

韓国海軍は、コスト増大とウクライナでの海上戦の状況を踏まえ、空母建造計画とそれに伴うF-35B戦闘機調達を中止した。代替として、多様な軍用ドローンを運用可能な多目的無人機指揮艦の建造を選択した。
韓国海軍は当初の空母開発計画を「多目的無人機指揮艦」の開発へと変更し、国会国防委員会に報告した。この計画変更は、5月11日に韓国メディアが報じたもので、開発・運用コストの高さ、海上戦の変化、ウクライナ戦争などの最近の紛争から得られた教訓が考慮された結果とされている。
韓国の空母開発計画


韓国海軍の航空母艦建造計画は、文在寅政権下の2019年に2隻の独島級揚陸艦の軽空母化と強襲揚陸艦3番艦(LPX-II計画)の建造から始まった。2020年代初頭には空母建造計画が「国防中期計画」に組み込まれ、2021年には4万トン級の空母「CVX」計画へと変更された。
CVXは満載排水量45,000トン、全長270メートル、スキージャンプ式飛行甲板と2つのアイランドを持ち、イギリスのクイーン・エリザベス級に類似した設計であった。短距離離陸・垂直着陸型のF-35B戦闘機20機の搭載を想定し、建造費は約3兆ウォン(約3,000億円)、2030年代の就役を目指していた。
しかし、尹錫悦政権下でコストへの懸念と戦略的必要性への疑問が生じ、CVX計画は段階的に縮小され、2023年には関連予算がゼロとなった。最終的にCVX開発計画は中止され、代わりに軍用ドローンとヘリコプターを搭載する「多目的無人機指揮艦」の建造計画へと変更された。新たな無人機指揮艦は、無人戦闘機、偵察機、哨戒機など数十機の無人機を主力として搭載する。有人戦闘機の搭載はなくなったが、攻撃ヘリや対潜哨戒ヘリなど少数の有人機は引き続き搭載される予定である。
空母建造中止の理由
空母建造計画の中止は、高額な取得・維持コスト、運用効果への疑問、人員確保の困難さなど、複合的な要因によるものとされる。巨額の費用が見込まれる空母運用には、艦の建造費に加え、F-35Bの取得・運用費、そして継続的な空母打撃群の運用を維持するには2隻体制以上の空母と護衛艦隊の維持が不可欠である。国防省は、F-35Bを無人機部隊に代替することで、約10億ドルのコスト削減が可能と試算している。また、韓国の地政学的状況や防衛ニーズから、空母導入の戦略的有効性を疑問視する意見も存在し、北朝鮮との緊張や周辺国の動向を考慮すれば、空母よりも他の防衛手段がより有効との見方もあった。加えて、少子化が進む韓国において、専門性の高い多数の人員を必要とする空母の運用は、将来的な人員確保の面で懸念されていた。
さらに追い打ちをかけたのが、ロシア軍とウクライナ軍との間で行われている海上戦闘だ。ロシア・ウクライナ間の黒海での海上戦闘では、当初劣勢だったウクライナ海軍が、無人機、ミサイル、無人艇を活用し、黒海艦隊の旗艦撃沈を皮切りに、次々とロシア海軍の大型艦艇を撃破・大破させ、黒海西部から駆逐することに成功した。特に、2022年11月に創設されたウクライナ海軍の無人艇艦隊は、全長6m程と小型ながらも800kg以上の爆薬を搭載し、クリミア半島周辺に展開する黒海艦隊の全長100m以上の大型艦艇に自爆攻撃を行い、大きな損害を与え、その活動範囲を黒海東端まで後退させた。大型艦艇を持たないウクライナが、無人兵器によってロシア海軍に大きな打撃を与え、黒海艦隊の3割に損失を与えたことは、世界の軍事関係者に衝撃を与えた。開戦初日に制海権を失い、奪還は不可能と思われた状況から、無人兵器によって戦況を覆したウクライナ海軍の戦略は特筆に値する。
韓国海軍は最新のイージス艦や強襲揚陸艦を有し、世界5位の海軍力を誇る。一方、対峙する北朝鮮も戦力だけを見れば世界14位の海軍を擁するものの、艦艇の多くは老朽化、稼働率も低く、実力は低いとされる。通常であれば、最新のイージス艦や潜水艦を保有する韓国海軍が優位に立つと考えられる。しかし、ウクライナでの戦いや中東の紅海での事例が示すように、無人機や無人艇は、たとえ強力な艦隊を持っていたとしても脅威となり得る。特に北朝鮮は近年、ロシアの協力もあってか無人機の開発に注力しており、飛躍的に技術を伸ばしている。そして、イエメンの反政府武装組織による米空母打撃群への無人機・ミサイル攻撃は、その潜在的な脅威を示唆している。このような人工知能とドローン技術の急速な発展を踏まえ、韓国海軍は将来の戦闘環境にはハイブリッド無人システムが適していると判断し、空母ではなく無人機に特化した艦艇の建造を決定したと見られる。