

2025年11月7日、中国人民海軍に最新鋭の航空母艦「福建」(Type-003)が正式に就役しました。この「福建」は、これまでに運用されてきた「遼寧」や「山東」といった、旧ソ連時代の設計を基にしたスキージャンプ方式の空母とは一線を画し、中国が独自開発したされる電磁式カタパルト(EMALS)を搭載した画期的な空母です。中国側は、この「福建」が同じく電磁式カタパルトを搭載する米海軍の「ジェラルド・R・フォード級」空母に匹敵すると宣伝していますが、両者の性能には根本的な違いが存在します。特に、動力源がディーゼルエンジンである「福建」と、原子炉を搭載する「フォード級」とでは、その作戦能力や持続力において大きな隔たりがあるのが実情です。
11月7日、習近平国家主席出席のもと、中国人民海軍3隻目の空母「福建」の就役式典が行われたpic.twitter.com/afIjG6Uh0v
— ミリレポ (@sabatech_pr) November 7, 2025
「福建」の就役は、中国海軍の近代化における歴史的転換点と位置付けられています。これは、スキージャンプ方式では離艦重量が制限され、早期警戒機(AWACS)や重装備戦闘機の運用が困難だった問題を克服したことを意味します。福建は、米国のフォード級と同じCATOBAR(Catapult Assisted Take-Off But Arrested Recovery)方式を採用し、さらに従来の蒸気カタパルトではなく最新のEMALSを装備することで、離艦エネルギーをより精密に制御できるようになりました。この技術革新により、新型ステルス艦載機「J-35」や艦載早期警戒機「KJ-600」の運用が可能になると見られており、中国海軍の空中警戒・指揮統制能力は飛躍的に向上する可能性があります。


しかし、米国は2017年に「ジェラルド・R・フォード級」の一番艦を就役させ、既に複数の任務をこなしており、世界最強・最先端の空母打撃群を維持しています。両者を比較すると、「福建」はこれまでの中国空母と比べ飛躍的な進歩を遂げたものの、依然として「フォード級」との間には「成熟度の差」が明確に見えてきます。
主要な性能比較
- サイズと排水量:
- 福建: 満載排水量約8万〜8万5千トン、全長約316mと推定されています。
- フォード級: 満載排水量約10万トン、全長333m。サイズの上ではほぼフォード級が少し大きいくらいで、どちらも「スーパーキャリアー」のカテゴリーに属します。
- カタパルトと航空機運用能力:
- 福建: 飛行甲板には3基のカタパルトと3本の着艦ワイヤが設けられ、同時多発的な発着艦が可能です。搭載機数は約40〜60機とみられ、前級の「山東」の約30機を大きく上回ります。
- フォード級: 4基のカタパルトを搭載しており、理論上は福建よりも30%多い出撃数を実現できます。約60〜75機の航空機を運用でき、F/A-18E/FスーパーホーネットやE-2D早期警戒機、F-35Cなど多様な機種を既に運用しています。艦載機の種類と整備能力においても大きくリードしています。
- 技術的成熟度と運用ノウハウ:
- フォード級: 開発当初、EMALSや先進兵装昇降機(AWE)、着艦拘束装置(AAG)といった新技術の不具合により試験が難航しましたが、現在では信頼性が大きく改善されています。特に2024年以降のNATO演習では高頻度発艦(Sortie Rate)の改善が確認され、1日あたりの発着艦回数が従来型ニミッツ級を上回ると報告されています。数十年にわたる空母航空団(Carrier Air Wing)の運用ノウハウも蓄積しており、実戦的な運用能力は極めて高いです。
- 福建: まだ訓練段階にあり、実戦的な航行試験を始めたばかりです。電磁カタパルトの安定稼働や艦載機との連携精度など、多くのデータ蓄積と検証が必要です。そもそも、問題があってもそれが明るみにでないので実情はわかりません。米海軍が数十年かけて築き上げた「航空母艦文化」に中国が短期間で追いつくのは容易ではなく、特にカタパルト発進・着艦回収の統合運用や夜間発着などの習熟には時間を要すると見られています。
推進方式における決定的な違い
両艦の最も大きな違いは、その「推進方式」にあります。
- フォード級: A1B型原子炉2基を搭載した原子力空母であり、燃料補給なしで25年以上の運行が可能です。これにより、長期間の洋上展開や高出力電力供給(EMALSや先進レーダー駆動)を維持できるため、世界中のあらゆる海域で作戦を展開する能力を有しています。
- 福建: 中電圧直流統合発電システム(MVDC)を搭載し、エネルギー効率を飛躍的に向上させているものの、通常動力(ディーゼルエンジン)で航行します。このため、1万8000km航行すると燃料補給が必要とされ、航続距離や作戦持続力は補給艦への依存が不可避です。南シナ海や西太平洋のような近海での行動には十分ですが、インド洋や中東などへの長期展開には制約が生じます。これが、中国海軍が「地域海軍」から「遠洋海軍」へ移行する上での最大の課題となっています。
それでも「福建」の就役は、中国海軍にとって極めて象徴的な意味を持ちます。スキージャンプ空母からカタパルト空母への転換は、単なる技術的進歩に留まらず、中国の海洋戦略における質的転換を意味するものです。「福建」は今後、海南島の三亜基地や青島基地を中心に配備され、南シナ海・台湾海峡・西太平洋における航空優勢確保の中核を担うとみられています。
さらに中国は、すでに次世代原子力空母「Type-004」の設計にも着手しており、「福建」はその橋渡しとなる「実験的量産艦」の役割を果たすとされています。これは冷戦期のソ連が米空母に対抗するために段階的に大型艦を開発した過程と類似していると指摘されています。原子力推進による航続力、成熟した整備・運用体制、そして実戦経験の蓄積という点で、米海軍との差は依然として大きいのは事実ですが、中国海軍の急速な近代化の歩みを考えると、数十年後にはその状況がどうなっているかは分かりません。
