

インド海軍は、運用中の空母INSヴィクラントとINSヴィクラマーディティヤに搭載されたロシア製MiG-29K戦闘機の後継機として、フランスのダッソー社が開発・製造するラファールM艦上戦闘機26機(単座型22機、複座型4機)の購入契約を正式に締結した。このラファールMの調達は、昨年夏のフランス・マクロン大統領のインド訪問に先立ち、インド国防省の国防調達評議会ですでに決定されていた。
パキスタンとの緊張が高まる中、インドは4月28日月曜日に、インド海軍向けのラファールM戦闘機26機を調達するための政府間協定(IGA)に署名した。調達額は約6400億ルピー、日本円にして1兆円に達する。納入は2028年半ばに始まり、2030年までに完了する見込みである。この契約には、訓練、シミュレーター、関連装備、兵器、パフォーマンス・ベース・ロジスティクス、そして、契約はラファールMだけではなく、現在インド空軍が運用する36機のラファールの追加装備、国産兵器の統合に関する技術移転が含まれており、航空機エンジン、センサー、兵器の整備・修理・オーバーホール施設をインドに設置する。パイロットはフランスとインドの両国で訓練を受ける予定である。
インド海軍は、2022年に就役した初の国産空母INSヴィクラントの艦載機調達を長年検討してきた。当初は、既存の空母INSヴィクラマーディティヤに搭載しているロシア製のMig-29K艦上戦闘機をヴィクラントの艦載機とする方針だったとされる。インド空軍はMig-29とライセンス生産のSu-30MKIを運用していたこともあり、ロシア製のMig-29K調達は既定路線と思われたが、2009年から2017年にかけて納入された45機は、導入直後から墜落事故や着陸時の損傷が頻発した。さらに、2014年のクリミア侵攻に伴うロシアへの経済制裁により、インドが求める部品の組み込みが困難になるなど、期待された性能を発揮できなかった。そのため、海軍はMig-29Kの追加調達は却下し、後継となる57機の多用途艦上戦闘機(MRCBF)計画を開始し、最終的にアメリカ海軍が艦載機として運用するボーイング社製のF/A-18E/Fスーパーホーネットと、フランス空母シャルル・ド・ゴールで運用されているラファールMが候補に残った。
F/A-18スーパーホーネットに勝利


F/A-18スーパーホーネットは、ヴィクラントのスキージャンプ式(STOBAR)飛行甲板での運用テストで問題がないことが実証され、艦載機としての実績も豊富であり、ラファールMにはない折りたたみ式の翼は空母の搭載能力を最大限に活かせると高く評価された。また、国産戦闘機HAL Tejasと同じエンジンを使用していることもあり、最有力候補と目されていた。しかし、インドメディアは、ラファールMの方が海軍の要求を満たしており、スーパーホーネットを打ち負かしたと報じた。インド空軍がすでにラファールを採用し、2個飛行隊を運用していることから、整備や部品の共有化といったメリットが多いラファールMが選ばれるだろうという見方が大勢を占め、結果としてその予測通りになった。
F/A-18スーパーホーネットは2025年末で米海軍向けの生産を終了する予定であり、工場の生産ラインも閉鎖されることになっていた。インド海軍に採用されれば、少なくとも2027年まで生産が継続される可能性があったが、落選したため、製造元のボーイング社は2025年にスーパーホーネットの生産ラインを閉鎖することを正式に発表している。
ラファールMは、インド海軍が保有する空母「ヴィクラマーディティヤ」と「ヴィクラント」の両方で運用される予定である。しかし、ラファールMをエレベーターに搭載し、最適な性能を発揮させるためには、機体と空母の飛行甲板に若干の改修が必要になると報じられている。ラファールMの翼には折りたたみ機能がないため、現状ではエレベーターに載せるために主翼両端のパイロンを取り外す必要があり、移動前に数分間の作業が必要となるという。
多用途艦上戦闘機(MRCBF)計画では、56機の調達が予定されている。今回締結された調達数は26機と半数に満たないため、今後追加発注が行われる可能性もある。また、インド空軍は追加で40機のラファール調達を検討しているとも報じられている。フランス側は100機以上のラファールの注文でライセンス生産と技術供与を認める方針であるとも伝えられており、今後追加発注される可能性は高い。ただし、インドは将来的には国産化を目指しており、現在、国産の次世代艦上戦闘機「TEDBF(Twin Engine Deck Based Fighter:双発艦上戦闘機)」の開発を進めており、2032年の実用化を目指している。