
ロシア軍はウクライナ軍が占領するロシアのクルスク州の大部分を奪還し、ウクライナ軍は撤退を余儀なくされた。ウクライナは停戦交渉の材料として昨年8月からここを制圧していたが、交渉材料を失うことになった。
Rare military Putin, meeting with Gerasimov at Kursk oblast HQ pic.twitter.com/WoGYzqxfTe
— Russians With Attitude (@RWApodcast) March 12, 2025
ロシア国防省は3月9日、ウクライナ軍に占領されていたクルスク州スジャ近郊の3つの村を奪還したと発表。その際、ロシア軍特殊部隊がスジャに通っていた幅1.5mのガスのパイプラインの中を16kmに渡り移動し、ウクライナ軍の背後を奇襲攻撃を行った事を明らかにしている。12日にはロシアのプーチン大統領が同地を軍服姿で訪れ、ゲラシモフ参謀総長から、これまでにクルスク州でウクライナ軍が掌握した地域の86%以上を奪還したと説明を受けた。プーチン大統領は残りの地域も速やかに掌握するよう直接支持を出した。プーチン大統領がウクライナ侵攻後にクルスク州を訪れるのは初めてであり、ロシア領内とはいえ、戦地に赴くのも初めてになる。それもあってか普段見せる事の無い迷彩柄の軍服姿で訪れたのであろう。13日にはロシア国防省がクルスク州のウクライナ軍の拠点であったスジャを奪還したと発表。翌14日にはクルスク州でこの1週間のうちに29の都市や集落を奪還したと発表。勢いにのるロシア軍は隣接するウクライナ北東部のスムイ州に侵入。集落一つを掌握したと主張している。
ウクライナ軍の大部分がクルスク州から撤退
Footage of Russian forces retrieving an abandoned (NWO)Abrams tank after the liberation of Malaya Loknya. pic.twitter.com/8CEhEB2JCC
— Sukhoi Su-57 "Felon"👑ZOV (@75Sukhoi) March 9, 2025
クルスク州に進軍していたウクライナ軍はロシア軍の反攻受けて撤退を余儀なくされ、包囲される危険もあったため3月10〜11日ごろにかけて、ウクライナ軍のほとんどがクルスク州の前線から撤退した。ロシア軍はクルスク州でウクライナ兵数千人を包囲したと主張。トランプ大統領はこれを受けて14日、「ウクライナ兵が包囲されている」と主張。プーチン大統領に、彼らの命を助けてくれるよう強く要請した事を明らかにしている。しかし、ゼレンスキー大統領は15日、部隊の包囲を否定。ウクライナ国防省も14日に撤退した事を発表している。第三者の分析機関も多少の混乱はあったが、秩序だった撤退が行われたと分析している。ただ、撤退なので少なくとも代償は伴った。同地にはウクライナ軍最強の機械化旅団「第47独立機械化旅団」が配備されていたが、撤退猶予時間が少なかったこともあり、彼らが持っていた、米国製のM1エイブラムス戦車、M2ブラッドレー歩兵戦闘車、M777牽引式榴弾砲など多くの兵器を回収できずに無傷に近い形で放棄せざるを得なく、ロシア軍に鹵獲された。しかし、人命を優先した結果、数千人の兵が撤退に成功している。
情報共有停止のタイミングでの反攻
今回のロシア軍のクルスク州での反攻はアメリカによるウクライナへの軍事支援停止のタイミングで行われた。特に情報共有の停止の影響が大きく、衛星などが使えず、ウクライナ軍がロシア軍の動きや位置をリアルタイムに把握できずに奇襲を受けたと言われている。特殊作戦偵察グループを指揮するナディラゼ氏はアメリカの決定について「我が部隊に最も大きな打撃を与えた。彼らの動きに関するデータも衛星画像もない。我々はクルスクを7カ月間制圧しており、米国がリアルタイムの情報共有を遮断していなければ、もう少し持ちこたえられただろう」と強調している。更にタイミングが良く、用意周到なロシア軍の攻撃からアメリカ・ロシア間で軍事支援停止の事前共有があったのではとも疑われている。もちろん、それを示す証拠はないが、アメリカの決断に不信感を持った者は多い。そして、結果的にウクライナ軍は停戦の交渉材料として考えていたクルスク州を失った。まだ、同地から完全撤退した訳ではないが、戦況は不利だ。昨年夏にクルスク州を制圧した際は、ロシア領内に攻め込んではこないだろうというロシア側の油断をついた奇襲攻撃によって成功できたが、今後はそうはいかない。
アメリカが提案する「30日間の停戦」についてもウクライナのゼレンスキー大統領は同意しているが、ロシアのプーチン大統領は、戦闘を停止させる用意はある旨を発言しているが、その間にウクライナが再軍備の懸念を表明。西側による兵器供給の停止、停戦を護っているかの監視団の設置を要求している。ただ、これはロシア側にも言える事で、その間にロシア軍も再編する可能性もある。多くの戦線でロシア軍が押しており、現状、ロシア側に停戦するメリットは少ない、むしろ、停戦によってその勢いがそがれる事を懸念している。プーチン大統領のクルスク州の訪問は当初日程になかったもので、その軍服姿からアメリカのトランプ大統領が要求した「30日停戦案」を受け入れない、戦争継続というというメッセージの表れとの分析が出ている。トランプ大統領は停戦のボールはプーチン大統領にあると言っているが、プーチン氏はどのようなボールを投げ返すだろうか。