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次世代戦闘機GCAPに走る亀裂 英伊対立とFCAS破綻の共通点

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©BAE Systems

日英伊の三カ国が未来の制空権を担うべく共同で推進する次世代戦闘機開発計画「GCAP(Global Combat Air Programme)」は、表向きは順調な進捗を見せているものの、その水面下では主要参加国間、特にイギリスとイタリアの間で無視できないレベルの摩擦が生じているとの報道が相次いでいる。この緊張状態は、破綻状態にあるドイツ・フランス間の「FCAS(Future Combat Air System)」の轍を踏む可能性を指摘されており、計画の成功にとって重大な懸念材料となっている。GCAPにおける現在の不安定要素の核は、パートナー間の技術共有の姿勢と、プロジェクトの主導権を巡る根本的な意見の相違にある。

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イタリアとイギリスの間で起きた亀裂

GCAPにおけるイギリス・イタリア間の不和の発端は、イタリア側の強い不満表明にある。イタリアの国防相は公の場で、イギリスがGCAPの中核となる先端技術に関する情報を十分に共有していないと批判。イタリアは、イギリスの姿勢を「過度に秘密主義的(overly secretive)」と非難。これは、GCAPへの投資額を大幅に拡大する方針を示しているイタリアが、その資金負担に見合う「対等なパートナー」としての技術アクセス権と、国内産業への相応の産業的見返りを強く要求していることの表れである。イタリアは、単なる機体の一部分を製造する下請け的な役割ではなく、プロジェクトの設計思想や技術開発における主導的な役割を求めている。

一方、イギリスは、GCAPの前身である「テンペスト(Tempest)」計画以来、独自に培ってきたステルス技術、センサーフュージョン、先進的なエンジン技術などの機密性の高い先端技術を、主導国として厳格に管理したい意向が強い。技術共有に慎重な姿勢を崩さない主な理由として、国家安全保障上の懸念と、将来的な第三国への「輸出管理」の必要性を挙げている。先端技術が安易に流出することを防ぎ、英国の防衛産業の競争優位性を維持したいという思惑が背景にある。

スケジュールと日本への影響

この英伊間の不和が長期化した場合、技術共有の範囲や、それに伴う産業分担・予算協調に関する再交渉が不可避となり、開発スケジュール全体に遅延を生じさせるリスクがある。これは、GCAP全体を監督する政府間機関「GIGO(Global Combat Air Programme International Government Organisation)」による調整に大きな負荷をかけることになる。日本の防衛関連企業が担当する通信システム、機体構造、統合システムなどの重要分野においても、先行技術の共有の遅れや、設計仕様の変更を余儀なくされる可能性があり、日本の権益にも間接的な影響が及ぶ可能性がある。

「FCAS」の教訓:構造的な矛盾が生む国際共同開発の失敗

現在のGCAPの緊張状態が、多くの専門家によって、フランス・ドイツ・スペインが推進する「FCAS(Future Combat Air System)」の停滞・迷走の過程と重ねて論じられている点は極めて重要である。
FCASでは、新世代有人戦闘機(NGF:Next Generation Fighter)の設計主導権を巡り、フランスとドイツが激しい対立を繰り広げた。特に、フランスのダッソー社とドイツのエアバス社という主要な産業界のアクター間での知的財産権(IP)と作業分担を巡る交渉が長期にわたり停滞し、計画は事実上の機能不全に陥った。FCASの本質的な失敗の原因は、「対等な国際共同開発」という大義を掲げながら、実際には特定の主導国(この場合はフランス)が支配的な地位を占めるという構造的な矛盾にあった。この政治的信頼の喪失が、技術的進捗を阻み、国際防衛協力の難しさを示す典型例となった。

GCAPにおける英伊の対立も、規模や技術領域は異なるものの、「先進技術を握る国(英国)と、投資に見合う見返りを求める国(イタリア)という権限の非対称性」という点で、FCASと同じ構造的リスクを内包しているとの指摘が少なくない。この非対称性の解消こそが、GCAPが国際共同開発の成功モデルとなるか、それとも「第2のFCAS」となるかの分水嶺となる。

ドイツの関心と複雑化

GCAPの動向にさらなる複雑さを加えているのが、FCASの停滞を受けてドイツがGCAPへの関心を示しているという動きである。ドイツにとって、GCAPはフランス主導色が濃いFCASとは異なり、より柔軟で、国際的な輸出市場を意識した計画に映っている。さらに、イギリス、イタリアとは既存の多目的戦闘機「ユーロファイター・タイフーン」の共同開発・運用で培った協力関係があることも、参加検討を後押しする要因となっている。ドイツの参加は、GCAPに新たな資金力と、欧州最大の経済大国が持つ技術力をもたらし、計画のポテンシャルを大いに高める可能性がある。

しかし、ドイツのような新たな主要参加国を迎え入れることは、同時にGCAPの不安定要素を増大させる。FCASが失敗した最大の理由が「参加国間の権限争いと作業分担の調整の失敗」であったことを鑑みれば、ドイツが加わることで、既存の英伊日に加え、新たなパワーバランスと産業的要請が持ち込まれ、作業分担や設計主導権を巡る調整がさらに複雑化するリスクは否定できない。GCAPがFCASと同じ轍を踏む可能性が、一層高まることになる。

調整役としての日本の役割

こうした英伊間の緊張の中で、日本がGCAPにおいて果たすべき役割の重要性が高まっている。日本は、機体の設計・運用思想の中核を担う重要なパートナーである。GCAPプロジェクトを運営する政府間機関「GIGO」の本部は英国に置かれているが、そのトップには日本人が就任している。この事実は、日本が単なる技術提供国としてだけでなく、プロジェクト全体のガバナンスとパートナー間の信頼構築において中立的な調整役としての役割を期待されていることの証左である。
現時点では、英伊対立が直ちに日本の権益を直接損なう状況にはないが、GCAPが「第2のFCAS」となることを防ぐため、日本は外交的な手腕を発揮し、英伊間の不信感を管理し、技術の透明性と主導権の均衡を保つための仲介役として、その存在感を高める必要がある。

GCAPは今、国際共同開発の成功モデルとなるか、それとも失敗事例となるかの重大な分岐点に立っている。この計画の成否は、将来の欧州と日本の航空戦力、そしてポスト冷戦時代における国際的な防衛協力のあり方そのものを大きく左右する歴史的な意味を持つことになるだろう。

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