
アメリカ海兵隊は兵士や装備を迅速かつ安全に輸送、避難させるための高速シーグライダーの開発検証を行っている。既に初期検証を終え、第二段階の検証試験に入る。
ロードアイランド州を拠点とする全電動シーグライダーの開発・製造会社であるREGENT Craftは3月26日、米海兵隊戦闘研究所(MCWL)との最初の契約を無事完了し、1,000万ドルの第2フェーズの契約を締結したことを発表した。第一段階のREGENT社とMCWLとの契約の総額は475万ドルで、シーグライダーの技術的実現可能性を実証する12の成果物が含まれており、4分の1スケールのプロトタイプのテストから始まり、今月初めにフルスケールのViceroyプロトタイプの海上試験が成功裏に開始された。今回、契約が決まった第2フェーズでは、実物大のシーグライダープロトタイプの技術的性能を引き続き実証する。また、特定の防衛作戦に適用可能なデモンストレーションも実施する予定だ。同社の防衛担当副社長トム・ハントリーは「米海兵隊戦闘研究所との協力関係を拡大し、REGENTの高速、低シグネチャ、低コストのシーグライダーが防衛ミッションにどのように役立つかを検証し続けることを非常に誇りに思います。私たちの契約の第2フェーズでは、海上領域での争奪戦のロジスティクス活動における彼らの使用事例を実証し、重要な国家安全保障のニーズを満たすことになります。」と述べた。REGENT社はまた、ロードアイランド州ノースキングスタウンのクォンセットビジネスパークに、ヴァイスロイ・シーグライダーの部品製造、機体の最終組み立て、出荷前テストを行う製造施設の建設も開始した。2026年までに運用を開始する予定だ。
ヴァイスロイ・シーグライダー
REGENT社が開発するヴァイスロイ シーグライダーは兵士や装備を迅速かつ安全に避難させるために設計されたプラットフォームで、翼幅19.8m、乗客12名、または1500kgの貨物を乗せることができる。電気推進システムによって駆動し、1分以内に飛行開始、水面スレスレの高度10mという低高度を最高速度289km/hで最長290kmを飛行する。REGENT社のシーグライダーの利点はいくつかあり、まず、水上で離発着するため、空港や港いったインフラを必要としない。電動駆動は補給船という特別なプラットフォームを必要とせずに陸上の電源施設及び水上から船舶経由で充電可能だ。そして、電動駆動は赤外線探知されにくいのと、水面スレスレの高速飛行は海上及び陸上のレーダーに探知されにくいというメリットがある。
新たな海上輸送として期待
従来の空輸プラットフォームは高速と大容量のペイロードを提供するが、長い準備滑走路を必要とし、海上作戦を支援する能力が限られている。ヘリやオスプレイといった垂直離着陸機(VTOL) 及び、水上航空機は航続距離・ペイロード能力が限定され、運用には艦船、又は陸上基地といったインフラに依存するという課題がある。海上輸送の主流、船舶は港湾設備が必要な上、スピードが遅いというデメリットがある。太平洋での緊張が高まる中、米軍はインフラが整っていない沿岸地域、離島間を高速移動できる新しい手段を検討している。シーグライダーは航空機よりスピードと航行距離、船舶より積載量、航行距離は劣るが、インフラに起因せず、コストメリットが高く、沿岸地域、離島間での移動に関してはシーグライダーが適していると考えられている。
シーグライダーはいわゆる地面効果翼機(WIG)で飛行機と高速艇が合わさったような乗り物だ。中途半端な乗り物のようだが、翼と地面すれすれを飛行することで強い揚力を得る事ができ、船の10倍以上のスピードと、同サイズの飛行機よりも多い積載量を手にすることができる。ソ連はかつて「エクラノプラン」というWIGを開発。その一つのA-90オリョーノク(orlyonok)は車両二台と150人の兵士を乗せる事ができた。米軍も将来的にはシーグライダーに積載量100トン、複数台の車両を搭載できるペイロード能力を求めているとされる。REGENT社は100人の乗客または10トンの貨物を積載し、速度225km/hで最大640kmを航行できるモナーク・シーグライダーの開発も行っている。シーグライダーは民間輸送としても期待されており、日本航空はREGENT社と2023年10月に社会実装に向けた包括連携協定を締結し、同社に出資しており、日本でも見られる日が来るかもしれない。