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米Bell社、ウクライナとAH-1Z攻撃ヘリ、UH-1Y汎用ヘリ導入に向けた意向表明書締結

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ウクライナが米国製の攻撃ヘリコプター「AH-1Z バイパー」と汎用ヘリ「UH-1Y ヴェノム」の導入を検討していることが明らかになり、これは長期化する戦争で消耗したソ連製主力ヘリの代替として、西側製ヘリコプターへの転換を目指す重要な動きと見られています。

Bell Textron Announces Letters of Intent to Explore Significant Cooperation with Ukraine

2025年10月20日、米国の大手航空機メーカーであるベル・テキストロンは、ウクライナ政府との間でAH-1Zバイパー攻撃ヘリ、UH-1Yヴェノム多用途ヘリの導入および産業協力に関する「意向表明書(LOI)」を締結したと発表しました。この合意は、現段階では正式な購入契約ではなく、将来的な米国政府経由の対外有償軍事援助(FMS)に向けた協議の開始を意味します。今後、ウクライナ国防省と米国政府の間で、価格、納期、装備仕様などの詳細な交渉が本格化する見通しです。

ソ連製Miシリーズからの脱却と西側製への転換の必然性

ウクライナ陸軍は長年にわたり、ソ連時代から引き継いだMi-24ハインド攻撃ヘリやMi-8/17多用途ヘリを主力として運用してきました。しかし、ロシアとの全面戦争が始まって以来、多数の機体を失ったことに加え、既存機の部品供給の途絶や整備体制の限界が顕在化しています。世界的に流通しているMi-8シリーズにはサードパーティ製の部品も存在しますが、Mi-24に至っては部品供給が極めて困難で、耐久年数を大幅に超過した機体の近代化改修も事実上不可能であり、攻撃ヘリの取得は喫緊の課題です。

このような状況から、ウクライナ政府は西側諸国製のヘリコプターへの移行を中期的な防衛再建計画の柱に据えています。ベル社製のAH-1ZおよびUH-1Yは、米海兵隊が実戦で長年使用してきた実績があり、その信頼性は非常に高いと評価されています。特に、これらが85%以上の共通の整備基盤を持つ「H-1シリーズ」である点は大きな利点です。これにより、2機同時導入でもパイロットや整備士の訓練、スペア部品の共有化が容易になり、運用効率の大幅な向上が期待されます。

AH-1Zバイパーの性能はウクライナ軍のニーズに合致

スロバキアはウクライナへのMig-29の提供と引き換えにAH-1Z攻撃ヘリを手に入れる
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AH-1Zバイパーは、米海兵隊の主力攻撃ヘリとして2000年代後半に実戦配備された機体で、傑作攻撃ヘリであるコブラ(AH-1W)シリーズの最新進化型にあたります。

  • エンジンと飛行性能: GE社製T700エンジンを2基搭載し、最高速度は約300km/h、作戦半径は約240kmに達します。
  • 構造と耐久性: 4枚ブレードの複合材ローターを採用することで、耐弾性や安定性が大幅に向上しています。機体重量は約8トンで、堅牢な設計により過酷な戦場環境にも耐えられます。
  • 武装: AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイル、APKWSレーザー誘導ロケット、20mm機関砲など多種多様な兵装を搭載可能です。これにより、対戦車、対地支援、対歩兵といった様々な任務に対応できます。
  • アビオニクスと照準システム: 赤外線・レーザー複合照準装置やナイトビジョン対応のヘルメット照準システムを備えており、昼夜を問わず高精度の対地攻撃を実行する能力を有します。これは、現代戦における夜間戦闘能力の重要性を鑑みると、極めて重要な要素です。
  • 高い稼働率と整備性: 米国防総省のデータによると、バイパーの稼働率は90%以上と非常に高く、過酷な環境下でも維持整備が容易な設計が特徴です。これは、前線での継続的な運用が不可欠なウクライナ軍にとって、極めて魅力的な特性と言えます。

これらの特徴は、まさに前線での継続的な運用が求められるウクライナ軍のニーズに合致しており、戦力の中核を担う可能性を秘めています。

スロバキア向け機体の転用可能性と政治的課題

一部の報道では、ウクライナがスロバキア向けに製造されたAH-1Zバイパー12機の引き取りを希望しているとも伝えられています。スロバキアはMiG-29戦闘機13機をウクライナに供与した見返りに同機とヘルファイアミサイル500発を低価格で発注していましたが、国内事情により受領が延期された経緯があります。これを受け、米国政府がウクライナへの移転を検討しているという情報もあります。

しかし、この案が実現するためには米国議会および輸出管理当局の承認が不可欠であり、複雑な政治的調整が避けられません。特に、10月17日にトランプ大統領がロシア側が提示した条件でウクライナに停戦を迫った状況を考慮すると、承認の行方は依然として不透明です。これは、ウクライナ支援を巡る国際政治の複雑さを浮き彫りにしています。

産業協力と技術移転の可能性

今回のLOIにおいて、ベル社は単なるヘリコプターの輸入販売に留まらず、ウクライナ国内における整備・修理(MRO)拠点や一部組立ラインの設立も提案している点で注目されます。これは、ベル社がウクライナ市場への長期的なコミットメントを示している証拠であり、ウクライナ側の「戦後の産業再建および西側軍需産業との統合」という目標と完全に一致します。

ウクライナ国内企業との提携が進めば、単なる装備供与以上の効果が期待できます。技術移転を通じて国内の防衛産業の育成が促進され、長期的な防衛基盤の強化、ひいては戦後の経済復興にも貢献する可能性があります。ベル・テキストロンの代表は声明の中で、「ウクライナは自由のための戦いの最前線にある。我々はその努力を支援し、将来的には同国の航空産業復興にも貢献したい」と述べており、この産業協力への意欲を明確に示しています。

ウクライナが西側標準のヘリコプター運用体制へ移行することは、単なる装備更新に留まらず、NATOとの相互運用性を高める上で極めて重要な一歩となります。これにより、欧米諸国の支援体制との連携が円滑化し、将来的にはより高度な航空戦力の統合運用も可能になると見込まれます。しかし、戦時下での新型機導入は多くのリスクを伴います。パイロットおよび整備要員の教育・訓練、適切な予備部品の確保、そして敵の対空脅威への対応策の確立など、実戦投入には極めて慎重かつ周到な準備が求められます。これらの課題を克服するには、米国およびNATO諸国からの継続的な支援が不可欠となるでしょう。

現在の段階では、AH-1ZおよびUH-1Yの「導入協議が始まった」に過ぎませんが、この動きはウクライナが旧ソ連型装備から完全に脱却し、西側の防衛エコシステムへ統合される、極めて大きな転換点になる可能性を秘めています。これは、ウクライナの防衛力近代化における新たな章の始まりを告げるものと言えるでしょう。

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