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日本はトルコのバイラクタル無人機を購入するのか?中谷大臣が防衛相として初訪問

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中谷防衛大臣がトルコを訪問し、バイカル社(Baykar)、トルコ航空産業(TAI)など複数の軍用無人機企業を視察した。これは日本の防衛政策における無人機・ドローンの戦略的導入を背景に、特に自衛隊への多数の無人機システム配備計画が進められている中で極めて重要な意味を持つ。今回の訪問は、日本の防衛力強化、特に無人航空機システム(UAS)の能力向上を戦略的な柱と位置付ける防衛省の明確な意思を示している。

中谷防衛大臣は8月19日にトルコを公式訪問し、日本の防衛大臣が同国を公式訪問するのは初めてのことであった。ギュレル国防相との会談は予定の60分を大幅に超え、約100分間に及ぶ熱のこもった議論が交わされた。この会談では、両国の防衛産業間の交流に向けた高官級協議の定期開催が合意され、トルコ製無人航空機(UCAV)が主要議題の一つであったと報じられている。会談後、大臣はトルコの航空機・無人機メーカーである「トルコ航空宇宙産業(TAI)」を視察し、翌20日には首都アンカラ近郊にあるバイカル社(Baykar)の施設を訪問した。これは、日本の防衛省がトルコ製無人機の技術導入に強い関心を持っていることを明確に示している。

バイカル社製無人機「バイラクタルTB2」への関心と試験導入

防衛省は、UASの能力強化を戦略的な柱と位置付け、2023年度予算において「小型攻撃用UAV(無人航空機、ドローン)」に30億円、「多用途/攻撃用UAV」に69億円を計上した。この予算でバイカル社が開発生産するバイラクタルTB2無人機を試験導入し、陸上自衛隊で実証試験を行う予定であると報道されており、トルコ製無人機の中で最も導入される可能性が高い機体とされている。

しかし、同じ目的で導入されたイスラエル航空宇宙産業(IAI)製の無人航空機「ヘロンMK II」が2025年8月初めに和歌山県の白浜空港で試験飛行を実施している様子が目撃されているものの、現時点ではバイラクタルTB2が日本に導入されたという情報は確認されていない。中谷大臣はTB2を視察したとされ、導入に向けた前進があった可能性は高い。

バイラクタルTB2の性能と特徴

バイラクタルTB2は2015年6月にトルコ軍に初めて配備された中型の中高度長時間滞空型(MALE)無人戦闘航空機(UCAV)。主に偵察および諜報活動を目的として開発され、電気光学/赤外線カメラ、レーザー指示装置、レーザー距離計、レーザーポインターを搭載している。2015年末にはミサイル発射に成功し、無人攻撃機としても運用可能となった。最大150kgのペイロード、翼には4つのハードポイントがあり、長距離対戦車ミサイル、小型精密誘導爆弾、レーザー誘導ミサイル/ロケットなどを最大4発搭載可能である。誘導弾のMAMは200mmの装甲を貫通する威力を持つ。

TB2の最大の特徴は、短距離対空ミサイルの射程外である高度5000~8200mの高高度を巡航速度130km/hの低速で最大27時間、6000kmを昼夜関係なく飛行できる点にある。これにより、一度飛び立てば長時間にわたって諜報監視活動が可能であり、無人の遠隔操作、自律飛行も可能なためオペレーターの疲労も少ない。操作範囲は基地局から300kmと限定的だが、2020年10月に発表された「バイラクタルTB2S」には衛星リンク機能が付加され、日本の広大な海域を監視する上で十分な運用能力を獲得している。

TB2T-AIとTB3の可能性

さらに、最新のTB2T-AIも日本の検討対象に入っているとされている。TB2T-AIは文字通りAIを搭載し、3基の次世代AIコンピューターによって優れた自律飛行能力を空中戦にもたらす。地形参照型有視界巡航飛行能力を備え、電子戦の脅威下でも作戦のレジリエンスを確保。視覚航法を用いて地形を認識し、自らの姿勢を制御するほか、標的の探知・識別分析、滑走路の視覚認識による完全自律飛行・離着陸も可能である。動的ルートプランニング機能により、最適な飛行経路を自律的に決定し、複雑な作戦環境における効率性と適応性を向上させる。ターボエンジンを搭載し、30分以内に高度30,000フィート以上まで上昇。既存の無人航空機よりも高速に上昇し、高高度を長時間維持することで、空中における決定的な優位性を獲得する。最高速度も300km/hに倍増し、最大離陸重量の強化とペイロード容量の拡大により、戦場でより効果的に、より長時間運用することが可能になっている。

