
北朝鮮の国営メディアは8日土曜、金正恩総書記が建造中の原子力潜水艦を視察したと報じた。全容は不明な点が多いが、韓国メディアは弾道ミサイルが発射可能な戦略ミサイル原子力潜水艦の可能性が高いと報じている。
聯合ニュースといった主要韓国メディアの8日土曜の報道によると、北朝鮮朝鮮中央通信と労働新聞は、金正恩総書記が「核動力戦略誘導弾潜水艦」プロジェクトを視察し、建造状況を把握したと報じた。”核動力”は”原子力推進”を意味し、”戦略誘導弾”は核弾頭を搭載した弾道ミサイルを意味するとされ、核動力戦略誘導弾潜水艦は核弾頭搭載可能な潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した「戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)」と見られている。聯合ニュースによれば、北朝鮮が弾道ミサイル原子力潜水艦の建造を明らかにしたのは今回が初めてだ。朝鮮中央通信によると、建造中の原子力潜水艦を視察した金総書記は「国の海上防衛能力は、いかなる必要な海域においても制限なく十分に発揮されるだろう。海軍力をエリートかつ核武装した部隊に発展させることは、国防発展戦略の重要な内容を構成する」と述べたと報じている。
北朝鮮は戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を建造できるのか?
米国に拠点を置くシンクタンク”核脅威イニシアチブ(NTI)”によると、北朝鮮人民海軍は64隻から86隻の潜水艦を保有していると推定されており、規模的には世界最大級の潜水艦隊になる。しかし、その多くは老朽化、整備不良で稼働しているのは数える程しかないとされ、能力も低く、ミサイルも発射できないとされ、脅威度は決して高くない。しかし、北朝鮮が原子力潜水艦(SSBN)を保有することになれば、韓国と米国、そして私たち日本にとっても非常に脅威が増すことになる。SSBNは従来のディーゼル潜水艦よりも潜航時間が非常に長く、隠密性も高い。日本海を抜け、察知されることなく、太平洋まで出る事も可能だ。これまで、北朝鮮の弾道ミサイルは地上から発射され、発射地点、軌道を早い時点で把握することが出来たが、水中に潜む潜水艦からとなると、それは容易ではない。
しかし、国際社会から厳しい制裁を受け、技術不足の北朝鮮が世界でも6カ国しか保有していない原子力潜水艦を独自に建造できる能力を持ち合わせているのか疑問だ。北朝鮮は2023年9月に戦術核攻撃型潜水艦「金君玉英雄号潜艦」を建造したと発表している。同艦には核弾頭搭載可能な準中距離弾道ミサイル「北極星-3」10発を搭載できるとされる。ただ、艦はソ連時代の1950年代に開発されたロメオ型潜水艦をベースにしており通常動力艦と推察されているのに加え、艦の写真とスペックを見た韓国軍と米国の当局者は無理な設計で正常に運用可能な艦ではなく、その性能には欺瞞や誇示があると分析している。ただ、韓国情報部は北朝鮮が潜水艦発射巡航ミサイル(SLCM)システムは既に開発済みと見ている。
しかし、今回は状況が違う。北朝鮮の原子力潜水艦プロジェクトにはロシアが協力していると疑われている。ご存知のように北朝鮮はウクライナに侵攻するロシアに協力し、1万の兵士と兵器を提供している。その見返りにロシアが原子力潜水艦建造に必要な原子炉やステルスといった技術支援を行っていると推察されている。ロシアは1957年に最初の原子力潜水艦K-3レーニンスキー・コムソモールを就役させ、米国に次ぐ、2か国目の原潜保有国に。現在、ロシア海軍は推定64隻の潜水艦を擁する世界最大級の潜水艦隊を率いており、16隻の原子力弾道ミサイル潜水艦(SSBN)、14隻の原子力攻撃型潜水艦(SSN)、11隻の原子力巡航ミサイル潜水艦(SSGN)を保有するなど、米国に次ぐ原潜大国だ。もし、原潜建造にロシアが全面協力しているのであれば、北朝鮮でも原子力潜水艦の建造は可能だろう。韓国の漢陽大学の潜水艦専門家ムン・グンシク氏は、建造中の原潜は6000~7000トンクラスで弾道ミサイルを10発ほど搭載できると推測。早ければ1~2年以内に進水、試験され、配備されるだろうと推測している。