
イスラエルはシリアで影響力を強めるトルコを牽制するために地中海沿岸にあったロシア軍基地を維持し、引き続きロシア軍を駐留させたいと考えており、ロシアとの関係改善を図っているトランプ政権に働きかけを行っていると報じられている。トルコはイスラエルによるパレスチナ攻撃を度々非難しており、2024年11月にはエルドアン大統領がイスラエルとの国交断絶を発表するなど関係は悪化している。
ロイター通信の2月28日の報道によれば、イスラエルはシリアにおけるトルコの影響力拡大に対抗するため、ロシアがシリア国内に設けた軍事基地を維持することを認めることを米国に働きかけていると4人の関係筋が明らかにした。イスラエル当局はワシントンの米国高官やイスラエルの議会代表らと協議し、アサド政権崩壊後のシリアに対するトルコの影響力拡大を阻止するため、ロシアのタルトゥース海軍施設とフメイミム空軍基地を維持する政策を主張している。それはつまり、引き続きロシア軍をシリア国内に駐留させる事を意味する。
イスラエルがロシア軍の駐留を支援する理由は、トルコがシリアの新指導部と連携することに脅威を感じているからだ。イスラエルはトルコが支援するシリアの新イスラム主義政権がイスラエル国境に脅威を与えていると伝えたと、関係筋は語っている。
影響力を強めるトルコ
トルコはシリア内戦時、バラバラだった反政府武装組織の派閥をまとめ2017年に「シリア国民軍(SNA)」を結成させ、資金、訓練、軍事支援を行った。その後、SNAはシャーム解放機構(ハイアト・タハリール・アル・シャーム:HTS)と共に2024年12月、アサド政権を崩壊させた。2025年1月、トルコのハカン・フィダン外相はSNAの各派閥が新設のシリア軍の下に統合されると発表。アサド政権崩壊に貢献したSNAにはもちろん、複数の幹部席が用意されており、シリア国防省は2月、SNAのサイフ・アブ・バクル将軍とアブ・アムシャ将軍をシリア軍の新設第25師団長に昇進させた。また、アサド政権崩壊を主導し、新大統領アハマド・シャラアがリーダーを務めていたHTSにもトルコは資金援助をしていたとされ、新シリア政権ではその影響力を更に強め、ロシアに代わり、シリアで最も影響力が強い外国勢力になろうとしていると言われている。
しかし、イスラエルは2016年に関係を断つまでテロ組織アルカイダと提携していたグループから生まれたイスラム主義組織HTSに公式に不満を示している。アサド政権が崩壊し、ヒズボラといった親イラン武装組織も排除されたが、ロイター通信の報道によれば、イスラエル当局は、トルコの支援と影響力によってシリアがハマスのようなグループの拠点に変貌する恐れがあると懸念している。トルコはこれまでこうしたグループを外交的に支援してきた。また、トルコは新シリア政府に軍事支援を行いシリア国内で活動するクルド人武装組織「シリア民主軍(SDF)」の壊滅させたいと考えている。トルコの支援によりシリア軍が再び力をつけ、過激化し、イスラエルに敵対する事を懸念している。
イスラエルはトルコの影響力拡大を牽制するためにロシア軍を引き続き駐留させる事でロシア軍基地がトルコの支配に対する安定要因、緩衝材として機能できると主張している。アサド政権崩壊によって、ほとんどのロシア軍はシリア国内から撤退したが、ロシア軍の主要拠点だった地中海沿岸のタルトゥース海軍基地とフメイミム空軍基地は規模を縮小しながらも、まだ稼働しており、タルトゥースにはキロ級潜水艦2隻とゲパルト級フリゲート艦1隻、フメイミムにはSu-24飛行隊とパンツィリ-S1防空システムが駐留しているとされる。また、ここからロシア軍がいなくなるとイスラエルの軍事作戦にも影響があるとされる。イスラエル軍によるレバノンやイランに対する空爆に対し、ロシアはこれまで無干渉だったが、もし、これらの基地にトルコ軍が駐留することになれば、今後の作戦に支障をきたす可能性がある。
イスラエルはロシア・ウクライナ戦争では中立外交を行い、ロシアとも関係維持に努めていた。しかし、ロシア軍の駐留を支援することになれば、ロシア軍の軍事的正当性を認めることになり、国際社会、特に欧州からの反発が強くなる可能性がある。イスラエルよりのトランプ大統領だがシリアの優先順位は低く、また、米国はシリアでトルコと対立するクルド人武装組織を支援しており、これ以上の干渉はトルコとの関係悪化を招く可能性がある。