

ドナルド・トランプ大統領は海外への武器販売を効率化かつ、迅速化するため対外武器販売手続きの簡素化を義務付け、配送効率の向上を図る大統領令に署名し、海外販売に関する厳しく規制されたプロセスの改革を命じた。
REFORMING FOREIGN DEFENSE SALES TO IMPROVE
SPEED AND ACCOUNTABILITY
ホワイトハウスは9日、ドナルド・トランプ米大統領が外国への対外有償軍事援助(Foreign Military Sales, FMS)制度の改革を目的とした大統領令に署名した事を発表した。これは、米国の防衛産業基盤を強化し、同盟国との防衛協力を促進し、兵器供給の迅速化と透明性の向上を図る事を目的としている。現在のFMSの非効率性と一貫性のない手続きにより、同盟国に高度な武器を迅速に提供することが不可能になっていることを踏まえ、米国の主要地域における戦略的影響力を維持し、米国が「世界で最も強力で技術的に進歩した軍隊」と「有能なパートナーのネットワーク」を持つことを確実にするために、既存のメカニズムと関連規制を見直し、迅速かつ透明性の高い対外武器販売制度を構築することを決定したと声明で述べている。
トランプ大統領はヘグセス国防長官とルビオ国務長官に対し、従来の兵器移転の優先パートナーのリストを60日以内に作成し、対外防衛販売制度と武器販売承認手続きを改善するよう指示。また、防衛システムの販売の透明性の向上、調達プロセスの最適化、製品の無制限の輸出の確保、武器販売承認手続きの統合などの問題についてルトニック商務長官と協議し、90日以内に計画を提出するよう指示。そして、他国と米国軍需企業が直接取引する「直接商業販売(Direct Commercial Sales, DCS)とFMSをすべて監視するための電子追跡システムを設置する計画を120日以内に提出するよう指示した。
対外有償軍事援助(FMS)は、アメリカ政府と国防総省が外国政府に対して、武器や軍事装備、サービスなどを販売する制度。軍需企業と外国政府が直接取引する商取引ではなく、政府と国防総省が窓口となる軍事支援プログラムであり、アメリカの外交政策と国防政策の一環として運用されている。これにより、武器・兵器だけでなく、それに付随する整備部品、技術支援、訓練などもパッケージで提供され、米軍からの実務的なサポートも受けられる。要求した兵器のリストや規模、金額、米国との関係によって異なるが、要求してから国務省の審査と承認、承認されてからの納入までのリードタイムが長いとされ、調達プロセスが長期化する傾向にあることに対する業界と海外の顧客の不満に応える意味でも今回の命令を「REFORMING FOREIGN DEFENSE SALES TO IMPROVE
SPEED AND ACCOUNTABILITY(スピードと説明責任を改善するための対外防衛販売改革」とホワイトハウスは名付けている。
近年の兵器輸出は好調、しかし、今後は…
今回の大統領令は兵器輸出(貿易輸出)を促進させたい、軍需産業からの支持を得たいというトウランプ政権の側面もあるだろう。アメリカの軍需産業は好調だ。政府の発表によれば、2024年度、有償軍事援助制度に基づき移転された防衛物品・役務および安全保障協力活動の総額は1,179億ドルでした。これは、2023年度の809億ドルから45.7%の増加となる。近年まで武器輸出量が世界2位だったロシアがウクライナとの戦争で輸出を減らす中、米国は直近5年かで世界の武器輸出シェアを43%に増加させている。しかし、トランプ氏は大統領就任後、軍事費の削減を命令。米軍の調達が減る可能性がある。また、アメリカはこれまでウクライナに少なくとも総額1230億ドルの支援を提供。その内、約半分の690億ドルが軍事支援になり、その恩恵を国内軍需企業は受けたが、トランプ氏は就任後、新たなウクライナ支援を行っておらず、これらの支援バブルも今後、縮小していく可能性が高い。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州NATOは軍事力を強化、兵器の近代化と更新を行っており、その内、米国製兵器のシェアは35%とトップだ。しかし、トランプ氏が就任後、ロシア寄りの姿勢を見せたり、ゼレンスキー大統領との意見の相違でウクライナ支援を中断したり、NATO軽視の姿勢を見せたことで、欧州NATOと亀裂が生じた。NATO各国は米国を信頼できる同盟国と見なさくなり、安全保障関連での米国への依存を減らす動きを見せている。特にウクライナへの軍事支援一時停止で米国製兵器を使うリスクが垣間見えた事で米国製兵器の購入を留まる国も出てきた。今や世界2位の武器輸出国となったフランスはこれまで米国に依存していた兵器の分野の開発に着手。また、韓国が欧州でシェア3位と対応してきている。EUは今年3月、ヨーロッパの防衛を強化する最大8000億ユーロという大規模な防衛投資計画を発表。今後、EUでは兵器市場が活発になるが、アメリカの兵器輸出は逆に減る可能性も考えられなくない。今回のトランプ氏の命令はその対策とも読み取れる。