また、空母艦載機仕様のバイラクタルTB3も注目されている。トルコの軽空母「アナドル(TCG Anadolu)」用に開発された艦載無人機で、折りたたみ翼を持ち、短距離離着艦・艦上運用が前提となっている。TB2よりも能力が向上しており、最大巡航速度はTB2の130km/hから296km/hに大幅に増加。ペイロードも150kgから280kgとほぼ倍増し、武器の搭載能力も大幅に向上、高性能なスマートウェポンで戦闘作戦を支援する。アナドルの飛行甲板はスキージャンプ式だが、日本のいずも型にはないため、現状、運用可能かどうかは不明だ。しかし、TB3は折りたたみ翼で、サイズ的にはF-35BやSH-60よりも小さいため、格納庫やエレベーターの制約はクリアしている。

TB2はウクライナ軍も導入しており、ロシア侵攻初期には目覚ましい活躍を見せた。ロシア軍の行動を上空から丸裸にし、時に対地攻撃も実施。2022年4月のロシア海軍の巡洋艦モスクワの撃沈においては、TB2がモスクワを監視・陽動するなどして攻撃支援に多大なる貢献を果たし、その名をはせた。現在、15か国以上で採用されている。

しかし、ウクライナ軍のTB2の多くは現在、ロシア軍によって撃墜されている。ロシア軍がTB2を分析し、電子信号を解読したという噂もあるが、そもそも、戦闘機が多数撃墜されている強度の高いウクライナの空域で低速の無人機が撃墜されるのは避けられない側面もある。イエメンでは、高高度を飛行するアメリカのMQ-9リーパーがフーシ派によって10機以上撃墜されている。MQ-9の価格が5000万ドル以上であるのに対し、TB2は500万ドルと安価であるため、損耗を前提とした運用が可能であるとも言える。

大型無人機Akıncıへの関心

トルコ空軍の新しい大型攻撃ドローン「Akıncı」

1年前の2024年8月には海将補がバイカル社を訪れ、同社の大型無人機Akıncıの模型を持つ様子が確認されており、日本がこの高性能無人機にも関心を示していることが伺える。Akıncıは独自のツイストウイング構造を備えた翼幅20m、全長12.2m、高さ4.1mの大型無人機だ。両翼のエンジンは450馬力、または750馬力のターボエンジンを選択でき、巡航速度は130~195ノット(240~360km/h)。飛行高度は30,000~40,000フィート(9,000~12,000m)に達し、25時間の連続飛行が可能である。

最大離陸重量は6トン。内部に400kg、外部に1100kgと合計1500kgのペイロード能力を有し、トルコのRoketsanによって開発されたレーザー誘導爆弾(MAM-L)、射程240kmの長距離空対地巡航ミサイル、トルコのTÜBİTAK-SAGEによって開発されたMerlinやPeregrineといった空対空ミサイルなど、計9種類の兵器を搭載でき、対地・対空双方のミッションをこなすことができる。高度なEO/IR/LDカメラ、アクティブ・フェーズドアレイ・アンテナ(AESA)、電子支援システム、二重衛星通信システムなど、戦闘機と同等の電子機器を搭載。さらに状況認識をリアルタイムでサポートする”デュアル人工知能アビオニクス”、衝突回避レーダーを搭載し、自律飛行も可能だ。

トルコ政府は軍事兵器の輸出を国策として推進しており、特にバイカル社は無人機技術や製造ノウハウの提供、技術移転に積極的だ。カザフスタンやウクライナでは既に現地生産が行われており、最近ではインドネシアともTB3を60機、Akinciを9機供給し、現地製造も行うことで合意している。

自国の防衛能力強化において、兵器の内製化は極めて重要であり、ウクライナへの軍事支援を巡る混乱からもその必要性が明らかになっている。特に無人機分野において、日本は世界に遅れを取っているため、トルコの無人機技術導入は大きな利点をもたらす。現在、日本は同じく無人機先進国であるイスラエルからの導入も検討しているが、パレスチナ・ガザ侵攻に対する反対意見が多く、トルコ製無人機の採用に傾く可能性が高いと見られている。

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