

2025年5月、ドイツ、アメリカ、イギリス、フランスの西側四ヶ国は、ウクライナへ供与した兵器に関して、その使用範囲制限の全面的な解除を実施した。この措置により、ウクライナは西側諸国から供与された兵器を用い、ロシア連邦領内の軍事目標に対し、制限を受けることなく攻撃を実行することが可能となった。
Gemeinsam machen wir Europa stark.
— Bundeskanzler Friedrich Merz (@bundeskanzler) May 16, 2025
Darüber waren wir uns beim Treffen der europäischen Staats- und Regierungschefs in Tirana einig. pic.twitter.com/v53Nx7A193
ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は26日、ドイツ公共放送WDRのインタビューに応じ、ドイツ、イギリス、フランス、アメリカがウクライナに対する武器の射程制限を解除したと発言した。メルツ首相は、「ウクライナへの武器供給の範囲に関して、フランス、イギリス、米国はもはやいかなる制限も設けていない。この措置により、ウクライナは自国の防衛、特にロシアの軍事拠点への攻撃が可能となる。これは、ウクライナが現在遂行している戦争において決定的な差異をもたらす。自国の領土内でのみ敵と対峙することを余儀なくされる国家は、適切な防衛を成し遂げているとは言い難い」と述べた。なお、制限解除の時期については明確にされなかった。
2025年5月24日から25日にかけて、ロシア連邦はウクライナに対し、過去最大規模の空爆を実行し、355機の無人航空機(ドローン)と9発の巡航ミサイルを使用した。これにより、子供を含む12名が死亡し、ウクライナの都市部及び民間インフラが深刻な被害を受けた。メルツ首相は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「都市、幼稚園、病院、介護施設を無慈悲に爆撃している」と強く非難し、ウクライナが自衛のためにロシア連邦領内の軍事目標を攻撃する必要性を強調した。メルツ首相は、ロシア連邦との停戦交渉が進展しない現状を踏まえ、「利用可能な全ての外交手段は尽きた」と述べ、軍事的支援の強化が不可欠であるとの認識を示した。そして、北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、ウクライナが自衛のためにロシア連邦領内の軍事目標を攻撃する権利を有すると述べ、同盟国に対して兵器使用の制限解除を呼びかけた。
ドイツはこれまでウクライナに長距離攻撃兵器を供給したことがなかったことから、一部報道機関は今回のメルツ首相の発言から、ドイツ製のタウルスミサイルの供与が実現する可能性が高いと推測している。タウルスは空中発射型の巡航ミサイルであり、射程はイギリス及びフランスがウクライナに供与している「ストーム・シャドウ/SCALP」巡航ミサイルの250kmの倍にあたる500kmの射程を有する長距離巡航ミサイルである。かねてよりウクライナは同兵器の供与を強く要望していた。ただ、タウルスをF-16戦闘機など既存のウクライナ軍の戦闘機に統合するには、F-16で12〜18か月かかると予測している。
アメリカが許可
BREAKING: Trump explodes at a CNN reporter after his promise to “end the war” in Ukraine is exposed as bullshit. Putin isn’t negotiating peace – he’s now ESCALATING. Trump’s response? “You’re fake news.” No answers. Just anger. Trump is mad because Putin humiliated him. Period. pic.twitter.com/FjTbdAIB4c
— CALL TO ACTIVISM (@CalltoActivism) May 26, 2025
意外だったのはアメリカの同意である。これまでロシアより、プーチン大統領に理解を示す姿勢をとっていたトランプ大統領は、5月25日にSNSプラットフォーム「Truth Social」において、ロシアのプーチン大統領を「完全に狂ってしまった」と非難する投稿を行った。これは、ロシアがウクライナに対して大規模なミサイルおよびドローン攻撃を実施し、多数の民間人死傷者が出たことを受けての行動である。「私は長年、ロシアのプーチンと非常に良好な関係を築いてきたが、彼に何かが起きたようだ。彼は完全に狂ってしまった。彼は多くの人々を無意味に殺している。ミサイルやドローンがウクライナの都市に向けて発射されており、全く理由がない。」と述べられており、今回のロシアの攻撃がきっかけでトランプ政権も容認した可能性が高い。
ただし、トランプ政権になって以降、ウクライナに目立った軍事支援は行われておらず、アメリカの許可による影響は現在では限定的である。アメリカはウクライナに射程250kmの弾道ミサイルATACMS、射程150kmの対レーダーミサイルAGM-88を提供している。しかし、これらは全てバイデン政権下で供与されたものであり、トランプ政権下では新たな供与は行われておらず、既に枯渇しているとされる。制限解除、トランプ大統領がプーチン大統領に対し、不快感を露わにしたことで、追加の軍事支援が期待される。
24機のF-16がウクライナに納入された
オランダのルーベン・ブレーケルマンス国防大臣は、ウクライナに対するF-16戦闘機24機の移送を完了した旨を発表した。これまでウクライナへのF-16の納入数は公表されていなかったが、今回の発表により、少なくとも24機以上、すなわち二個飛行隊分のF-16がウクライナへ引き渡されたことが明らかになった。ただし、ウクライナ空軍はこれまでに3機のF-16を失っている。F-16もまた、制限解除兵器に該当する。
昨年9月、西側諸国はロシア領内への攻撃制限を解除したが、その範囲は国境周辺に限定されていた。今回の全面解除により、ウクライナは西側から供与された長距離兵器を用いて、ロシアの軍事インフラや兵站拠点を制約なく攻撃する能力を獲得した。これに伴い、戦況の転換が期待されている。ロシア政府は、ウクライナによるロシア領内への攻撃を支援する西側諸国に対し、深刻な報復措置を講じる可能性があると警告している。