
ロシアと国境を接するリトアニア、ラトビア、エストニアのバルト三国とポーランドの4か国は対人地雷の使用禁止を定めたオタワ条約からの脱退を表明した。4か国はロシアからの侵攻に備え、国境の守りを強化するため対人地雷の設置と備蓄を始めることになる。
NATO北大西洋条約機構の加盟国であるポーランド、リトアニア、ラトビア、エストニアの4か国の国防大臣は、隣国ロシアの軍事的脅威を理由に、対人地雷を禁止するオタワ条約から脱退する計画であると3月18日火曜日に共同で声明を発表した。以下、声明文の内容になる。
対人地雷禁止条約(オタワ条約)の批准以来、この地域の安全保障状況は根本的に悪化しています。ロシアとベラルーシに隣接するNATO加盟国に対する軍事的脅威は大幅に増加しています。ロシアの侵略と欧州大西洋共同体への継続的な脅威によって特徴づけられるこの不安定な治安環境を考慮すると、抑止力と防衛力を強化するためのあらゆる措置を評価することが不可欠です。
現在の安全保障環境において、同盟の脆弱な東部戦線の防衛を強化するために、新たな兵器システムや解決策の潜在的な使用に関する柔軟性と選択の自由を防衛軍に与えることが最も重要であると我々は考えています。これらの考慮に鑑み、我々、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドの国防大臣は、全員一致でオタワ条約からの脱退を勧告します。この決定により、我々は明確なメッセージを送っています。すなわち、我々の国々は準備ができており、領土と自由を守るために必要なあらゆる手段を講じることができるということです。
脱退後も、我々は武力紛争時の民間人の保護を含む国際人道法を遵守します。我々の国々は、安全保障上のニーズに対処しながら、これらの原則を守り続けます。我々が直面している深刻な安全保障上の課題を認識し、この件に関する我々の決定を尊重してくださるすべての同盟国およびパートナーの理解と支援に感謝します。
※引用元 声明文
https://kaitseministeerium.ee/sites/default/files/4_ministers_statement_on_ottawa_convention.pdf
声明では、ヨーロッパの安全保障状況の悪化、4か国がNATO加盟国の最前線としてロシアとその同盟国であるベラルーシに隣接し、軍事的脅威に晒されており、ロシアの侵攻に備える必要がある事を強調。そのための抑止力として対人地雷の必要性を訴えている。ただ、条約こそ脱退するものの、その目的への強い支持を再確認し、国際安全保障環境の変化に対応しながらも、対人地雷の禁止と被害者支援の重要性を強調。また、条約の普遍化と完全履行を促進するための国際協力の必要性にも言及している。
エストニアとラトビアはロシアと陸地で国境を接しており、リトアニアとポーランドはロシアの飛び地カリーニングラード、そして、ラトビア、リトアニア、ポーランドはベラルーシと接している。ポーランドとバルト三国は、ウクライナ戦争の終結後、ロシアが再軍備し、次に自分たちを標的にするのではないかと懸念している。これら4カ国はいずれも過去、ソ連/ロシアの侵攻を受け、支配下にあった。
バルト三国は2024年初めにロシアとの国境沿いの防衛線を強化することに合同で合意。その際、地雷原を設置するためにオタワ条約の脱退の検討も開始された。防衛線の強度に違いが出ては、そこを攻められるので三か国足並みを揃える必要があったのと、国際社会の目もふまえ協議は難航していた。今回、それにポーランドも巻き込み、共同で脱退する事に合意した形だ。今回の声明では発表しなかったが、同じくロシアと国境を接するフィンランドもオタワ条約の脱退を検討をしていると発表しており、脱退は時間の問題と思われる。ヨーロッパとロシアとの国境沿いは今後、地雷原になるかもしれない。
オタワ条約
対人地雷は意図しない形で民間人を無差別に殺傷するものであり、埋められた地雷は永続的に負の遺産として残り紛争が終わった後も地域に住む人を苦しませている。このような悲劇を繰り返さないために1997年にカナダの オタワで「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約」が採択された。日本も参加する条約になり、現在164か国が参加している。しかし、この条約、アメリカやロシア、中国、インドといった軍事大国は参加していない。ただ、アメリカについては2014年、オバマ大統領が米軍において「対人地雷を使用せず」という方針を決定し対人地雷の使用は禁止された。ただ、条約には加盟しておらず、朝鮮半島の有事をふまえ韓国、北朝鮮の軍事境界線については例外としている。ロシアは非加盟のため、ウクライナで対人地雷を使用。自国内でないこともあり、散布式対人地雷やブービートラップをウクライナ各地に所狭しと設置している。それに対し、ウクライナは条約の批准国であり、国際社会の目もあるため、当初、対人地雷が使用できず不均衡が生じていたが、2024年11月に米国が使用及び、供給を容認。しかし、自国内に対人地雷を設置する事には抵抗があるため、使用は限られている。