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無人で広域監視!NATOが注目する独製水中ドローンGREYSHAR

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ドイツ企業が開発した長距離自律型水中ドローン(AUV)「GREYSHARK(グレイシャーク)」は、欧州の防衛・安全保障市場において、その実用化フェーズへの移行を加速させている。開発元であるドイツのEuroatlas社は最近、複数の欧州政府との間で初の商談・契約を成立させたと公表。これは、本機が北大西洋条約機構(NATO)加盟国を中心に、今後本格的な配備が進められる見込みであることを示唆している。

ロイター通信など複数の報道によると、Euroatlas社は「2つの欧州政府」に対し、GREYSHARKの売却契約を初めて締結したことを発表した。契約の具体的な購入国名や配備規模は非公開とされているものの、購入国はNATO加盟国と目され、契約総額は一部報道で1億ユーロ(約160億円)規模に達すると報じられている。同社はさらに、他の欧州諸国やアジア諸国からも高い関心が寄せられていることを明らかにしている。これらの公表は、GREYSHARKがすでに完全な実戦配備の段階ではなく、「初期導入および試験運用」のフェーズにあることを示している。これは、最先端の防衛装備が実戦配備に至る前の、相互運用性の検証や初期運用概念の確立を進める段階と解釈される。

GREYSHARKの特徴と能力

GREYSHARKは、2024年11月に開催された主要な防衛展示会「Euronaval 2024」でその全貌が発表された。本機は、現代の海洋戦で求められる多岐にわたる任務、具体的には海底インフラの監視・防護、機雷探査(Mine Countermeasures: MCM)、そして潜水艦追跡(Anti-Submarine Warfare: ASW)の初期的な役割をカバーするために設計された最新型の長距離AUVである。その設計思想は、「長距離運用」「高度自律性」「高解像度観測能力」の三つの柱に基づいている。

1. 圧倒的な航続距離と潜航持続時間

GREYSHARKの最も際立った特徴は、従来の小型AUVとは一線を画す「数週間規模のミッション継続」を可能にする長期連続潜航性能である。この性能は、大容量のエネルギー源と、エネルギー効率を最大化する洗練された推進構造によって実現されている。

  • 機種バリエーション: GREYSHARKには、約6.5メートルの「Bravo型」と、より大型の約8メートルの「Foxtrot型」が存在する。
  • Foxtrot型の航続性能: Foxtrot型の場合、通常巡航速度である約10ノット(約18 km/h)で、1,100海里(約2,000km)以上の移動、5日間連続の潜航が可能。さらに、低速の4ノットで航行した場合、最大で約10,700海里(約19,800km)以上という驚異的な航続距離を達成し、最大16週間の連続潜航が可能となる。

この広域かつ長期の運用能力により、従来の有人艦艇や潜水艦では非効率だった広大な海域の継続的な監視や、長距離移動を伴う特殊ミッションの遂行が可能となる。最大潜航深度は約650mとされているが、将来的な深度拡張も視野に入れられている。

2. 低騒音設計とステルス性

軍用AUVにとって不可欠な要素である「低騒音性」も、GREYSHARKの開発における中心的なテーマである。モーターとプロペラには、水中での騒音拡散を極限まで抑えるための特殊な構造が採用されており、敵の潜水艦や水上艦のソナーに捕捉されにくい高いステルス性が意識されている。これにより、機密性の高い偵察・監視任務の成功率を高めている。

3. 高精度な海底観測能力とモジュラーペイロード

GREYSHARKの戦術的価値を決定づけるのは、その搭載能力、特に高解像度センサー群である。本機はモジュラー構造を採用しており、任務に応じて様々なペイロードを柔軟に搭載できる。

ペイロードの種類主な機能と用途
サイドスキャンソナー (Side Scan Sonar)海底の広範囲を迅速にマッピング。機雷、不審な物体、海底構造物の識別・捜索に最適。
マルチビームエコーサウンダー海底の地形を三次元で高精度に取得。海底インフラの監視や詳細な地形調査に使用。
SAS(合成開口ソナー:Synthetic Aperture Sonar)AUV用センサー技術の中で最も高性能。従来のソナーと比較して「桁違いの細密画像」を生成し、微細な物体や損傷の特定に威力を発揮。
水中光学カメラ近距離での視覚的な確認に使用。特に海底ケーブルの損傷確認や近接検査に必須。

これらのセンサーを統合運用することで、水中インフラ監視、機雷探知、海底マッピング、海洋科学調査といった複数の任務を単一のプラットフォームで実行可能となっている。特に、海底ケーブルやパイプラインが国家安全保障上の重要なインフラとして認識されている欧州諸国にとって、この観測能力は極めて高い関心を集める要因となっている。

4. 高レベルの自律AIと音響通信ネットワーク

現代のAUVにとって必須条件となっているのが、高レベルの自律行動AIである。GREYSHARKに搭載されたAI航法システムは、海流の変化、予期せぬ地形障害物、そして水中での通信が途絶した状況下においても、柔軟に判断を下し、ミッションの遂行を継続する能力を持つ。

また、水中での通信は、電波が減衰するため特殊な技術が求められる。GREYSHARKは以下の三段構えの通信システムを採用し、遠隔運用能力を担保している。

  1. 音響通信(Acoustic Communication): 水中でデータを送受信する唯一の主要な手段。通信速度は速くないが、複数AUV間の連携(スウォーム運用)や、遠隔の指揮管制システムへのデータ同期に不可欠。
  2. 水中位置共有モジュール: 複数機が連携して正確な自己位置と他機位置を共有するための技術。
  3. 衛星通信リンク(SATCOM): 浮上時にのみ使用可能で、大量のミッションデータを送信したり、新たな指令を受け取ったりするための高速通信手段。

この通信ネットワーク化の構想により、遠方の広域海域に複数のGREYSHARKを展開し、連携して「海中監視網」を構築する運用形態の実現が可能となる。

GREYSHARKは、単なるコンセプト機ではなく、既に実戦的な検証段階に進んでいる。水中破壊部隊(UDT)や、海洋無人システムに関するNATO演習「REPMUS(Robotics Experimentation and Prototyping using Maritime Unmanned Systems)」といった多国間演習において、プロトタイプや初期の試験機が実際の海域で試験・デモンストレーションを行っている。特にREPMUS 2025への参加も報告されており、NATOの枠組みを通じた相互運用性(Interoperability)や、多国間での戦術的な運用概念の確立が着実に進められている。

欧州諸国がGREYSHARKに強い関心を示す理由は明白である。ロシアとの地政学的な緊張が高まる中、欧州沿岸域ではロシア海軍の潜水艦活動が活発化しており、また、重要な海底インフラ(海底ケーブルやパイプライン)に対する破壊活動のリスクも現実のものとなっている。GREYSHARKのようなAUVは、有人潜水艦や監視船だけでは物理的にもコスト的にもカバーしきれない広大な海域を、低コストで長期的に継続監視し、機雷や敵対的な潜水艦活動を早期に検知する能力を劇的に強化する。有人潜水艦より圧倒的に安価でありながら、長期・広域の自律的な巡回を可能とするGREYSHARKは、現在の欧州の防衛戦略、すなわち「ハイブリッド脅威への対応」と「広域ISR(情報・監視・偵察)能力の強化」に極めて合致した無人戦力として位置づけられている。

メーカーは既に複数の欧州政府との契約成立を公表しているが、具体的な配備国名や規模は引き続き非公開である。しかし、NATO演習での検証実績から、2025年から2026年にかけて段階的な実運用への移行が本格化するものと予測されている。

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