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カタール空爆で「アラブ版NATO創設」の声が再燃も、難しい事情

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イスラエル軍によるハマス幹部殺害を目的としたカタールへの空爆は、中東アラブ諸国間で新たな軍事同盟の検討を再燃させる事態を引き起こしました。これまで中東の多くの国々は米国と同盟関係にありましたが、今回のカタール空爆は、その同盟関係の信頼性に深刻な疑問を投げかけています。

9月15日、アラブ・イスラム諸国は、イスラエルが9日に実施したイスラム組織ハマス幹部を狙ったカタール攻撃を受け、カタールの首都ドーハで50カ国以上の国が参加する緊急首脳会議を開催し、対応を協議しました。会議後の共同声明では、9月9日にハマスとの交渉のためにドーハにいた代表団を標的としたイスラエルの空爆を「卑劣で違法」「国家主権の侵害」と強く非難しました。アラブ諸国・イスラム諸国は一致して、カタールの主権、安全、安定、市民の安全を擁護し、あらゆる措置を支援することを表明しました。

「アラブ版NATO」構想の再浮上

今回の首脳会議では、カタールに対する攻撃を契機として、加盟国間での結束を強化すること、必要であれば法的措置を含む措置を検討すること、将来同様の攻撃があった場合の対応力を強化すること、そして外交面・法的手段の活用を含め、国際舞台での共同立場を明確にすることも条文に記載されました。

さらに、条文には記載されなかったものの、報道によると一部の参加国から「アラブ版NATO」に類する共同防衛枠組みの創設が提案として取り上げられました。現在、中東の安全保障環境は悪化の一途を辿っています。イスラエルによるイランとカタールへの攻撃、パレスチナ問題、イエメンの武装組織フーシ派の動きなどを背景として、アラブ諸国が共同で防衛・抑止力を強化する必要性を強く感じているのです。

「アラブ版NATO」とは何か?

「アラブ版NATO」とは、北大西洋条約機構(NATO)のようなアラブ諸国による集団防衛組織を指します。これは、加盟国の一つが攻撃を受けた場合、それを同盟全体への攻撃とみなし、相互に防衛し合うことを定めた「集団的自衛権」を基礎とします。

しかし、この構想自体は今回が初めてではありません。2015年にはエジプトが初めて提案しました。また、トランプ大統領の第一次政権の時には、イランの影響力拡大を抑止し、中東における米国の負担を軽減するため、アラブ諸国を中心とした安全保障・経済協力の枠組みをつくる中東戦略同盟(Middle East Strategic Alliance:MESA)が提案されています。しかし、結局、これらはいずれも実現に至りませんでした。

アラブ諸国の複雑な内部事情

アラブ連盟には22カ国、イスラム協力機構(OIC)には57カ国の加盟国がありますが、そもそも一枚岩ではありません。同じイスラム教でも宗派(スンナ派 vs シーア派)や、国益(石油資源、安全保障、外交関係)などで対立があります。また、イランやシリア、レバノンは度々イスラエルの攻撃を受けており、パキスタンもインドと国境紛争を抱えています。中東はとにかく問題を抱える国々が集積しています。

アメリカが提唱したMESAでは、サウジアラビア、UAE、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、エジプト、ヨルダンといった、いわゆる中東の穏健派と言われる国々で進められました。しかし当時、サウジアラビアはUAEとバーレーン、エジプトとともに、カタールがエジプトのムスリム同胞団などのテロ集団を支援し資金提供を行っていることを主な理由に国交を断絶していました。MESAは、中東最大規模の軍事力を有するエジプトが抜けたことで、話が立ち消えになったとされています。そもそも、今回の首脳会議でも、2020年のアブラハム合意でイスラエルとの国交を正常化したUAEやバーレーン、モロッコは首脳級の参加を見送っており、この状況でも一枚岩ではない現状が浮き彫りになっています。

米国の抑止力への疑問と湾岸諸国の不安

しかし、今回の事態によって、これらの穏健派と言われる中東諸国は安全保障状況の脆弱性を露呈しました。これらの国々は親米国家であり、アメリカの同盟国および準同盟国です。今回、イスラエルの攻撃を受けたカタールには、地域最大の米空軍基地があります。しかし、今回のイスラエルによる空爆に対し、アメリカは攻撃を事前に把握し、イスラエル軍機を検知したとされていますが、何も反応しませんでした。同盟国の首都への攻撃を全く防ごうとしなかった事実は、「米国の抑止力が必ずしも自動的に安全を保証するものではない」との認識を広めました。特に湾岸諸国のエリート層に、「米国に頼っていても自国の領土・主権が守られるとは限らない」という不安が強まったのです。

アメリカは従来、「友好国に対する攻撃には代償を課す」と主張してきました。しかし今回、イスラエルが米国の同盟国を直接攻撃しても、ホワイトハウスは非難声明にとどまりました。そして、直ぐにルビン国務長官がイスラエルを訪問し、同国への連帯を示しました。このため、湾岸諸国やヨルダン・エジプトなどで、「米国の安全保障保証は相対的に弱体化している」との懸念が広がっており、今回のアラブ版NATO構想の声が再燃した背景にあります。しかし、アメリカはイスラエルが中東で「軍事的優位性(Qualitative Military Edge, QME)」を維持させる必要があると考えており、アメリカ抜きの同盟はこれを許さないだろうという見方も存在します。

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