

アメリカ陸軍は、将来長距離強襲航空機(FLRAA)として採用が決定されたティルトローター機「V-280 Valor(バロー)」の陸軍における正式名称を「MV-75」に決定し、配備される最初の部隊を指定した。
2025年5月14日、テネシー州にて開催された陸軍航空年次会議において、ジェームズ・ミンガス陸軍副参謀総長が演説を行い、既に調達が決定済みの将来長距離強襲航空機(FLRAA)の名称がMV-75に決定した旨を発表した。FLRAAに採用されるティルトローター機は、これまで「V-280 Valor(バロー)」と呼称されていた。
MVの「M」は「Multi-mission(多目的任務)」を意味し、多様な任務への対応能力を示す。「V」は「Vertical Takeoff and Landing(垂直離着陸)」を指し、ティルトローター機の垂直離着陸能力を特徴づける。数字の「75」について、現在米海兵隊にはMV-22オスプレイが配備されており、従来の命名規則では20番代、または30番代の数字が用いられるが、「75」という数字は、米陸軍の広報担当者によれば「アメリカ陸軍が誕生した1775年への敬意を表したもの」と説明されている。
米陸軍は、精鋭部隊の一つである第101空挺師団に対し、MV-75を最初の配備部隊として指定した旨を発表した。第101空挺師団(101st Airborne Division)は、空襲作戦遂行を目的として米陸軍内に編成されたモジュール式軽装歩兵空挺師団である。かつてはエアボーン部隊(落下傘降下)であったが、現在はヘリボーン(ヘリコプター降下)に特化した部隊となっている(第82空挺師団がエアボーン部隊)。同師団は、師団本部および本部大隊、3つの歩兵旅団戦闘チーム、砲兵旅団、戦闘航空旅団、並びに維持旅団によって構成されている。米陸軍は、同師団への決定理由について、「本決定は、その任務内容と戦域の要求に基づいたものであり、理に適っている。第101師団は、迅速な展開と厳しい条件下での作戦行動が想定される部隊である。」と説明している。MV-75は、戦術攻撃および医療搬送用航空機として位置づけられており、陸軍に対し、「厳しい環境下においても生存可能な」長距離、高速の選択肢を提供するとされている。
MV-75
Decades of Experience. One Unified Team. 💪#TeamFLRAA combines generations of engineering excellence to build an aircraft ready for tomorrow’s fight.
— Bell (@BellFlight) May 13, 2025
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アメリカ陸軍は2022年12月5日、老朽化した多用途ヘリのUH-60ブラックホークの後継機を開発するプロジェクト「将来型長距離強襲機」(FLRAA)にTextron社傘下のBell・Helicopter社が開発するティルトローター機「V-280 Valor(バロー)」を採用することを発表。13億ドルを上限とする初期契約を締結した。
V-280ことMV-75は、V-22オスプレイの開発実績を有するベル社とロッキード・マーティン社によって、V-22の開発経験を基盤として開発された。本機は垂直離着陸、ホバリング、および直線飛行を可能とする傾斜可変式ローターを備えている。ただし、V-22とは異なり、エンジン・ナセルは固定されており、ローター部分のみが可変構造となっている。この設計により、V-22と比較して可動部分が減少し、構造の簡素化とメンテナンス性の向上が実現された。また、エンジン・ハウジングが障害とならないため、機体への出入りがより容易かつ安全に行える。V-280の主翼には直線翼が採用され、これにより両翼のエンジンを繋ぐドライブシャフトの構造が簡素化されている。その結果、片方のエンジンが停止した場合でも、反対側のエンジンのみで両方のローターを回転させることが可能となっている。エンジンは逆回転が可能であり、高い操縦性とホバリング安定性が実現されている。これらの特徴により、V-22と比較して安全性および信頼性が向上していると評価されている。
搭乗員は4名、収容人員は14名であり、最大速度は520km/h、航続距離は3,900km、戦闘行動半径は930~1,480km。ペイロードは最大5,443kgである。これはブラックホークの最大速度290km/h、戦闘行動半径570km、ペイロード4,100kgを大幅に凌駕する。
当初、2026年に初号機納入、限定的利用者試験は2027年から2028年に実施予定であったが、FLRAA競争で敗北したロッキード・マーティン社が評価の妥当性を疑問視し異議を申し立てたため、日程が延期された。現時点では2030年に納入予定である。しかしながら、陸軍はこれを2年前倒しし、2028年に実現可能であると見込んでいる。