

2025年11月25日夜、ロシア南部ロストフ州タガンログに位置するベリエフ航空機製造企業の施設が、ウクライナ軍による長距離からの精密攻撃を受け、甚大な被害を被ったとの情報が、複数のオープンソースインテリジェンス(OSINT)筋およびウクライナ側メディアによって伝えられました。この攻撃の特筆すべき点は、標的とされた機体の戦略的価値の高さにあります。具体的には、ロシアが長年にわたり極秘に進めてきた空中レーザー実験機「A-60」と、ロシア空軍の将来を担う次世代早期警戒管制機(AWACS)「A-100 Premier」の試験機である「A-100LL」が、この攻撃によって破壊、あるいは修復不可能なほどの重大な損傷を負ったとされています。
Мадяр ввел санкции против рашистских А-60 и Ил-76 pic.twitter.com/ey0BwRdLqV
— восхищённый болгарин™ (@dedzaebal) November 25, 2025
軍事専門家の間では、この事態を「ロシアの航空研究・開発インフラに対する過去最大級の単一の打撃」と位置づける見解が主流となっています。ロシア軍の航空戦力において、極めて希少性が高く、技術的価値が非常に高額な特殊航空機が同時に損害を受けたことは、その将来の軍事技術開発計画に深刻な影響を与えるものと見られています。
空中レーザー実験機「A-60」の損失


空中レーザー実験機「A-60」は、旧ソ連時代の1970年代末から続く、ロシアの空中プラットフォームからのレーザー兵器研究計画の中心を担ってきた機体です。ベース機には耐久性の高いIl-76MD輸送機が用いられ、これに高出力のメガワット級レーザーシステムが搭載されています。この特殊な装備は、大出力の電力供給装置、機体上面に特徴的に設置されたレーザー照射用の大型ターレット(砲塔)、そして精密な目標捕捉を可能にする機首の光学照準システムなどで構成されていました。A-60の主な任務は、高高度を飛行する目標、特に衛星や弾道ミサイルなどへのレーザー照射実験を行うこととされてきました。
この機体は純粋な実験用途に限定されており、製造されたのはわずか2機と極めて希少です。30年以上にわたり断続的に研究が続けられてきたものの、実戦配備された記録はなく、その存在と活動は国家機密として厳重に伏せられてきました。今回被害を受けたとされる個体は、現存するA-60の中で最も活発に飛行試験を行っていた機体である可能性が高く、もし完全に失われた場合、ロシアの空中レーザー兵器開発プログラム全体が、事実上、終焉または大幅な後退を余儀なくされることになります。
専門家は、A-60を単なる「古い試作機」ではなく、「ロシアが衛星対抗兵器能力(ASAT)や、将来的な長距離指向性エネルギー兵器を研究・開発する上で、文字通り唯一無二の飛行実験プラットフォームであった」と評価しています。この損失が事実であれば、ロシアの最先端技術開発、特に宇宙・航空防衛技術に直接的かつ深刻な打撃を与えたことになります。
次世代AWACS開発の中核「A-100LL」試験機の被害


もう一つの重要な標的は、ロシア空軍の次期主力AWACSとして期待されている「A-100 Premier」の開発計画における飛行試験機「A-100LL」です。A-100は、現在運用されているA-50および近代化型のA-50Uの後継機として開発が進められてきました。機体プラットフォームには、最新鋭のIl-76MD-90A輸送機をベースとし、核となるレーダーシステムとして最新鋭のアクティブ電子走査アレイ(AESA)レーダー「Premier」を搭載する計画です。
A-100の開発プロジェクトは2000年代初頭から続く長期計画ですが、西側諸国による経済制裁の影響や技術的な課題により、スケジュールは一貫して遅延気味でした。A-100LLは、その数少ない実験機の一つであり、開発されたレーダーシステムや複雑な指揮管制(C2)システムの空中での性能検証を担う、極めて中心的な役割を果たしてきました。この中核的な試験機が破壊された場合、A-100の実戦配備、ひいてはロシアのAWACS能力の近代化スケジュールは、さらに数年単位での大幅な後ろ倒しが避けられないと予測されます。
この攻撃は、単なる機体の損失に留まりません。ウクライナ軍は戦争が始まって以降、ロシア軍の貴重な現用AWACS機A-50を相次いで撃破しており、ロシアの統合防空・早期警戒網に深刻な機能的負荷をかけてきました。今回の攻撃は、その現用機の後継となるべき将来機の開発基盤そのものに損害を与えるものであり、ロシアの航空戦力にとって極めて大きな戦略的意味合いを持つと分析されます。
攻撃を受けたベリエフ航空機製造企業の施設はウクライナから近い場所に位置し、以前から脅威にさらされていました。しかし、ここはロシア軍の特殊航空機の整備、改修、および試験の拠点として長らく機能した場所です。特にA-50、A-100、そして対潜哨戒機Be-12などの高度な専門性を要する機体の改修・生産を担う、ロシア航空産業の心臓部の一つです。A-60やA-100LLのような高度な試験機は、その搭載技術の秘匿性やメンテナンスの特殊性から、場所を容易に移して維持・運用することが極めて困難です。したがって、この基地そのものへの攻撃は、これらの研究能力を直接的かつ効果的に破壊することにつながります。OSINT分析に基づく報告では、工場内の大型格納庫が破壊され、内部に駐機していた大型特殊機が炎上した痕跡が確認されているとされており、ウクライナ軍が今回の攻撃で「ロシアの将来の軍事力」を明確な戦略目標として狙った可能性が強く指摘されています。
A-60とA-100は、いずれも「量産機」ではありません。これらは「ロシアの未来の軍事技術を担う極めて高価な研究開発資産」です。これらの損失は、単なる戦術的損害という範疇を超越します。ロシアは既に、AWACS部隊の老朽化とA-50の損耗により、その再建と近代化に深刻な課題を抱えていますが、A-100試験機の被害は、この課題解決の遅延を必至のものとします。さらに、空中レーザー兵器研究においても、数年規模の後退を強いられる可能性が高いとみられています。現時点で、ロシア国防省は公式に具体的な損害の詳細を認めていませんが、報じられている通りのA-60とA-100LLの損失が事実であれば、今回のウクライナ軍による攻撃は、ロシアの航空研究開発基盤に対して、間違いなく過去最大級の、そして長期的な影響を残す重大な打撃となるでしょう。
