIIを導入する事を決定。初号機は2023年11月にロールアウトし、テキサス州フォートワースで引き渡された。しかし、最新版ソフトウェアの「テクノロジー リフレッシュ3(TR-3)」のアップグレードが遅延している関係で、残りの発注分の機体の納入は遅れている。ベルギーはこの残りの発注分を米国ではなく、イタリアで生産したいと考えている。
フランケン国防相はイタリアで生産する事で新たな雇用を生むと述べている。そしてこの動きは防衛予算が増加する中、地域産業の強化を目指すEUの政策と一致する。欧州委員会は加盟国に対し、防衛費借入の増加を正当化するために「欧州購入」を優先するよう奨励している。そして、欧州での生産に関心を示した背景には、貿易制限や、同盟国であるカナダやデンマークの領土を徴収、ロシア寄りの発言をするドナルド・トランプ大統領とその取り巻きによる挑発的な発言を背景に、米国製のF-35の信頼性について複数の同盟国首脳が公に懸念を表明していることがある。米国との亀裂が増す中、欧州での生産を強化する事は欧州の防衛の自立性、そしてNATOの航空力戦略の要であるF-35の複雑な兵站を統合する狙いがある。
世界に3つあるF-35の最終組み立て・検査工場(FACO)
イタリアの防衛企業レオナルド社がF-35の開発生産元であるロッキード・マーティン社と共同で設立したピエモンテ州にあるカメリ工場は3つあるF-35の最終組み立て・検査工場(FACO)施設の一つだ。他には米国テキサス州フォートワースにあるロッキード社の工場、そして、日本の名古屋にある三菱重工業の工場がある。ここではF-35の最終組み立て及び、運用・保守サービスが提供されている。カメリでは主にイタリア、オランダ、スイス向けのF-35Aが生産されており、現在はスイス空軍向けが生産中で36機の発注の内、24機がここで生産される予定だ。戦略的な立地と高度なインフラにより、カメリは米国での生産に代わる現実的な選択肢となり、欧州の事業者にとっては米国から輸入するよりも物流を簡素化することが出来る。もともと欧州諸国は、新型コロナウイルスのパンデミックの際は地政学的緊張など、世界的な混乱によって露呈した弱点に対応して、防衛サプライチェーンに対する管理を強化しようとしており、欧州の防空を担うF-35の物流拠点を欧州内に置きたいと考えていた。2022年3月に35機のF-35A導入を決めたドイツでは同国の防衛企業ラインメタル社が、F-35の中央胴体部分の生産を行う予定で 2025年7月にオランダ国境近くのヴェーツェで工場が稼働を開始する。ここでは400機分の胴体が生産される予定であり、欧州で400機のF-35が生産される事を意味する。
ベルギーの提案が通れば、ポーランド、フィンランド、チェコなど、他のF-35採用国もイタリアでの生産を求める可能性が高い。しかし、カメリの年間生産能力は15機ほどとされ、生産設備を拡張できるかどうかは不明だ。日本の生産能力は年間10機未満とされ、そもそも海外輸出はできない。F-35の最大生産施設は米国のフォートワース工場であり、現在の年間156機の生産能力の大部分はここが賄っている。既にラインを整った分を削減して他国に移管することは現実的ではない。そもそも、欧州に生産を移管したとしても重要なコンポーネントやソフトウェアのアップデートはアメリカが握っており、依存することに変わりはない。それもあってか、カナダとポルトガルはF-35の調達を見直している。カナダは88機のF-35を発注しており、地理的に米国製の購入は必須だが、トランプ氏の「51番目の州」という発言に激怒、新首相のマーク・カーニー氏は、発注の見直しを示唆。ポルトガルはまだ計画段階だったが、これを見直している。現状、言える事は欧州の防衛費が増大するなかNATO同盟国からのF-35の追加発注は見通せないということだ。