
台湾の造船企業「台湾国際造船集団(CSBC)」は初の国産無人艇「奮進魔鬼魚號(Endeavor Manta)」を公開した。同艇は軽魚雷や高性能爆薬を搭載でき、ウクライナを参考に中国人民海軍の艦隊に対抗するために開発された。
3月25日、高雄を拠点とする造船会社CSBCは台湾初の国産の軍用無人水上艇(USV)「奮進魔鬼魚號(Endeavor Manta)」を公開した。同社によると、この無人艇は台湾海峡で中国海軍に対抗する事を目的に特別に開発されたという。というのも、このUSVは今のロシア・ウクライナ戦争で触発されて開発されている。ウクライナ海軍は黒海でUSVを使って、戦力的に大きく上回るロシア海軍の黒海艦隊の艦艇を次々に撃沈、クリミア半島から追いやった。USVはウクライナとロシアの圧倒的だった海軍戦力差を覆した形だ。同社は昨年、軍用USVの研究開発部門を設立している。エンデバー・マンタは社内で極秘プロジェクトとして開発が進められ、従業員のほとんどが、公開まで同船が開発していることを知らなかったと同社の黄正紅会長は述べている。衛星誘導システムなど海外から購入している中国資本と関係のない企業から購入しており、それ以外のほとんどの部分は台湾で開発生産されている。
スペック
エンデバーマンタは全長8.6m、幅3.7m、満載排水量5トン。船体は繊維強化プラスチック製で、最高速度は65km/h。三胴船設計を取り入れており、これにより航行性能が向上し、耐航性と機動性が向上、黒潮の影響を受ける危険な台湾海峡でも航行が可能となっていると同社は述べている。無人艇として4G、衛星信号、無線周波数など複数の遠隔制御モードを備えているだけでなく、独自に開発したグループ制御モード、自律航行と衝突回避機能、AIターゲット認識、シージャック防止(制御/自爆)機能を搭載。指定された母港に自律航行で戻るが、もし、敵に拿捕されるようなことがあれば自爆する。揚陸艦に搭載可能で台湾海軍の玉山級ドック型揚陸艦であれば約20隻を搭載できる。また、1つの制御ステーションで最大50隻を制御できる。ピックアップトラックなどで牽引して海岸まで移動させることもでき、海岸や河川と水際であれば出発場所を選ばないため、もし、港を破壊されても運用能力を維持できる上に出発点を把握されることもない。積載量は1トンになり、様々なセンサーを搭載することで情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動。武装には軽魚雷が搭載でき、高性能爆薬を搭載して最終的には自爆艇としても利用できる。
台湾海軍での採用予定はまだない。今年6月には台湾国防部直属で兵器システムやデュアルユース技術の開発・製造・販売を行っている国家中山科学研究院がUSVコンテストを実施するが、現状、開発で手一杯のため、参加しないと発表しており、採用はまだ先になりそうだ。
艦隊に対抗できるUSV
台湾が対峙する中国は米国に次ぐ世界2位の海軍を有しており、船の数だけで言えば、米海軍を凌ぐ。単純に真っ向勝負しても、台湾海軍に到底勝ち目はない。そんな中、参考になったのがウクライナ海軍の戦い方だ。ウクライナ海軍はロシアによる侵攻当初に旗艦を失うなど、満足な艦艇を持ちあわせておらず、ほとんど抵抗する事なく黒海艦隊を擁するロシア海軍に黒海の制海権を完全に握られた。しかし、ウクライナ海軍は無人艇に活路を見出した。無人艇は艦船と比べ低コストで量産が容易。小型でレーダーで発見しづらく、出発地点を選ばず、高速で小回りも利く、これに爆薬を搭載して、闇夜に隠れ、ロシア海軍の船に接近し、ことごとく船を破壊していった。ウクライナ軍は空からはミサイルとドローン、海上から無人艇と空と海からハイブリット攻撃を行い、結果、黒海艦隊は主要な大型艦を失うなど少なくとも27隻を失い、戦力の約3割を消失した。圧倒的な戦力差がありながら、ウクライナ海軍は黒海の西側から完全にロシア海軍を追い出している。この戦い方は同じく、中国と圧倒的戦力差がある台湾にとって非常に参考になる。台湾は近年、無人機・ドローンの開発生産を急速に進めているが、無人艇はまだそれに追いついていない。ただ、気がかりなのは中国も軍用無人艇、更に無人潜水艇の開発を進めており、これらの分野においては世界でも先行している。