
米国防総省の国防イノベーションユニット(DIU)は、低コスト長距離一方向無人機の運用評価プロジェクトである「アルテミス計画」の契約企業に4社を選定したことを発表した。この内、2社はウクライナ企業になり、既にロシアに対し実戦で使用されている無人機を選定したと思われる。
アルテミス計画
米国防総省は将来の高強度の戦場に対応するため、低コストで高性能な新型無人機の開発を加速させており、既に成熟した技術を使用して研究開発スケジュールを短縮、大量生産に適し、製造コストが安く長距離飛行可能な一方向・片道無人機、つまり「自爆ドローン」の開発をする事を目的とした「アルテミス計画」を2024年末に開始。求められた要件は50~300kmの飛行能力、電子戦(EW)防御機能を備え、低帯域幅、通信が遮断された状況、全地球測位システム(GPS)のサポートがない環境でも目標を正確に狙え、モジュール設計を使用して継続的にアップグレード、さまざまなセンサーとさまざまな武器を搭載し、米軍の戦闘上の優位性を維持できる必要がある。
ウクライナ企業2社を選定

この要件のもと国防総省傘下で先端技術を持った企業と国防省との橋渡しをする役割を担う国防イノベーションユニット(DIU)は165件の提案を4ヵ月間に及び評価し、3月14日、最終候補4社を選定、試作機を開発するための運用評価プロジェクトを開始する事を発表した。この内、2社は米国を拠点とする無人機・ドローン企業のDragoon社とAeroVironment社になる。AeroVironment社は偵察ドローンのPUMA(RQ-20)や自爆ドローンのスイッチブレードなど米軍に納入しており、スイッチブレードはウクライナでも使用されており実績ある企業だ。ただ、注目すべきは他の2社になり、どちらもウクライナの企業が採択された。ロシアと戦争中のウクライナ、実戦で戦果を上げたドローンが選ばれたと推測されるが、安全上のため、企業名は明かされていない。
ウクライナは1200km離れたロシアのタタールスタン共和国アラブガにある自爆無人機工場を自爆ドローンで攻撃した。 pic.twitter.com/sbGYmks2MT
— ミリレポ (@sabatech_pr) April 2, 2024
ウクライナはロシアとの戦争で独自に無人機・ドローン技術を発展させてきた。火力、兵力で劣るウクライナ軍は民生品のドローンや既存技術を組み合わせて、長距離飛行、ロシア軍の電子戦、防空網を掻い潜る事ができる様々な自爆無人機・ドローンを開発している。2024年4月には前線から1300km離れたロシア中部タタルスタン共和国のドローン工場と石油精製所を自爆ドローンで攻撃している。これを実行したのはウクライナのAeroDroneが開発する無人機で、同社はペイロードによって異なる2つのモデルを開発。80kg搭載可能なD-80 Discoveryと300kg搭載可能なE-300 Enterpriseがあり、半径150kmで通信可能でその圏内であれば、遠隔操作が可能、アンチジャミングシステムも搭載できる。GPS誘導による自律飛行モードでは1000km以上の飛行が可能。350リットルの増槽タンクを搭載すれば飛行距離はなんと3,100kmまで伸びる。価格は価格は25万ドルから45万ドルとされる。DIUは要件として最低50kmの飛行距離を求めていたが、ディフェンスニュースによれば、今回選定された2機のドローンの飛行距離は約 100km、他の2機は1,000km以上飛行できるとされる。おそらく後者がウクライナ企業と推察される。
2024年5月には前線から1800km離れた場所にあるレーダー施設を無人機で攻撃。今年3月には3000km以上飛行可能な無人機のテストを先日行ったと発表しているが、さすがにこれらはDIUが求める要件に対し、オーバースペックだろう。DIUは小型ドローンの場合は2万ドル、大型ドローンの場合は7万ドルのコストを想定しているとされる。だとすると先ほど紹介したウクライナの長距離ドローンは予算オーバーになるが、量産化、生産ラインが整えば、低コスト化は実現可能だろう。選定されたウクライナ企業の内1社は既にロシア軍に対抗するため月産200機の生産体制を確立しているという。
ウクライナは実戦に基づき、試行錯誤、改良を繰り返しながら無人機・ドローンを開発しており、そのレベルは米国を凌いでおり、価格も低コストだ。特に長距離自爆ドローンはミサイルの代替となる低コスト長射程精密兵器として地位を確立している。ロシア軍においても同様でイランの支援を受け、量産化。ミサイルが枯渇する中、ウクライナへの長距離攻撃を続けてりう。おそらく、イランはウクライナでの実戦データをもとに、改良しており、それらはイエメンのフーシ派にも供与されることになる。中国は民生ドローン市場でシェアNo1であり、ドローン先進国。それは軍事にも活かされている。各国で無人機・ドローン兵器開発競争が激化する中、アメリカとしてもウクライナの技術をいち早く囲った形だろう。