
サウジアラビアが中国が開発する第5世代ステルス戦闘機J-35の購入を断ったと報じられている。サウジは日本・イギリス・イタリアが共同開発する第6世代戦闘機GCAPへの参画を望んでおり、その姿勢を反映したとされる。

インドメディアのindia.comによるとサウジアラビアは中国が開発を進める第5世代ステルス戦闘機J-35のセールスを受けていたが、これを断ったされている。これは日本、英国、イタリアの第6世代戦闘機開発計画GCAPに参画するための協議を続けるサウジアラビア政府の姿勢を反映したものとされる。ただ、この件について、サウジ当局や中国当局からの公式な発表は出ておらず、今の所は憶測の域を出ていない。もし、事実だとすれば、サウジと中国の関係の変化を示すことになる。
GCAPに参入したいサウジ
サウジアラビアは日英伊が共同開発する第6世代戦闘機開発計画「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」への参画を望んでいる。しかし、日本がこれを拒否。その後、イタリアも同調した。拒否の理由は様々ある。一つは途中参加、参加国の増加による開発計画の遅延だ。GCAPは2035年からの就役を予定しているが、サウジの参画でこれが3年遅延する可能性があると推察されている。二つ目にサウジの参画に開発メリットがないという点。開発には莫大なコストがかかり、サウジの資金力は魅力であり、大量発注も期待できるが、サウジは日英伊の三か国に比べ、航空分野における技術力、産業基盤が乏しく、開発には貢献できないとされる。この他にもサウジは様々な問題を抱えている。GCAPの参画を求める前、サウジはユーロファイター・タイフーン戦闘機の追加購入を計画していたが、これを人権問題を理由にドイツが断っており、頓挫した。サウジと良好な関係を構築している日本は公には批判していないが、サウジの人権状況は国際社会から批判されている。そして、近年、軍事的関係を強化している中国の存在も懸案事項とされている。サウジがJ-35を拒否したということであれば、その懸念を払うためと思われる。
中国と関係を深めるサウジ
中国は近年、中東に積極的に武器を輸出、同地域で主要武器供給国としての地位を確立しつつある。サウジアラビアも顧客の一つであり、近年、軍事的関係を強化している。2016年から2020年の間、中国はサウジアラビアへの武器輸出を過去5年間と比較して400%近く増加させた。2017年にはサウジは中国製の無人機「翼龍II」を数機購入、さらに300機の中国製ドローンを国内で製造する覚書を締結した。2022年2月には40億ドル相当の新たな武器取引を締結したと報じられている。これには無人攻撃機、弾道ミサイル、対ドローンレーザー兵器などが含まれるとされる。サウジは2030年までに兵器の50%を国産化する事を目指しており、国内生産体制を拡大するために中国軍事産業との提携に合意している。これが面白くないのが長年の安全保障パートナーで主要な武器供給国としての役割を果たしてきた米国だ。サウジアラビア空軍の主力戦闘機は200機以上を配備する米国製のF-15だ。第6世代の前に順番的には第5世代のF-35を購入すべきだが、米国はサウジへのF-35の販売に消極的だ。一つが安全保障上の懸念だ。F-35の技術がサウジと関係が深い中国やロシアに流出する事を懸念している。そして、人権問題も意思決定プロセスに影響を与えているとされている。そして、地政学的な問題でイスラエルに配慮し、中東諸国に最新鋭機を販売しないという方針があるとされる。
サウジ参画で調整
当初、拒否感を示していた日本とイタリアだが、2024年11月、サウジアラビアを加える方向で調整に入った。やはり、期待するのはサウジの資金力で、莫大なコストが見込まれることから、資金面での貢献を期待しているとされる。しかし、技術力に差があるため、共同開発というよりは「パートナー」とワンランク下がった位置づけでの参画で、技術共有なども限定されると推測される。ただ、年内にはサウジの参入が決まると言われていたが、協議は難航している。ここで、サウジが中国のJ-35を購入するような報道が流れれば、協議は破談になるだろう。

だが、保険をかけているのか今年2月にはサウジが韓国が開発を進める第4.5世代戦闘機「KF-21ポラメ」への情報アクセスを求めていると報じられている。KF-21は量産間近とされているが、共同開発国だったインドネシアが途中で離脱、当初の計画よりも生産予定数が大幅に削減されており、F-35と変わらない価格になっている。近年、武器輸出国として地位を確立した韓国、サウジが乗り気であれば販売する可能性は高い。また、ユーロファイターの売却を拒んだドイツも、ここにきて容認する姿勢をみている。そうなると、GCAPの開発資金貢献、調達数に影響が出てくる可能性が高い。