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自衛隊がベネリM4 A.I.ドローンガーディアン散弾銃を試験調達。対ドローン最終防衛能力を検証

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©Benelli Armi S.p.A.

防衛省(防衛装備庁)が2025年9月、イタリアの老舗兵器メーカー、Benelli Armi S.p.A.(ベネリ・アルミ)製の対小型無人航空機(UAV)対処用散弾銃「M4 A.I. Drone Guardian」を調達したことが明らかになりました。この調達は、国内商社の株式会社FLE(Frontline Equipment)を介して締結され、契約金額は59万2,900円でした。この小規模な金額から、今回の購入は、自衛隊における本格的な装備体系への組み込みに先立つ、試験・評価段階に位置づけられるとみられています。

この散弾銃取得の背景には、ロシア・ウクライナ戦争における戦訓が強く影響しています。安価で容易に入手可能なFPV(一人称視点)ドローンが、爆弾投下や自爆攻撃に使用され、歩兵部隊に甚大な被害をもたらしています。従来の対空兵器では対処が困難であり、低コストで空から大量に押し寄せる新たな脅威に対し、散弾銃のような古典的な火器が、対ドローン(C-UAS:Counter-Unmanned Aircraft System)兵器として世界的に再評価されています。日本国内においても、自衛隊基地や在日米軍基地、政府関連施設へのドローン飛行事案が相次いでおり、国家レベルでの小型無人機対策の強化は喫緊の課題となっています。

Benelli M4 A.I. Drone Guardian

自衛隊では、すでに電子妨害装置(ジャミング)や高出力レーザーといった、ハイテクなC-UAS装備の配備・研究開発を進めています。しかし、これらは高価で大型となることが多く、基地や重要施設の防護には有効ですが、すべての前線歩兵部隊に汎用的に配備するには、コストと運用負担が大きすぎます。そこで導入が検討されているのが、比較的安価で信頼性が高く、運用が容易な散弾銃です。散弾銃は、その広い照射範囲から、小型で高速に動くドローンの撃墜に有効であることが、ウクライナの戦場である程度実証されています。また、電子戦が通用しない状況や、ドローンが至近距離まで接近した際の「最後の防護手段」としてもその価値が評価されています。

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今回購入した「M4 AI ドローンガーディアン」は、ベネリ社が誇る軍用セミオートマチック・ショットガン「M4」を、対ドローン用に特化して改良したモデルです。

  • ベースモデルの実績: M4は1999年から生産されており、12ゲージ弾薬を使用、最大7発を装填可能です。米海兵隊や英陸軍など、世界中の多くの法執行機関や軍隊で採用されている、実績と信頼のあるショットガンです。
  • 「AI」が意味するもの: モデル名の「AI」は、人工知能ではなく「Advanced Impact(高度なインパクト)」の略です。これは、バレルとチョークの両方に独自の特許取得済みシステムを採用していることを示しており、弾丸が長距離でも速度とエネルギーを維持しやすく設計されています。これにより、標準的なショットガンに比べて遠距離のターゲットを攻撃する能力が向上し、より深い貫通力と破壊力を提供します。
  • 性能と弾薬: 最適な交戦範囲は従来のM4と同じく約50mですが、特殊な弾薬を用いることで、弾丸は最大100m以上(境界線ショット)まで到達可能とされています。ベネリ社が推奨するのは、スウェーデンのNorma社がFPVドローン対策として特別に設計した特殊な12ゲージ散弾カートリッジ「AD-LER (対ドローン長距離有効範囲)」です。このカートリッジには総重量34グラムのタングステンペレットが350個含まれており、これにより、装甲が貧弱な小型ドローンの翼やプロペラを効果的に破損させ、無力化することができます。

試験・評価段階での焦点

M4 A.I.の価格は3800ユーロとされ、日本円で約59万円、調達価格とほぼ同じ。この事から今回の調達は1挺のみであるとみられ、あくまで試験・評価目的であることを裏付けています。自衛隊は、この「M4 A.I. Drone Guardian」が、実戦環境でどの程度の戦術的価値を発揮するかを検証するものと見られます。主な評価ポイントとして想定されるのは以下の項目です。

  1. 実効性の検証: 小隊・中隊レベルといった末端部隊におけるドローン迎撃能力向上の実効性。
  2. 環境適応性: 市街地、森林地帯、山岳地帯など、多様な地形別での射撃有効性。
  3. 飽和攻撃への対処: 多数同時に接近するFPVドローンに対しての迎撃率の検証。
  4. 安全性の評価: 散弾の特性上、付近の味方部隊や民間施設への影響、いわゆる「フレンドリーファイア」や「巻き添え被害」のリスク評価。
  5. 複合運用: C-UAS電子装備(ジャミング)と散弾銃を組み合わせた、多層的な運用(ジャミング+散弾銃)の効果。
  6. ロジスティクス: 弾薬消費量や、特殊弾薬の供給体制といったロジスティクス面での課題。

これらの検証を経て、対ドローン装備体系における散弾銃の有効性と必要性が認められた場合に、追加調達や広範な配備計画へと移行する可能性が高いでしょう。

今回のBenelli M4 A.I. ドローンガーディアンの調達は、金額は小規模ながらも、日本が小型無人機対策を国家安全保障上の喫緊の課題と認識し、実装備の検証段階に入ったことを示す象徴的な出来事です。対ドローン兵器のトレンドは、電子妨害装置やレーザーによる「遠距離迎撃」がメインストリームですが、小型ドローンは低空を飛行し、レーダーを回避しやすく、交戦距離が短くなる傾向があります。ウクライナの戦場を教訓として、各国軍隊では「多層C-UAS構想」が採用されており、高価なハイテク装備が破られた際の「最後の砦(Last Line of Defense)」として、ショットガンは明確に位置づけられています。

Benelli M4 A.I. ドローンガーディアンの試験導入は、自衛隊が現代の戦争が直面する新たな脅威に、柔軟かつ現実的に対応するための試験的な一歩です。この散弾銃が本格的な部隊配備に至るのか、それとも評価の結果、別の装備へと戦略が転換されるのか、今後の検証結果が注目されます。

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