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ロシア、唯一の空母の廃棄を検討か?2017年以降一度も出航せず

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ロシア国防省が、同国海軍唯一の航空母艦「アドミラル・クズネツォフ」の廃棄を検討していると報じられている。この空母は2017年を最後に一度も出航しておらず、2018年からは修理と改修のためドック入りしていたが、改修は度々遅延していた。

Бремя ремонта: крейсер «Адмирал Кузнецов» могут сдать на металлолом

ロシアの日刊紙イズベスチヤの報道によれば、関係筋の話として、2018年からムルマンスクの第35船舶修理工場で修理と近代化改修が行われている航空母艦「アドミラル・クズネツォフ」の修復を国防省が拒否する可能性が出てきたという。同紙によると、同艦の修理と近代化改修は既に中断されており、その将来については近い将来に結論が出る見込みだ。海軍本部と、同艦の修理を請け負うユナイテッド・シップビルディング・コーポレーション(USC)の代表者たちは、ロシア海軍唯一の空母を艦隊の戦闘構成に戻すことが適切かどうかについて協議を重ねている。

元太平洋艦隊司令官セルゲイ・アヴァキヤンツ提督はイズベスチヤ紙の取材に対し、この空母の必要性について疑問を呈した。「たとえ近代化改修が実施されたとしても、ロシア海軍はアドミラル・クズネツォフを必要としていない。長期的には、ロシア海軍は従来の形態の航空母艦を必要としません。航空母艦は過去の遺物です。巨大で高価な建造物でありながら、近代兵器で数分で破壊されてしまう。これは非常に高価で効果のない海軍兵器です。未来はロボットシステムや無人機を搭載した空母の手に委ねられています。もし修理を継続しないという決定が下された場合、残された唯一の選択肢は、アドミラル・クズネツォフを回収し、スクラップとして解体し、処分することだけです」と述べ、空母の有効性に対する厳しい見方を示した。

「アドミラル・クズネツォフ」の波乱に満ちた歴史

アドミラル・クズネツォフはソ連時代の1982年に起工され、およそ8年をかけて建造された。ソビエト連邦が崩壊する前年の1990年12月に就役し、北方艦隊に編入された。しかし、ソ連崩壊後の財政難と国内の混乱により、維持に多額の費用がかかる同艦は就役後は目立った活動もなく、満足な修理や整備が行われなかった。十分な数の艦載機を搭載しないまま運用され、予定されたオーバーホールも全く進まず、艦の環境は劣悪になっていった。

しかし、2000年代初頭に原油価格が高騰し、ロシア経済が上向くと、プーチン政権は同艦に予算を割り当て、ようやくまともな整備、修理が行われるようになった。そして2016年には、ロシアが介入していたシリア内戦に派遣され、初めての実戦に参加した。11月初旬にシリアに到着すると、Su-33やMiG-29といった艦載機に、Ka-29やKa-52Kといった攻撃ヘリが同艦を発艦し、シリア国内に空爆を行った。2017年にロシアに戻ると、艦齢30年を超えていたこともあり、耐用年数を25年延長するためにボイラーや発電施設の交換、電子システムの近代化改修を行うためにムルマンスクの第35船舶修理工場でドック入りすることになった。当初の予定では2020年に完了する予定だった。しかし、改修中の事故や火災で計画は度々遅延し、改修完了予定は2024年まで引き延ばされていた。

昨年時点で既に改修は諦めていた?

2024年には、アドミラル・クズネツォフの乗組員からなる機械化大隊第78987部隊が編成され、ウクライナの激戦地に動員されたと報じられた。大隊の人数は一般的に500~1000人規模であり、アドミラル・クズネツォフの乗員は1700人であることから、半数ほどが前線に送られたとされる。もし2024年に改修完了、再就役させるのであれば、少なくとも同年中には乗組員への訓練を始めなければならないはずだ。同艦は7年以上運航しておらず、乗組員のブランクも長い。半数近い乗員を前線に送ったことで、ロシア国防省は空母復活を諦めたのではないかと推測されていた。

また、艦載機であるMiG-29KR戦闘機が2023年秋ごろからクリミア半島に配備されているのが確認されている。ロシア海軍は2013年からMiG-29KRを計24機取得しており、うち1機がシリアでのクズネツォフへの着艦時に墜落している。艦載機は数が少なく貴重であり、再就役させるのであれば温存しておくはずだが、ウクライナに派遣されている状況も、空母の運用再開への意欲が低いことを示唆していた。

廃棄は妥当な判断か?

昨年からの経緯をみると、今回の廃棄報道は驚くべきことではない。そもそも、ロシアはソ連崩壊以降、空母打撃群を揃える気はなかったと思われる。空母の運用には非常に長い整備・訓練サイクルがあり、1隻体制だと整備中や事故・改修中に完全に空母戦力が“ゼロ”になってしまうため、1隻がドック入りしている間にもう1隻が任務に就くという、最低でも2隻体制が必要とされることが多い。アドミラル・クズネツォフも当初は2隻体制で建造が始まっており、同時期に姉妹艦の「ヴァリャーグ」が建造されている。しかし、ウクライナでの建造途中にソ連が崩壊したため、ヴァリャーグはウクライナに編入された。その後、建造中止となり、中国へ売却され、中国初の空母「遼寧」として2012年に就役している。2000年代に経済が復活しても、ロシアは新たな空母を建造せず、空母の設計・建造・運用ノウハウを持つ専門人材も失われていた。

アドミラル・クズネツォフの延命は、軍事大国の威信を保つためという側面が強かったのかもしれない。しかし、改修は遅れに遅れ、今更復活させても、アドミラル・クズネツォフは時代に取り残された旧式艦に過ぎず、効果的に運用できる体制も予算も今のロシアにはない。これらの状況を鑑みると、廃棄は妥当な判断なのかもしれない。

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