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イラン、イスラエルに対抗するため、中国製J-10C戦闘機導入を検討か

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イランがイスラエル軍の航空戦力に対抗するため、中国のJ-10C戦闘機および早期警戒管制機(AWACS)システムの購入を検討しているという報道が、複数の中東メディアからなされている。この動きの背景には、2025年6月13日にイスラエルの攻撃によって始まった「12日間戦争」におけるイランの壊滅的な敗北がある。

6月13日に始まったイスラエルとイランとの戦争で、イスラエル軍は本格的な攻撃に先立ちイランの防空システムを無力化し、制空権を完全に掌握した。その後、イスラエル軍機はイラン領空に侵入し、核施設や軍事施設を空爆によって破壊。この攻撃により、60人ものイラン軍高官と核科学者が殺害され、その後も10日間にわたり、イスラエル軍戦闘機の空爆が続いた。イランは報復としてイスラエル本国に向けて弾道ミサイルや無人機を発射したが、イスラエル軍航空機の前ではほとんど無力だった。無人機の撃墜は確認されたものの、イスラエル軍の有人機の損失は報告されていない。さらに、イラン軍機がイスラエル軍機と空中戦を行ったという情報もなく、地上に駐機されていたイラン空軍のF-14トムキャットやF-5タイガーIIがイスラエル軍の空爆によって破壊されたことは確認されているものの、イラン軍機が撃墜されたという情報もない。これは、イラン空軍が保有する旧式の米国製F-14、F-4、F-5、そしてロシア製MiG-29といった戦闘機では、イスラエル軍の最新鋭F-35、近代化されたF-16、F-15には到底太刀打ちできないと判断し、出撃させなかったためと推測されている。また、地上のレーダーも破壊されていたため、仮に出撃したとしても、すぐにイスラエル軍に探知され、遠距離からの先制攻撃で撃墜されるのが関の山だっただろうとされている。

このような壊滅的な被害を受け、イランは空軍の近代化を喫緊の課題と認識。その解決策として、中国製戦闘機の導入に目を向けたのである。

J-10C:イスラエル製「ラヴィ」をルーツとする高性能機

Lavi

イランが特に注目しているのが、中国のJ-10C多用途戦闘機である。この戦闘機は、かつてイスラエルが開発していた幻の戦闘機「ラヴィ(Lavi)」の技術をベースに開発されたと言われている点で、非常に興味深い。

J-10は、中国の成都飛機工業公司が開発・生産する第4世代の多用途戦闘機だ。1990年代初頭に初飛行し、2005年には中国人民解放軍空軍で運用が開始され、パキスタン空軍も採用している。中国の戦闘機にはソ連/ロシア製の影響を強く受けたものが多い中で、J-10がイスラエルと米国の共同開発だった「ラヴィ」戦闘機をベースにしているという点は特異だ。

ラヴィの開発は1980年代初めに始まったが、米国が支援を打ち切ったことで1986年に開発計画は中止された。しかし、1992年に中国とイスラエルが国交を樹立した後、イスラエルの軍需企業IAIと成都飛機公司(CAC)の間で「ラヴィ技術を参考にした協力」があったと報じられている。この協力により、中国はラヴィに関する技術情報に前例のないアクセス権を得たと言われており、その情報を基に開発されたのがJ-10である。そのため、J-10の外観はフランスのラファールや欧州共同開発のユーロファイターといった西側製戦闘機に似ており、カナード付きのデルタ翼、ノズル付きのエアインテークとアフターバーナーを備えている。ただし、中国もイスラエルもJ-10とラヴィの関係については否定している。

J-10はシングルエンジン機で、当初はロシアのAL-31Fエンジンを搭載していたが、後のバージョンでは中国製のWS-10エンジンにアップグレードされている。最新のJ-10Cモデルにはフェーズドアレイレーダーが搭載されるなどアビオニクスが高度化されており、レーダー探知距離は最大170km、同時に10個以上の目標を検知・追跡可能だ。さらに、中国製の射程200kmのPL-15長距離空対空ミサイルと組み合わせることで、BVR(目視外戦闘)において高い戦闘力を持つと評価されている。J-10Cは「第4.5世代」に分類され、その性能はラファールやF-16V、F-15EXに匹敵すると言われている。模擬戦闘ではラファールに勝利した実績もある。しかも価格は4000万~5000万ドルとされ、これは破格の値段であり、経済的に厳しいイランにとって大きな魅力となっている。

信頼できないロシア、接近する中国

イランは2023年にロシアから第4.5世代戦闘機であるSu-35を24機購入することで合意していた。既に複数機が納入されているという情報もあるが、イラン国内では確認されておらず、納入が大幅に遅れているという情報もある。目下、ロシアはウクライナとの戦争中で、自国の防衛産業の生産能力が逼迫している。イランはこれまでロシアに対し軍事支援を行ってきたが、イスラエルと米国からの攻撃を受けた際、プーチン大統領は停戦仲介については前向きな姿勢を見せたものの、イランへの軍事支援については消極的だった。

このことは、イラン指導部がロシアを完全に当てにできないと悟ったことを意味する。そこで、近年関係を深めている中国からの兵器購入を検討するに至ったと推測される。中国は経済的にも軍事的にもイランにとって重要なパートナーとなりつつあり、今回のJ-10C購入検討は、イランの外交・安全保障政策における中国への傾倒をさらに強める可能性を示唆している。J-10Cの導入は、イランの航空戦力を劇的に近代化させ、イスラエルとの軍事バランスに変化をもたらす可能性を秘めている。特に、J-10Cがラヴィの技術をルーツに持ち、イスラエル製戦闘機とある種の「血縁」関係にあるという皮肉な事実も、今後の地域の安全保障情勢に複雑な影を落とすことになるだろう。

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