

YouTube上でロシア軍の戦死者に関する個人情報や戦死者数などの機密情報が公開されたとして、ロシアの裁判所は、これを「違法な情報開示」と見なし、アメリカIT大手Google社に対して罰金を科した。
ロシア国営メディアTASS通信の4月21日の報道によると、モスクワのタガンスキー裁判所は、ウクライナでの特別軍事作戦中に殺害されたロシア軍人の個人情報を開示したとしてグーグルに有罪判決を下した。文書には、「ロシア連邦通信・情報技術・マスメディア監督庁は、特別作戦中にロシア連邦軍の隊員が死亡したこと、その死者の氏名、個人情報、個人データを明らかにする情報を含む情報を、ロシア連邦で発信が禁止されている情報と認定する決定を受け取った」と記されている。同情報には、グーグルが運営する動画共有サイト「Youtube」に投稿された動画の1つで公表されたことが記されている。
動画自体はグーグル社が作成したものではなく、Youtube上でチャンネルを運営する個人または団体によって公開されているが、裁判所は判決文の中で、「YouTubeの利用規約によれば、サービスプロバイダーはデラウェア州の法人であるGoogle LLCである」と述べており、動画公開した者ではなく、サービスを提供し、然るべきを措置を取らなかったとして、サービスプロバイダーであるグーグルの責任を指摘している。裁判所はロシア連邦行政違反法第13.41条(ロシア連邦の法律に基づいてアクセスが制限されている情報へのアクセスを制限する手順に違反したとして、グーグルに対し、380万ルーブル、日本円で670万円の罰金を科した。ロシアはこれまでグーグルには何度か罰金を科しており、最近では今年2月にロシア兵に降伏の仕方を教える動画を含むコンテンツをYoutubeに掲載したとして同じく380万ルーブルの罰金を科している。ただ、この罰金は氷山の一角どころか砂粒にすぎない。
ウクライナ侵攻以降、Youtube上にはロシアに対するネガティブな情報が溢れており、ロシアはグーグルに対しYoutube上での検閲を要求。もちろん、グーグルはそれを拒否。また、グーグルはYouTube上でのロシア国営メディアのプロパガンダ的な動画に対し制限、収益も停止した。これに対し、ロシア政府はグーグルに対して天文学的な罰金を科しており、報道によれば、2024年11月に行政違反による罰金として2澗ルーブルを科した。日本円で約3澗1400溝(こう)円だ。澗は兆の6つ上の単位。当時のグーグルの時価総額が2兆ドル、世界のGDP総額が110兆ドルだ。もちろんグーグルは罰金を支払う気は毛頭なく、支払いの遅れにより罰金は毎日増加している。そもそも、ロシアも支払うとは思っていないだろう。Googleのロシア子会社はロシアのウクライナ侵攻開始後の2022年5月に当局によって、銀行口座を凍結された事により破産を申請し、モスクワ仲裁裁判所により正式に破産と認定され、スタッフも国外に脱出しており、ロシアでの事業は停止している。現状、ロシア国内からグーグルのサービスにアクセスする事は可能だが、一部のユーザーからは、YouTubeなどのサービスの通信速度が意図的に低下させられているとの報告があり、ロシアの通信プロバイダはグーグルのサービスにアクセスできなくなる可能性がある事を警告している。
ロシア国防省はウクライナでの戦死者に関する情報を基本公開していない。ロシア政府はこれらの情報を許可なく公開することは国家機密の漏洩と見なし、情報統制の一環として厳しい対応を取っている。しかし、現状は対応できていないというのが実情であり、海外のサービスまで規制する事は難しい。そもそも、最も多くの機密情報を公開しているのがロシア人実業家のニコライ・ドゥーロフとパーヴェル・ドゥーロフ兄弟が立ち上げた秘匿性メッセージアプリTelegram(テレグラム)とされている。ここには毎日のようにロシア・ウクライナ戦争の情報が速報で公開され、これを引用する形でXやFacebookと他のSNSに拡散し、そして、メディアが報道し、Youtubeでも動画として公開されている。これを統制する事は難しい。中国のようにネット上の情報を完全に統制、検閲するには莫大なシステム構築費用と時間がかかり、現状、そこに費用とリソースを割く余裕は今のロシアにはないだろう。